定律~夏季の間にて~
「プリーズ、メイク、ユアセルフ、カンファタブル!」
世界共通語の英語で寛ぎくださいと、出席者に向けて声を発した。壇上までの道を開けてもらい、右に左に手を振りながら歩く。
「アー、ユー、アイアド?」
「ノー、アイム、ベリー、イクサイティド」
女性の方に疲れたと聞かれたから、笑顔を向けてわくわくしていると答えたんだ。大変でしょうけど無理しないでくださいと、励まして頂いた。
「ルックス、デイリシャス……」
「ゴウ、アヘッド」
円卓の上に置かれた料理を見て、美味しそうと思ってしまった。普段なら昼食の時間だから、腹がペコペコだ。失礼して果物を一つだけ、口にする。
「ドゥ、ユー、ハブ、イナフ?」
「サンキュー」
周りの人がもう良いのと聞いてくる。少なけれどごちそうさまと返した。改めて前へと歩み、人の波を抜ける。壇上に立つや視線が集まり、室内は静まった。
「アイ、ウイッシ、アイ、クド、ステイ、ウイズ、ユー。アイル、ネヴァ、フォゲット、ユー。テイク、ケア、オブ、ユアセルフ……」
今という時が終わらないで、ずっと一緒に居られたら良いのに。皆さんのことは決して忘れないよ。体に気を付けてね。正直な思いを英語で伝えた。
「カム、バック、トゥ、スィー、アス、アゲイン。スィー、ユー、アゲイン。ハブ、ア、セイフ、トゥリップ、ホウム。セイ、ヘロウ、トゥ、フレンド」
再び会いに来てください。気を付けてお帰りください。友達に宜しく。祝賀会の最後を締めるに相応しい言葉で、御開きにする。盛大な拍手が長く続いたのち、退室する方々と握手をして、壇上から下りた。
――終わったぁ……。
夏の間に残って居る人は僅かで、日本の俳人の芭蕉が詠んだ句を思い起こす。閑かさや岩にしみ入る蝉の声、だね。
「皇帝陛下、お疲れ様でした。後はお任せください」
従う者が目の前で跪くやそう言って、僕が返すのを待つ。手伝いたいと思うけれど、公務があることから甘えることにした。
「苦労を掛ける……」
「大丈夫です。心配しないでください」
複雑な思いを抱きつつ、階上にある錦の間へとゆっくり歩む。菊彫りの扉を開けて入れば、十二神霊の一つである男児姿の風起が居た。
「あ……」
「言わなくとも分かっている。頑張ったな」
「うん、そっちは?」
「泣いても良いぞ、問題は起きてないさ」
僕は一人だった不安から解放されるや、今だけと言って抱き付いた。子供のままではいけないけれど、頭を撫でてくれる頼もしい手が嬉しかった。
「これからだな」
「これからだね……」
立法府に司法府に行政府の長を決めたり、陸海空の防衛を強化したり、妖異など人知を越えた存在に対抗できる者を育成したり、すべきだらけ。
「息抜きがてら聖なる樹の元へ行かないか?」
最近あまりにも忙しすぎて、何か久し振りに思えたんだ。最後に訪れた日はかなり前の気がして、体も心も重いままはと考え、そうする。着替えて、向かう。




