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日常~老女と話さむ~

「終わったぁ……!」

 宿題を片付けて端末の時計を見ると、十時を過ぎていた。地森ちしんの中での務めは、半時も残っている。現状を言葉にするなら、森縛り。

 ——何しようかな。

 僕はタブレットをかばんに入れながら考え、水筒を取り出してのどを潤した。冷たいお茶は染み渡る感じで、くかぁとするんだ。真上に顔を向けて木漏れ日のまぶしさを、金剛石ダイヤモンドみたいなきらめきと思っていた。天樹てんじゅの根の上に座って眺める景色は同じままだ。

 ——散策するかな。

 座り疲れた脚を曲げてよっこらせと、立ち上がる。背中をらし左右に動かし、固さやりをほぐした。鞄を肩に斜め掛け、樹に歩いてくるねと伝えた。枝葉が揺れ手を振るようで、行ってらっしゃいと言ってる気がした。聖域を出るために猿戸さるどへ歩き、押し開いた先に人がいた。

「こんにちわー」

「おやまあ、ごくろうさんだねぇ」

 目前に立つ老年の女性と声を交わして、誰なんだっけと思う。中学二年生の僕より背は低く、腰は曲がりするもつえは持ってなかった。

「歩いて来られたんですか?」

「ええ、ええ、健康のためなんよ」

「元気ですね、坂道はきついです」

「ありがとな、まだまだ、若いもんには負けませんよ」

「恐れ入りました。ここには、よく……?」

「あんまりこれんようになってしもうたよ」

 老女にとって地森は大切な場所で、思い出があると話し出す。旦那だんなと出逢って何度も来て、一緒に見たと懐かしんでいた。旦那の姿は隣になく、二年になるかねと逝ったことを知らされた。気安に触れられず、聞くだけだ。

「樹を見ているとね、寂しさも受け止めてくれる気がするんだよ」

「分かります」

 子供が母親に抱かれるように、痛みも喜びも静かに優しく。包む感じがする。自然の持ついやしの力に、僕も助けられた。

「今は居ないんやけど、ここにおるんよ」

「忘れしない限り、生きている……」

 風がそよいで葉を揺らし、音を立てて暗さを払った。老女を見れば隣には、旦那と思しき人が居た。目を疑い、目をこすれば、姿は消えてた。

「坊は幼いのに立派やな」

「中二なんですけど……」

 根宮ねみや家の者だと知っていることには驚かなくも、八十七歳の老女から見ればまだ子供って言われると思わなかった。予想よりも、高齢だった。

「良う言われるわ、さば読んどるんじゃないかとな」

 女性はいつまでも若くありたがるものだよ。自分に注目してほしい。羨望せんぼうの的となりたい。欲望もあるわなと、闇を聞いてしまった気がした。

「おばあちゃんは、どうだったの?」

 若い頃は綺麗きれいに見られたくて、化粧やら服装やら男の気を引こうとした。見てればかりでは叶いせず、一番はありのままに飾らないこと。

「誰かを幸せにしたいんなら、自分を幸せにしないとなぁ」

 人生経験の先輩から聞く話は言葉は深くて、心に響くものがあった。自分も人の心へ残せたら良いなと思う。出来事に意味の無いは一つとないんだ。

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