定律~犠牲の多さに~
「アァ、ア……」
完全に動きが止まり、唸る声も止んで、僕の名を呼べるほどに戻ってきた。良かったぁと喜んだのも束の間で、決断を迫られる。
「カイキ、スマナイ」
正気にはなったけれども、長くは持たない。頼むから殺してくれと、自分の胸を黒い爪で掴みながら言う。現状の全ては私の罪と、涙を流していた。
「できないよ、だって……」
今日までに島が豊かとなったのは、最初に来訪したマシューさんたちのおかげでもある。二人で語り合い約束した、建国の夢は諦めてしまうのと聞くんだ。
「マモルベキ、ウシナウナ」
「だったらさ!」
「ワン、フォー、オール、オール、フォー、ワン」
「一人は万人のために、万人は一人のために……」
「イエス」
究極の生命の選択を迫られていて、片方は島民の死を、片方は恩師の死を、天秤にかけるんだ。猶予はもう無い。
「グウッ、ハヤク、シロ」
苦悶する様子と顰めた顔を見ながら、右手で風の剣を造っては握る。様々な思いが入り交じり、言葉が出なかった。
「カイキ、ヤミニマケルナ」
「うん」
「サア……」
「今日までのこと、忘れません」
貴方の罪をも背負って生きると、最後に伝えては剣先を胸へと向けた。感謝の気持ちと共に心臓を貫く。大切な人の血で手を濡らしつつ声を聞く。
「アリガトウ……」
僕に体を預けるように倒れ掛かりながら、言葉を心に残して逝った。マシューさんの顔を見れば穏やかで、思わず抱き締め涙した。
――次の生はせめて。
安らかでありますようにと祈りしては、遺体を地面にゆっくりと横たえる。戦いはまだ、終わっていないんだ。風の守りを築き残しては、次の村へ。
「どっ、どうか……!」
「終わりにしよう、まだやる?」
命乞いしてる悪人の姿を見ても、感情は何も抱かなかった。自分のことしか考えてない言葉は響かず、血ぬれた両手が黒くなるのを見てたんだ。
「武器を捨てろ!」
風起が来てはそう一喝すると、誰もが慌てて投げ置いた。助けて、従う、口々に言い、傷つけ殺した罪は棚に上げる。
「切りがないな……」
人間の心が生み出した穢れは思ったよりも多く、闇に侵されたり染まった者と共に争い続けている。恩師の犠牲は何のためかと、怒りを覚えたんだ。
「行こう」
悪人たちを檻に閉じ込めては、第四の村に第五の村と駆け付けた。不眠不休で五日もの時を掛け、三神霊と協力して南方の全てを鎮圧した。
「ふう……」
長い長い戦いは幕を下ろし、数百に上る亡骸を見て悔しんだ。思い思いに火で葬っては、骨を粉にして海に撒く。七日間は喪に服する。




