ささやかな不幸をどぉぞ
僕の心配をよそに、 ラーリィが急に生き生きしてきたというか…
ワクワクが止まらない! って感じで飛行機をながめている。
「んふふふふ。久しぶりに『力』を振るえるわぁ」
近づきつつある飛行機との距離は、もう200メートルもない。
このままだとあの時にいたパイロットスーツ女に……
「大丈夫よ、冬夜くん。ラーリィがうまくやるから」
まるで他人事だな…… えっ?
「うふふふ…… 不幸になぁれ!」
途端に視線が急に揺れて、身体が風で揺れたような、そんな感じがした。
近くの木につかまってバランスをとったけど、ふと視界に入ったラーリィの目が妖しく光ったように見えた。
……何が起きたんだろ。
体の中から、何かが引きずり出されたような気がしたけど。
ふと頭の中にそんな考えがよぎったけど、実際のところは時間が引き伸ばされたような感覚の中で、目の前で起こった出来事を眺めていたんだ。
ずぼばばば…… がりごろがりごり、どっしゃーん!
少し遅れて、何かが破裂するような鼓膜を揺らしたんだ。
それも、ちょいと派手にね。
「いきなり墜落した?」
音の正体は、飛行機が地面にぶつかる音だった。
時間にすると、10秒もしなかったんじゃないかな。
飛行機が浮いていたのは高度2メートルくらいだから、落ちたとしても大したダメージにはならないと思う。
パイロットも怪我をしていたとしても、打ち身程度で済むんじゃないかな。
でも、機体の後ろからうっすらと煙が上がっているのが見える。
「あの飛行機は、原始的なジェットエンジンを積んでいたみたいね」
「たぶん、エンジンにゴミでも吸い込んだのでしょうね。気の毒な事だわぁ」
2人はうっすらと笑いながら、墜落した飛行機をながめている。
その口調は、サーリアが作った目玉焼きが半熟じゃなかった、みたいな感じで世間話をしている。まったく、のどかなもんだよ。
でも飛行機のエンジンって、ゴミが入ったくらいで壊れるものなの?
「向こうの世界のイビム帝国で起きた航空機事故で、ハドソン川の奇跡というのがあったけど… 冬夜くんは小さかったから憶えていないかな」
「知ってる。というか、テレビで見た事があるよ。エンジンが壊れた旅客機が川に不時着したって話だと思ったけど……」
向こうの世界って、僕がガス爆発に巻き込まれた時のことでいいんだよね?
で、ハドソン川の奇跡… だって?
「なんか変な気分になるね、前世の記憶を鮮明に憶えているって…」
実際に、あの事件はニュースでやっていたし、映画にもなったもん。
よーく憶えているさ。たしか……
最新型のターボプロップエンジンを搭載したDC-6という大型旅客機が離陸直後に両翼のエンジンが止まって、おまけに操縦不能になった。旅客機は近くを流れているハドソン川に不時着水したんだけど、全員が無事に生還したことから、ハドソン川の奇跡って言われたんだよね。
「よく覚えていたわねぇ、すごいわね、冬夜くん」
フェイリアがニコニコしながらほめてくれた。でも、それがなんなん?
「あの時にエンジンが止まった原因は、カモの群れを突っ切ったためなのよ」
「それで…… 吸い込んじゃったの。空気と一緒に、ね」
げ。
「たった1羽のカモのせいでエンジンが壊れちゃったのよ」
「ありふれた話でしょ?」
でっ、でも…… カモどころか小鳥だって飛んでいないじゃないか。
飛行機の音で逃げちゃったんだよ、きっと。
「まあ、いいじゃない。今のうちにここを離れるわよ」
そうだね。
パイロットが出てきて消火器で火を消しているみたいだ。
もう1機が降りてくる前に、とっとと逃げ出そう……
ハドソン川の奇跡については、後に映画になった航空機事故です。
この手の事故でよく聞く単語はバードストライク、でしょうか。




