日常~地森で務める~
——変わらないなぁ。
毎週土曜日に務めを行うために来ているけれど、常緑樹だから冬でも枯れることがない。地面を見れば草花なく、土は光が当たっても黒い。
——地始玻愉の森。
古跡台地の第五層にある自然の中を歩き、僕が知る限り時の移ろいを感じられる一つ所へ向かう。天樹が聳えし原に着いた。
——茂ってきたなぁ。
緩やかな丘の色は夏になってきて、奥には太い根がうねっている。近付けば竹の柵が結界を示して、天樹の正面に設けられた猿戸がある。世界で二人しか入れず、許されざる者には焼かれる苦しみを与ふ。
——カチャリ……。
閂を外して開き行けば、空気の冷たさ清らかさ。背後で音立て閉まりては、洞窟で響くように来訪したと知らしめるんだ。
——おはよう。
蛇みたいな根の上に攀じ登っては、幹のすぐ近くまで上り下りした。息を切らせ汗を掻き、息を整えながら仰いで心を伝える。風が戦ぎ頬を撫で、声なき声が耳に届いた。鞄を降ろし、唱え始める。
「天地に御座します神霊の加護を受け、命宿し者らが色の豊かなる辞を述べ、十二の柱立つれば悪鬼も厄災も払い、安泰とならん日を慎みて願い奉る」
祈詞と呼ばれるそれを一句も違えないで、噛んだり支えたりせず言えた。二年目になれば当たり前と思われる。
——……。
褒めてくれる人が居ない寂しさで落ち込むことは、もうやめた。中学生なんだし、自分が良いと考えるならそれで良いと考えるようにしている。
——何時見ても。
天樹の幹にそっと手の平を当てて、仰ぎ続けつつ感じたんだ。壮大さ、力強さ、神々しさ。始祖はどんな思いで共に過ごして居たのかな。答えは返らぬ。
——静かだねぇ。
根宮家は歴代の当主が務めを行う上で、伝統と言える制約が一つはある。地森の中で一時を過ごして、間は外に出ていけないこと。自由に何かをして、良心に従い果たすように親の戒めを守るんだ。
——やるか……。
僕はうねる根の上に尻を着けて、幹へ寄り背を預けて、鞄はメッセンジャーバッグからタブレットを出した。自然の椅子に座りながら電源を入れる。
——九時。
端末の時計を見ては宿題を始めるべく、学業支援ソフトのアイコンをタップする。起動して窓が出たら未完リストを表示する。歴史の宿題を選択して開いた。次の文を読み、思ったり考えたことを作文にしなさいとあった。
——テーマは、伝記。
私たちの国の成り立ちをどのように、残してきたのかを知っています。初めは、人から人へと語り継がれていました。後には、字が使われるようになり、本という形も作られるようになりました。記憶と記録の二つは、互いに補い合っています。記憶が抜けた所を記録が埋め、記録の足りない所を記憶が加え、情報が失われないようにしているのです。史書の内容は真実ばかりではありません。権力者によって改竄や抹消された物もあります。貴方の脳の中にあるそれがどれも、間違っていたらどうでしょう。考えてみてください。




