日常~夢見の悪さは~
「あれ?」
僕は目覚めた気分になって、現在の状況に首を傾げる。何故か道の上に立ち居りて、何時の間に家を出たのかと考える。
——ここは、どこだろう。
正面の空は夜明けの光によって、紫色の帳は西方へ押し遣られゆく。背中に視線を感じたことで、警戒を抱き身体を転じるんだ。
「栞っ!?」
幼なじみの姿を認めて、驚きの声を上げてしまう。緊張を解き近く寄ろうとして、両足が地に縫い付けられたように上がらなかった。虫の知らせを覚えた。
——可笑しい……。
意思を強め動けって念じるも、歩き方だけを忘れてしまったようだ。異常は一つじゃないと、心配の声や反応を見せぬ栞に顔を向け訝しむ。
————!?
突然に時間が巻き戻る如く、西方から夜の帳が引き下ろされた。言葉を失うほどの有り得なさと、月無き暗さに恐怖を抱いた。
『ケケケケケ……』
目前の闇の向こうより吹き来る風に乗って、笑いのおぞましきが聞こえてしまった。姿は黒く溶けていて、嫌な気を放ち迫りする。余りにも時を掛け——。
『ケケケケケケケ!』
栞の後ろに赤き目や口が現れて、漆の艶をもつ爪らしき手が現れた。相変わらず人形みたいに立ち居るだけで、喉笛を軽く掴まれていった。止めろ、止めろと、僕は首を振って、泣きそうに訴える。
『ケケケッ……』
狩人が殺した鳥を扱うと同じく空に持ち上げて、頸椎が体の重みで外れるかと見せびらかす。抵抗もせずぶら下がっていて、面白くないと反対の手を動かした。直線に揃えるや爪を背中に向けたので、衝撃が走り駄目だと叫びを繰り返す。急速に声は掠れて、くぐもった。
『ケッェエェェッ!!』
突き刺そうとする動きがゆっくりに見える。僕は死なせるものかって、手を勢い良く伸ばした。感情のまま力ずくで、両足の縫い付きを千切り前へ走るんだ。
「栞ぃいぃいっ!!」
覚醒した。自分の耳に残る叫びは余りにも、現実に思うほどだ。鼓動は早く身体は熱くて、汗を吸ったパジャマが寒さを感じさせていた。
「夢、だった……?」
天井へ突き上げた右手を徐に下ろして、窓の方へと顔を向ける。光差す今日は晴れと分かって、外から鳥の鳴き声がする。視線を机上のデジタル時計に移してみて、七時に変わる瞬間を見た。起き上がり落ち着くまで、何を意するのかと考えたんだ。六月の二日は土曜で、仏滅とカレンダーにあった。
「くしゅんっ!」
夏風邪を引いてしまうって、着替えるために押し入れへ向かいする。折り戸を開けて、下の段に積み並んだケースから服など出していく。普段のコーデになるのは動き易くて、汚れも構わぬメリットを気に入ったからだ。
「よし……」
根宮家当主として、地森の務めが食後に待っている。
——夢のことは、後で考えよう。
部屋を出る前に小さく呟いて、一階へと階段を下りた。挨拶により始まる一日は繰り返しで、習慣は当たり前と疑わぬ幸せがあるんだ。




