日常~不安が募りて~
「天地に御座します神霊の加護を受け、命宿し者らが色の豊かなる辞を述べ、十二の柱立つれば悪鬼も厄災も払い、安泰とならん日を慎みて願い奉る」
祈詞と呼ばれるそれを一句も違えないで、噛んだり支えたりせず言えた。昨日より今日と声に心を込められている。
——晴れだねぇ……。
天樹の在る聖域の中で、見上げれば木漏れ日よチラチラする。反対を向くと緑の切れ間によって、吹き抜けは青い空へ開けるを感じた。六月になり季節は夏を迎えて、太陽の熱が気持ちを高ぶらせる。好きなんだ。
「のに……」
僕は悪しき夢を覚えていることで、怖さ恐れが大きさに考えてしまう。祖父の教えが軽視するを許さなくて、意味の解らぬに不安が募ってゆく。光景を目にするも気持ちは暗いままで、生きる喜びを抱けずに身を案じて居た。
——だいじょうぶ?
心配する声が聴こえた。耳じゃなく心にへと、語り掛けてきた。仰ぎつつ澄ませば静かにと、風が木や草の想いも運んで来てくれる。温かさが染みる。
——有り難う。助けられてばかりだね。
——そんなことない。
——見たんだ。殺されてしまう……。
——誰が?
——幼なじみの栞が……。
——ただの、である、こともある。
——信じたいよ。でも……!
——そのときに、なってみなければわからない。
——ごめん……。
人間は運命を変えることが出来る生き物だから。本当に起ころうとしも選択に因り最悪を免れられるかも。会話の最後に希望を持たせてくれた。
——そうだね……。
先を考え過ぎずに胸の中へ留め置いて、今の暮らしが続くを願いした。気晴らしに何かを歌おうと思って、記憶に在る音楽から明るいうたのを引き出す。
「晴れ渡った空を 仰ぎ見る僕は
今という時間に 心で感じてた
光を受けながら 舞い踊る喜び
抑え切れぬ程に 胸で高ぶれり
体を揺らし動き 弾む楽しさで
今という瞬間に 音が生まれる
足で踏み鳴らせ 腕を振り前へ
近く人も笑顔に 解き放つ輝き
今という時間に 心で感じてた
今という瞬間に 音が生まれる」
題は、心ノ喜ビ。光の降り注ぐ良き日に風が吹いて、笑みを浮かべずには居られない思いにさせる。盛り上がって、弾けて、楽しくなれた。
「さて……」
気持ちを切り替えて、鞄はメッセンジャーバッグからタブレット端末を出した。起動させ時間の表示を確認して、何をするかと悩みした。
——急ぐことはない。
計画を立て、一刻も早く終わらせたことで、余裕を持つ良さを覚えたんだ。




