日常~森守へ継承を~
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少し暑い繭の中で、夢さえも見ずに眠って居た。朝の目覚めに向け、意識がゆっくりと浮き上がる。不意に光が瞼越しに瞳を貫き、続いて肩を優しく揺らされた。起きなさいと声を掛けられる。
「うう……」
眩しさに呻いては慣らしつつ目を開け、大きなあくびをした。ベッド近くの棚の上にあるデジタル時計を見れば、午前六時だ。
「着替えなくて良いから、顔を洗って来なさい」
「はぁい……」
母親の顔は霞みで見れず、寝足りなさを感じつつ返事をした。遠去かる音を聞き、仕方なく起きる。言われた通りに動く。
「ふあ……」
三日前は吹月二十二日の火曜日に十二歳となり、夏至を過ぎたこの土曜日に一つの役目を受ける。根宮家の者として、負うべきもの。
――ねむ……。
二階の自室を出て廊下を歩き、一階へ下りて水で流す。居間への扉を押して入れば、狩衣の装束のじいちゃんを見る。挨拶をして近付いた。
「おはよう、良く寝れたかい?」
「うん、たぶん……」
簡単に話をしたら和室へ共に向かい、母親に着物を着けてもらう。畳の上に広げ置かれたそれはどれも小さくて、僕のだとすぐ分かった。上は白色の小袖に狩衣を、下は黒色の袴を、頭には何も被らない。
「馬子にも衣装だなぁ」
「ええ、そうですね」
大人二人がしみじみと言うを聞いて、そうかなと。準備が終わったら早い朝食をして、地始玻愉の森へと家を発った。到着すれば多くの人が集まってて、挨拶を交わすんだ。僕とじいちゃんは高きへ上り、聖域を背に立った。
「皆様、朝早くからお越し頂き……」
僕を後ろにして話し始めたその声で、騒つきは静かになった。注目されて恥ずかしくて、顔を逸らした。継承の儀を行うと告げ、一礼するを見た。
「天地に御座します神霊の加護を受け、命宿し者らが色の豊かなる辞を述べ、十二の柱立つれば悪鬼も厄災も払い、安泰とならん日を慎みて願い奉る」
聖域の中にある天樹を仰ぎ見て、歴代の当主が長きに渡って祈ってきた様を見た気がした。次には懐から折り畳まれた紙を出し広げ、祝詞を読み上げていく。言葉や意味は不明だが、緊張の高まりを感じている。
「森に選ばれし子よ、愛されし子よ、定めを持つ者よ、前に進み出なさい」
「はい」
「初代に始まり、歴代が守り、私が受け継いだ務めを課す。八十四代当主として、正しきこと、人のためなること、今より更に励むことを誓いますか」
「はい」
拒否する選択はなく、責任は大きく、一般の子とは違った道を歩み始める。恙無く、儀式が行われ、抱負を語り、歓迎の拍手と言葉をもらう。
「おめでとうございます!」
「頑張れよっ!」
皇帝に次ぐ権限を持つ当主の立場と、学校に通う生徒の立場と、二つを持ちて過ごす者になった。自由の少なき日々を生き、年月は流れ。




