頭にきたらおしまい
果たして僕は父さんや妹の所に行ける… かな。
俺はそんな事を考えながら、駅のホームに立っている。
『まもなく2番のりばを急行列車が通過いたします。ご注意ください……』
ホームに独特のメロディが流れると、自動アナウンスが列車の通過を告げた。
この急行が通り過ぎた後に来る6時5分発の下り普通電車。
こんな早い時間の電車に乗る学生は部活の朝練か、遠くの学校に通っているかのどちらかって事になるんだが、片丘の場合は前者だよ。
あいつの父親は庶民派で売っている副知事サマだから、通勤には年季の入った軽自動車を使っている。それなのに息子を車で送り迎えさせるなんて筈がない。
本人もサッカー部の次期部長の座を、親父に買ってもらったとは言われたくないだろうからな。
だから、あいつは嫌々ながらも電車通学をしているんだ。
それを知ったから、僕はこうする事を選んだんだけどね。
「よう、片丘」
「なんだ、クズ野郎、朝っぱらからキモイ顔見せるんじゃねぇ」
僕はわざと小さな声で話す。
「それは僕のセリフだよ。朝から汚物を見るなんてなぁ」
あえて煽った。
「なんだコラ! 殴られてぇのか、ああ?」
「そして『殺す』とか言うんだろう? 出来もしないのにカッコつけるなよ」
ああ、気持ちが良いなぁ。
何があろうと、いったん覚悟を決めてしまえば不思議と恐怖は無い。
馬鹿な片丘が僕に掴みかかってきたのを少しだけ後ずさりして、かわす。
あれだけ殴られてきたんだから、あいつのクセなんかお見通しだ。
胸ぐらをつかみ損なったあいつは、そのまま拳を振りかぶった。
体勢を崩しかけたまま、オーバーアクションになりながら、腕を振り回す。
あれが当たったら、歯が折れるくらいは覚悟しなくちゃならないだろう。
当たれば、ね。
僕は、そっと右足を、半歩だけ後ろに引いた。
そのまま上半身もタイミングを見計らって、すっと後ろにさがる。
次の瞬間、奴の腕が鼻先を通り過ぎるのを見て、ふっと笑って見せた。
「やっぱり出来ないじゃないか、このヘ・タ・レ・く・ん・?」
「てめ、このクズ野郎めぇ、死ねやコラあ!」
かかった。
あれから数日というもの奴を挑発して『死ね』『殺してやる』という言葉を使わせるように誘導してきたんだ。
結果的には殴られるんだが、俺が被虐趣味という訳じゃない。
片岡に対して一種の条件付け──あいつをパブロフの犬にするためだ。
学校では、僕がいじめられているのを知ってる筈なのに、誰も──教員さえも見ないふりをしてきた。
友達同士でじゃれ合っているだけだと、決めつけられて終わり…… だった。
たぶん、たっぷり嗅がされた鼻薬と副知事の権力のせいだろう。
だけど、ここは学校じゃない。大勢の人がいる国鉄の駅だ。
事故防止の関係で監視カメラが至る所にあるし、大勢の目撃者がいる。
案の定、騒ぎに気が付いた乗客や駅員が、こっちに走ってきた。
これで明確な殺意は証明されるはずだ。
あとは…… さぁ殴れ。
「てめぇ、殺してやる!」
予想通りに、奴は感情を抑えきれずに僕に殴りかかった。
ちらりと横を見ると、電車はもう近くに来ている。
ふっ… 僕の勝ちだよ、片丘。
奴のふり回りた拳があご当たった瞬間に、僕はあえて後ろに崩れ落ちるように、ホームから『落ち』た。
ふわりと身体が浮かぶような感覚の中で、僕は…… 見た。
電車は、いつものようにホームに滑り込んでくる。
いつもと違うのは……
半世紀前の日本の某所では、地方からの転校生に対する『独特』な扱いがあったそうです。そして、学校が『虐めは無かった事』と言い張っていましたが……
都市伝説じゃない事例もあったらしいです。
父:被害者本人が言ってるんだけどな。
母:転校生と言うだけで虐めの対象だった時代もあったのよ……
私:えっ? 嘘でしょ、本当に? 都市伝説じゃなく?
☆8月12日から週に2回(火・金曜日・午前6時)の更新に挑戦してみます。
皆様よろしく。