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百のスミレと千のユリ  作者: 水瀬 悠希
終わりの始まり
2/5

頭にきたらおしまい

 果たして僕は父さんや妹の所に行ける… かな。

 俺はそんな事を考えながら、駅のホームに立っている。


『まもなく2番のりばを急行列車が通過いたします。ご注意ください……』


 ホームに独特のメロディが流れると、自動アナウンスが列車の通過を告げた。


 この急行が通り過ぎた後に来る6時5分発の下り普通電車。

 こんな早い時間の電車に乗る学生は部活の朝練か、遠くの学校に通っているかのどちらかって事になるんだが、片丘の場合は前者だよ。


 あいつの父親は庶民派で売っている副知事サマだから、通勤には年季の入った軽自動車を使っている。それなのに息子を車で送り迎えさせるなんて筈がない。

 本人もサッカー部の次期部長の座を、親父に買ってもらったとは言われたくないだろうからな。


 だから、あいつは嫌々ながらも電車通学をしているんだ。

 それを知ったから、僕はこうする事を選んだんだけどね。


「よう、片丘」

「なんだ、クズ野郎、朝っぱらからキモイ顔見せるんじゃねぇ」


 僕はわざと小さな声で話す。


「それは僕のセリフだよ。朝から汚物を見るなんてなぁ」


 あえて煽った。


「なんだコラ! 殴られてぇのか、ああ?」

「そして『殺す』とか言うんだろう? 出来もしないのにカッコつけるなよ」


 ああ、気持ちが良いなぁ。

 何があろうと、いったん覚悟を決めてしまえば不思議と恐怖は無い。

 馬鹿な片丘が僕に掴みかかってきたのを少しだけ後ずさりして、かわす。

 あれだけ殴られてきたんだから、あいつのクセなんかお見通しだ。


 胸ぐらをつかみ損なったあいつは、そのまま拳を振りかぶった。

 体勢を崩しかけたまま、オーバーアクションになりながら、腕を振り回す。

 あれが当たったら、歯が折れるくらいは覚悟しなくちゃならないだろう。

 当たれば、ね。


 僕は、そっと右足を、半歩だけ後ろに引いた。

 そのまま上半身もタイミングを見計らって、すっと後ろにさがる。

 次の瞬間、奴の腕が鼻先を通り過ぎるのを見て、ふっと笑って見せた。


「やっぱり出来ないじゃないか、このヘ・タ・レ・く・ん・?」

「てめ、このクズ野郎めぇ、死ねやコラあ!」


 かかった。


 あれから数日というもの奴を挑発して『死ね』『殺してやる』という言葉を使わせるように誘導してきたんだ。

 結果的には殴られるんだが、俺が被虐趣味という訳じゃない。

 片岡に対して一種の条件付け──あいつをパブロフの犬にするためだ。


 学校では、僕がいじめられているのを知ってる筈なのに、誰も──教員さえも見ないふりをしてきた。

 友達同士でじゃれ合っているだけだと、決めつけられて終わり…… だった。

 たぶん、たっぷり嗅がされた鼻薬と副知事の権力のせいだろう。


 だけど、ここは学校じゃない。大勢の人がいる国鉄の駅だ。

 事故防止の関係で監視カメラが至る所にあるし、大勢の目撃者がいる。

 案の定、騒ぎに気が付いた乗客や駅員が、こっちに走ってきた。

 これで明確な殺意は証明されるはずだ。


 あとは…… さぁ殴れ。


「てめぇ、殺してやる!」


 予想通りに、奴は感情を抑えきれずに僕に殴りかかった。

 ちらりと横を見ると、電車はもう近くに来ている。


 ふっ… 僕の勝ちだよ、片丘。


 奴のふり回りた拳があご当たった瞬間に、僕はあえて後ろに崩れ落ちるように、ホームから『落ち』た。


 ふわりと身体が浮かぶような感覚の中で、僕は…… 見た。


 電車は、いつものようにホームに滑り込んでくる。


 いつもと違うのは……

半世紀前の日本の某所では、地方からの転校生に対する『独特』な扱いがあったそうです。そして、学校が『虐めは無かった事』と言い張っていましたが……

都市伝説じゃない事例もあったらしいです。


父:被害者本人が言ってるんだけどな。

母:転校生と言うだけで虐めの対象だった時代もあったのよ……

私:えっ? 嘘でしょ、本当に? 都市伝説じゃなく?


☆8月12日から週に2回(火・金曜日・午前6時)の更新に挑戦してみます。

 皆様よろしく。

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