日常~白壁の堅固さ~
「ここからは。鳥瞰図を用いて、私たちの国の地形などを見ていきましょう」
指示に従ってタブレット端末の画面を、指でスライドして表示した。教科書の中央に簡素な絵図と、両側にいくつかの写真を見る。線で結び付けられて、分かりやすい。観光パンフレットを思わせる。
「みなさんも知っている通り、央都、北区、東区、南区、西区の、一都四区制度となっています。それらの境界線上に建てられた白亞の壁によって、明確に見える形で分かたれています。交通に不便はありますが、有事に私たちを守ってくれる盾なのです」
男性教師の話を聞きながら、窓の外を眺めれば。目映いばかりの壁がある。空を三割隠している。視線を下ろせば家並みの、屋根が波に見える。太陽は真上を超えて傾き、電柱の影は南を過ぎた。
「今から何十年前の時代には、戦争もありました。妖異と呼ばれる忌むべき存在は、猛威を振るっていたそうです。様々な要因によって、多くの人が亡くなられました」
僕は教室の中へと視線を移し、あまりの暗さに思う。天井の照明は点いているのに。窓から光が差し込んでいるのに。視界が青いせいなのか。陰気なんだ。
「悲しみや不安の日々を終わらせたい。多くの命を救いたい。強い願いを持った人々の、叡知を結集して造られたものが、白亞の壁です」
詳しいことについては歴史の授業で学ぶことになると、男性教師が言った。確かに話せば長くなることを、僕は知っている。
「見た目は石膏のような粒子状ですが、金剛石以上の硬度を持っています。それは、耐極石という名の人工物です。化学と魔術を用いて生み出されました」
聞けるものなら、聞いてみたい。元素は何なのか。式はどうなっているのか。興味があるんだ。不意に説明する声が途切れた。男性教師の視線を辿ってみれば、男子が手を挙げている。発言が許可されると、座ったままで質問するんだ。
「ダイヤモンドは世界一の硬さですよね。ダイヤモンドより硬いって、おかしくないですか。ダイヤモンドを魔法で強化したとしか思えません」
男子生徒は敬語を使い忘れるほどに、真っ向から否定するんだ。白亞の壁が存在するのは事実なのに、資材は脆い物だと思っているみたいだ。
「論より証拠と言いたい所ですが、用意してないので。理科の授業でやってもらえないか、話をしてみます。今、言えることは、全く違う物質であること。納得しなくてもいいので、知っておいてください」
素直な感じがしない返事だったが、男性教師はそれでも良しとした。時間配分を気にしているのか、電子黒板の上に掛けてあるアナログ時計を見ていたんだ。僕も視線を上げて確認した。針は午後一時五十七分を指し、思ったより進みが遅い。楽しくないからだろう。
「白亞の壁には、門と呼ばれる通行口がありますね。扉自体は無いのですが、不可視の妨犯的膜が張られています。危険人物を通さないためです。有事には、門そのものがなくなって、完全に遮断されます」
央都にある自宅へ帰ろうにも、塞がれていたことがあった。南区から入れないなら、他の区から入るしかない。長距離の迂回は本当に大変だった。
「今まで話してきたのは、本島についてです。離島は二学期くらいになります」
人口や産業を学ぶ時になれば、詳しく教われるだろう。行ったことのない島が多いから、少しだけ興味がある。




