日常~名称を答える~
「私たちの国を知る上で、二つの存在が重要となります。始祖様の時代よりも前から今日まで。多くのモノか守ってきました」
男性教師は話を切ると、窓の外へと視線を遣る。僕は釣られるように、辿るように。目を央都の方へ向ける。そしてすぐ、戻した。
「二つの存在はここからでも、見える場所にあります。一日に一度は必ず、見ているはずです。央都の中心部には古跡台地があり、第五層まで段々としています。頂上には黒緑色の森があり、永久不変の神域として、大切にされています」
根宮の姓を持つ僕には、仲間と違うことがある。始祖の血を引き、森に選ばれし子として、神域の中の聖域を守る役目を負っていることだ。毎週の土曜は努めがあり、森の中で過ごさなければならないんだ。詳しくは、後日に。
「さて、皆さんに尋ねます。白亞の壁よりも高い場所にあるその森の、名称を知っていますか?」
聞くまでもないような問いかけに対して、後ろから声がした。振り向けば一人の女子生徒が、堂々と手を挙げていた。背筋をぴんと伸ばして姿勢正しく、目は真っ直ぐ前を見ている。その様子から受ける印象は大人っぽく、紺色のブレザーを着ていることで、かっこよさもある。同い年のはずなのに何でだろうと、子供な自分と比べて、落ち込んだ。
「小枝さんに答えてもらいましょう」
男性教師は手振りでどうぞして、発言を許可した。小枝さんはそれを受けて、静かに立ち上がる。顔の位置が高くなると、自然と視線を上げた。教室中の誰もがきっと、同じように注目している。首が痛くなりそう。
「第五層にある森の名称は、始まりの森です」
「はい、ありがとうございます。座ってください」
小枝さんは声ではなく会釈で返し、静かな動作で椅子に座る。僕たちは一言も発さず、続けられるのを待った。
「始まりの森という名称は、生活の中で良く使われています。始祖様に深い敬意を表して語られ、知らない人はいません。しかし、正式なものではありません」
男性教師と僕の目が合った気がして、嫌な予感がする。案の定、根宮さんと声を投げ掛けられ、有無を言わさね口調で、お願いされる。渋々と、仕方なく、立ち上がる。当然のごとく注目されて、勇気が要るんだ。
「地始玻愉の森、です」
「はい。ありがとうございます。座ってください」
「分かりました」
僕は素直に返事をするや椅子に座り、安堵の胸を撫で下ろす。顔を上げて電子黒板を見ると、いつの間に森の写真が表示されていた。その下にテロップで、正式名称が書かれていた。
「漢字を覚えるには、込められた意味を知ることです。森がある第五層の地から始まり。玻璃のような清い心で愉しめる場所であれ。光を失うことがないようにと願いから、名付けられました」
「はい!」
「質問ですか。どうぞ」
「玻璃と言うのは何ですか?」
「水晶やガラスを意味する、古語です」
知らないのは仕方ないだろう。国語の授業でやっていないし、調べようと思わなければ、辞典を使うことがないから。正式名称も同じく、普段は使わない。




