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伯爵令嬢視点

寝取りヒロインざまぁ系の性格を期待された方、期待とは異なる性格をしておりますので、そのような性格を期待されている方は読まない用が良いかもしれません。

 私がその人に会ったのは、貴族ならば必ず行かなくてはならない学校でのことだった。


 私は伯爵家の娘に生まれ何不自由なく暮らしていた。伯爵令嬢としてきちんとした教育は与えられたが、家に来る家庭教師の教育では物足りない。家庭教師にもっと先の教育を望むも、お嬢様には必要なことではありませんから、と柔らかく断られる。

 そのため、十二になって学校に入ることを楽しみにしていた。

 学校ならば、より広く、専門的なことを学べるだろう。有名なあの学術書を読んだ人はいるだろうか、もしそのような人に会えたら、話をしてみたい。


 だが、実際の学校生活は想像したものとはかなり異なっていた。

 学業を修める場ではなく、貴族としての立場に基づく振る舞いと、将来に向けての人脈を作るための期間。

 大抵のものはそう考えており、それが主流だった。

 だから、どんなに優秀な成績を残しても、両親に褒められて、それだけ。

 入学してすぐに期待を持つことを諦めたが、成績が優秀なことは私の努力ではなく、個性として扱われ、特にそれが人間関係に影響することもなかった。

 だいたいが、お茶会などで「成績が優秀ですのね」と上品に言われるだけ。

 充分なことかもしれないが、高位の人たちは成績など気にしていなかった。

 学校という小さな箱庭の基準では測れない、高貴な立場を持つ方たちだ。心の持ち方というか伯爵令嬢の私では届かない価値観の壁があった。

 だが、それらのことは、私の心を折るに至らなかった。ならば逆に、と成績を伸ばしていった。

 両親は、ほどほどにしないと縁談がなくなると次第に焦っていたが、気にしない。

 むしろ、少々空気を読まずに成績で主席を取り続けたからと言って来なくなる縁談なら最初からなくてよかった。

 学年を半分ほど過ぎると、ついに飛び級が決まり、両親は嘆き、何も言わなくなった。

 学生時代位は好きにさせて欲しいと思うが、仕方ない。

 私も大人になれば、そのような思考に染まるのだろうか。

 想像して、鳥肌が立った。それはとても、嫌な気分で、受け入れ難い。

 今は考える必要がないと、無理矢理思考を止めた。


 飛び級が決まり、一つ楽しみなことがあった。

 一つ上の学年には、この国の王太子の婚約者の侯爵令嬢がいるのだ。

 学年が一つ下では会うこともできないが、同じ学年であれば何らかの接点はあるだろう。

 どのような人なのか、興味があった。

 春になり学年が一気に二つ上がり、更に嬉しいことがわかる。

 かの侯爵令嬢と同じクラスに決まっていた。

 だが、侯爵令嬢は王太子の婚約者としての公務で忙しいのか、休みがちだ。

 授業は出たり出なかったりだが、その分を課題でこなしているという。

 試験期間はさすがに出席しているようだが、いつも何かの本を読んだり書き付けをしており、話しかける暇はなかった。

 だが、落胆はしなかった。結果が出るのを楽しみにしていた。

 侯爵令嬢があのように必死で勉学に励んでいる様子は、私の心の支えでもあった。

 だが、結果が開示されると、逆の意味で驚いた。

 侯爵令嬢は勉強に励んでいたのではなかったのか。

 順位は八番と、王太子の婚約者として可もなく不可もなくの成績であったが、あのように必死で勉学に励んでいた姿は何だったのだろう。

 私は飛び級をしても主席を取ることができており、安堵するも、なんだか寂しくも感じた。

 何故皆必死に学ばないのか。

 学生期間は私たちに自由に学ぶことを許された最初で最後の期間なのに。


 期待外れに終わった試験結果だが、良いこともあった。

 私の成績が王太子殿下の目に留まったのだ。

 放課後、自治会室に呼ばれ、手伝いをしないかと勧誘される。

 王太子殿下直々に声を掛けられることも、できることが増えるのも嬉しく、「御意に従います」と即答だった。

 詳しく話を伺うと、生徒の自治会メンバーになる権利は男子生徒にしか許されていないため、成績簿で評価されることもなく、純粋に手伝いとして扱われるということだった。そのため通常は婚約者に頼むことが多いのだが、と濁されるがそれも頷ける。

 王太子殿下の婚約者は公務で学外に出ることも多く、手伝いなど期待できないだろう。

 それに、試験前の様子を思い出す。

 あのように必死で学んであの程度の成績では、手伝いを頼んだとしても王太子殿下も困るはずだ。

 王太子殿下はご存じないかもしれないが、殿下が婚約者と不仲であるという噂は既に立っており、私が自治会の手伝いとして傍によれば、さらにどのような噂が立つかも想像できた。

 だが、それでも良い。

 父母には悪いが結婚する気はなかったし、男子生徒しか入れない自治会に手伝いとしても参加できるのは、計り知れない価値があった。将来は実家には居られないだろうから、自治会で築いた伝手で、どこかの貴族の家庭教師として細々と暮らしていければ良いほうだろうと考えている。


 実際、自治会の手伝いをしだすと、本当に自分の決断を褒めたくなることが多かった。

 最初は他の自治会役員の男子生徒に胡乱な目で見られたが、それも仕事を手伝ううちに次第になくなっていった。自治会室では、予算がどのように決められるのか、行事を実行する段取りの仕方、行事当日の思わぬ事故への対応の仕方など、単なる伯爵令嬢のままでは知らなかった世界が広がっていた。


 だが、いい点ばかりではない。

 最初に私を手伝いに誘った王太子殿下は、上司として付き合うには考えていた以上に難しい性格をしていた。生まれたときから次代の王として育てられ、成績も優秀ではあるが、人を評価する際の厳しい判断基準と、誇り高く孤高な性格は、一緒に仕事をするとなると非常に気を遣う。書類をさばき、考慮した方が良い点を見つけたときは、毎回どのように伝えるべきか苦慮した。

 下手に機嫌を損ねると、この仕事に携わることができなくなりそうな点が怖かった。

 おかげで、学校に来てからあまり伸びていなかった対人能力も上がったと思う。

 幸い、私の指摘が不快に思われることはあっても、納得もできるのか、もしくは女子生徒だからと気を使っているのか、他の自治会の男子生徒のように怒鳴られることはあまりなかった。

 一応、他の誰かが怒鳴られた際には、王太子殿下に隠れた場所で、彼の言葉を好意的に補うようにはしている。

 「王太子殿下は貴方様のことをお認めくださっているからこそ、厳しい言葉を使われたのです」とか「あのように言われていますが、本心では貴方様のことをおわかりです」とか。彼らに媚びるわけではないが、仕事を円滑に進めるためには多少言葉を飾るくらいは問題なかった。王太子殿下の厳しい基準のもとに集められた、優秀で貴重な生徒達でもある。彼らが抜けると、穴を埋める者が見つからない。その後の仕事が回らなくなるため、重要なことでもあった。そうしているうちに、私と彼らの間では戦友のような、不思議な友情が芽生えた。

 「卒業後は家同士の交流でもない限り学校時代で終わる友情だ」と考えていたが、状況が変わり、その友情は私が学校を卒業してからも長く続いた。



  *  *  *



 侯爵令嬢の婚約者様との婚約解消の知らせは、突然だった。

 学校は夏季休暇を迎えており、生徒自治会の手伝いのために寮から登校した際に、全員がいることを確認し、王太子殿下自らお聞かせくださった。

 公布は二週間ほど前にされているそうで、王宮に仕える貴族は皆知っており、領地に暮らす貴族には爵位順に書簡を持った伝令が走っているらしい。

 我が家は伯爵家なので、そろそろ知らせが届く頃か。

 自治会には何人か男爵家、子爵家出身の子息もおり、全員が高位貴族の出身ではないため、そのことを知るのは社交界が始まる直前になるかもしれない。

 だが、私たちが知らないことで自治会の業務で不都合があるのは困るが、この王太子殿下がそのような気を遣うだろうか。


 疑問に思っていると、何故か個別に呼び出された。

 王子の個別に作られた執務室に入ると、そこで衝撃的なことを告げられた。


「私は、次の婚約者は貴女が良いと思っている」

「恐れながら。私に外交は務まりません」


 貴族の結婚及び婚約においては、王家の認可が必要になる。

 そのため、私に婚約者がいないことを把握しておられるのは良い。

 だが、異端の道を進んでいるとはいえ、私も貴族である。どのような意図をもって侯爵令嬢との婚約が結ばれていたのかは知っていた。


「良い。そこは私が居れば何とかなろうだろう。貴女には、今まで通り私を支えて欲しいと思うのだ」


 さて、どうしよう。

 王太子妃、いずれは王妃。

 この王太子の傍に立って、女性としては国の頂に迎えられる立場が目の前に転がっている。

 失うものは、私の名誉か。

 今ですら一部で酷い言われようをしていることを知っている。

 表立っては言われないが、わざわざ忠言をくださる親切な方がいるのだ。

 物理的な嫌がらせもいくつかあるが、私も暗黙の了解を無視している部分もあるので、仕方がないと諦めていた。

 このような状態がさらに酷くなると思っておかなければならない。

 しかし、得られるものは大きい。

 しかも王太子の横で今まで通りのことをするということは、いずれは国政の一端を担うことができるのか。

 今後の人生を考えた際に、破格の申し出であることは間違いない。

 貴族の領主と結婚したとしても、妻に領政に口出しを許す者はいないだろう。


「それは、私のようなものでも、国政に携われるということでしょうか」

「ああ。そのように考えている。妃の公務は大変だろうが、貴女は大変優秀だ。慣習に縛られ従来の公務に掛かり切りになるのは、その能力の損失だ。公務は代わりができる者がすればよい。

 私は我が国の古臭い風習に風穴を通したい。

 私が国主となった暁には、貴女のように優秀な者を身分・性別にかかわらず取り立てたいと思っている。

 貴女にはその象徴として私の隣にいて欲しいのだ」


 王太子が語るのは理想論だ。

 子供の自由が許される自治会と国政は違うだろう。

 大人の思惑が蔓延る政治の場で、どこまで意を通せるか。

 現状恙なく廻っているものを変えることは、それが国王という最高権力者でもいかに難しいことであるかを、どれだけわかっておられるのだろうか。

 いつかは勝利できるのだとしても果てしなく遠い戦いを覚悟しなければならない。


「王太子殿下は、その大変さをご自覚なされておられますか?」

「その自覚があるからこそ、貴女が良いのだ」


 真剣な眼差しに、私も腹をくくった。


「かしこまりました。私を婚約者にしてくださいませ」


 王太子殿下のお陰でここまで来ることができたのだ。

 そのうえ、その手を取れば望むことすらできなかった道が開けている。

 その手を取らないという選択は、私にはできなかった。



  *  *  *



 だが、現実は想定以上に厳しいものだった。

 状況はめまぐるしく変わっていく。


 義父となる国王陛下は婚約解消の責任を取られ、退位なされることが決まり、王太子への譲位が早々に決まる。

 婚約者に決まると同時に始まった王妃教育は、必要最小限のことを最速で終わらせ、公務などは婚姻を結んでから現場で実地で学ぶことになった。

 夫となる現国王は、その父だった先代陛下の仕事の引継ぎのために、外交の場に顔を出す暇もない。

 結局私が侯爵令嬢の仕事を引き継ぐものとして、我が国の外交官に付き添い、訪れている諸外国の外交官に挨拶をして回る。

 そしてわかったのは、想像以上に大きいラドフォード侯爵夫妻、及び侯爵令嬢の人脈の力と、侯爵令嬢の仕事の細やかさだった。


 他国の外交官からは、口からは「このような方を国の頂に迎えられて、素晴らしいことですね」と誉め言葉が零れるのに、皆その瞳は笑っていない。

 「あの侯爵令嬢を追い落としてその座についたのに、この程度なのか」という声なき声が若輩の私にさえ聞こえていた。

 我が国の外交官には侯爵令嬢がされていた仕事の詳細を聞かされていたが、とても私に真似できるものではなかった。


 人物を覚え、好みを覚え、来訪の日時を把握し、部屋から食事まで、恙なく整える。

 対面する際には、記録として残してある前回の訪問の際に交わした会話を踏まえて近況を伺い、また、噂として流れてきた訪問者の国の状況を気を悪くしない程度に伺う。

 当然、相手の国の地理や気候、産業などにも詳しくないといけない。


 実際の政治に関わる難しい話は、外交官や国王陛下たちがされるとはいえ、侯爵令嬢がしていた仕事は多岐にわたっていた。

 一つ一つのことは、そう難しいものではないが、すべてを同時に行おうとすると、それがどれほど難しいことか。

 侯爵令嬢が長い時間をかけて身に付けた、色々な積み重ねがあってこそできた一つのもてなしの形だった。


 同じ空間に居たこともあるというのに、彼女のことを見損なっていた自分を恥じ入るばかりだ。

 かの侯爵令嬢が全力を傾けていたのは、学業ではなく、その能力を期待されていた外交であった。

 こうして後からその仕事に携わることで、いかに自分が狭い視野でものを見ていたのか、嫌でも気づかされる。

 せめて私だけでも気がついていれば、王太子にその努力と成果を伝え、壊れかけていた仲を取り持つことすらできたのかもしれない。

 だが実際には私の存在が、最後の後押しをしたようなものだ。


 私などより、あの方のほうが王妃に相応しい方だった。

 そう後悔は絶えないが、既に後の祭り。

 何を言われようと私が立ち続けるしかない。



  *  *  *



 一年程の時間を必要としたが、必死で様々なことを一気に学んだ。

 まだ付け焼刃の部分もあるが、なんとか形にはなってきたと思う。だが我が国を訪れる外交官はどんどん離れていくばかり。

 その日は、たまたま時間ができたため、夫である国王に国政に関する書類を見せてもらっていた。

 読み取れる情報からは、商人などの流入が減り、流出が増えている。

 なぜなのでしょう、と零すと、夫自らが教えてくれた。

 公王の手腕にも舌を巻くが、侯爵令嬢はその仕事だけではなく、血筋もかけがえのないものだったらしい。

 驚愕の事実だが、そのことを婚約者だった夫が知らなかったことも驚いた。

 思わず疑問が零れる。


「ご存知、なかったのですか?」


 一瞬、気を悪くして怒鳴り返されるかと思ったが、夫は見たことがないほど冷静だった。


「恥ずかしいことに、そうだったのだ。最近、側近から教えられて知った。私は、今までなんと愚かだったのだろうな」


 黙り込む姿に、同情を覚える。


「それは私も同罪です。公王様の婚約者となられたあの方は、外交において素晴らしい才能を発揮しておられました。それを学校での姿だけを見て判断してしまっておりました。私もまた、愚かでした」

「貴女は、そのようなこと知り得る立場では無かったろうに。そのように気を遣わずとも良い。このような私について来てくれる、それだけで貴女にはは充分感謝している」

「ありがとうございます。ですが、私も、あの時陛下の傍に立つと決めたのです。あやまった判断をしたのなら、その結果は共に負います」

「…うむ。頼りにしている」

「それで、今後はどのように考えておられるのですか?」


 現在、国は急速に傾きつつある。

 なんとか保っているのは、血縁関係にある諸外国が手を差し伸べてくれているからだった。

 今までは交易の中継地として栄えていたが、今後それは望めない。

 急ぎ何らかの収益をあげる産業を考える必要があった。

 だが、新たな分野が育つまでには時間がかかる。

 まだしばらくは通行税などに頼る必要があった。

 それら全てのことをどうすべきか、早急に考え、結論し、貴族たちにも納得させなければならない。

 現在、王宮は状況の変化についていけておらず、昔日の栄華を追いかける者や、小手先の対応をしようとする者が大半だ。

 彼らが現状を受け入れきる前に、舵取りをしなくては、王家の権力すら危うい。


「現在、国策を父の時代に戻していっている。それから、様子を見て考えようと思っていたところだ」


 その言葉に頭が一瞬で沸騰する。

 反省したかのような素振りだったために同情していたが、これは本当にあの優秀だった王太子殿下と同一人物だろうか。


「何を悠長なことをおっしゃっているのですか。

 たとえ、不名誉なことだとしても、陛下には公王様の国に赴き、かの方の婚約者様に謝意をお伝えされてきてください。

 たとえ会うことができなかったとしても、せめて公王様にはお会いして頂いて、直接お気持ちを訴えて頂きます。

 我が国を訪れている外交官が減っているのは、公国の発展や婚約者様の影響もありますが、一つには近隣諸国が公王様に気を使って、訪れることを控えていることもあります。陛下にはまず、その状況こそを打開して頂かなくては。

 直接的な謝罪の言葉は不要です。

 むしろそれはいけません。

 ただ、己に顧みる点があったことをお伝えください。それで公王様やあの方には全て伝わるでしょう。

 これは陛下にしかできないことです。

 もちろん、私も一緒に伺います。

 婚約者様を蔑ろにした、それは私も同罪ですから」


 捲し立ててしまったが、どうしてもそれだけは夫にやって頂かなくてはならない。

 公に私たちの罪はない。我が国でその立場を蔑ろにされていたとはいえ、婚約解消も円満に行われている。だが、国同士の付き合いを考えるとそうはいかない。元ラドフォード侯爵令嬢はその努力は我が国で報われることがなく、感情としても政治的にも我が国と親しくする利点はない。

 公国と一対一の関係では、外交関係が消え失せることはなくとも、直接の成り行きを見ている諸外国は、組して利が大きい方の感情を拾い、他方とは疎遠になる。この場合、組して利が大きい方は公国に決まっている。ならば結論は出ていた。

 内省したことを伝え、我が国に対して思うところがないことを示してもらう、私たちに残されている手段はもう、それしかなかった。

 そうまでしても、ようやく様子見をしている諸外国が交流を持つことを考える程度だ。

 以前のように我が国に有利な条件など結べるわけはないが、それがなくては、待つのは滅亡のみだろう。


 すぐに外交の日程は整えられ、婚約者様に直接会うことはできなかったがなんとか公王には面会でき、私たちにも顧みる点があったこと、そして現在は過去の行いを悔いていること、その気持ちを伝えることができた。

 公王からは、あなたが彼女を手放してくれて感謝しているのですよ、などと嫌味を言われるも、ひたすらに耐えるしかなかった。

 そして残念なことに、もう一つ、夫は全くと言っていいほど頼りにはならなかった。



  *  *  *



 まさにレオン王の代は、激動の時代となった。

 各方面から恨まれ、王家の権力は地に落ちた。

 王太子の婚約を受けた時、このようなことになるとは考えてもみなかった。


 外交については夫と私のなりふり構わない行動が功を奏し、あの後微かに回復の兆しを見せているが、あまりは期待できない。良くて最低限国を維持できる水準だろう。公国で新しく運用が始まった運河は画期的な試みで、どうあがいても人はあちらに流れる。

 代わりとなる産業についてだが、いくつかの試みを、実家の伯爵家や興味を持ってくれた奇特な貴族に頼んで育てているところだ。

 国全体の施策としたいところだが、王家から権力はすでに剥がれており、命じても断られる。好意に縋るしかなかった。一家だけ、侯爵家が興味を持ってくれたことが救いだろう。どの家にも感謝は耐えないが、伸るか反るかわからないものにかける資金力がやはり違う。


 国王となった夫にも、我が国が近隣諸国から完全に見捨てられないために、頻繁に外国を巡ってもらっていた。

 元の性格からして、このような急激な変化には向いていないと思うが、今は現状をよく理解してもらい、そのような振る舞いを心がけてもらっている。交渉やバランス感覚に長けた調整に特化した教育を受けて来ているため、交渉事には強く、その点だけは頼りになる。


 国外に出ることが多い夫に代わり、国政は私が見ている。

 今はもう過去のものとなった栄華に縋りたい大臣やほかの貴族たちと戦うことが多い。

 学校の自治会で苦難を共に乗り越えた戦友たちは、その能力を伸ばし、各要所に散らばっているため、幾度も助けてもらっていた。

 この状況となった原因は私と夫にあるため、戦っても負けることばかりだが、あの時の経験が、このような形で生きてくるとは思いもしなかった。それだけは有難い。

 私が大臣たちと衝突し負けを重ねている姿を見ても、夫は何も言わない。

 ただ、結果が付いてこないことに対する不満と、苦労していると誤解しているような気配はなんとなく感じられるだけだ。

 それだけのことでも、以前では考えられなかった。私の行動に黙っていられるなら、それで十分だった。


 負けると分かっていてする衝突は、必要なことだ。

 衝突した当の大臣は、鬱憤を晴らすことができる。

 たとえ負けたとしても、議論した内容は周りの者たちも見ている。

 その中の誰かが、いつかはどちらに利があるのか、悟るはずだ。

 いつか、王家が言うから反対する、ではなく、利があるからやってみよう、と思うものが出てくると願っている。

 我が国の優秀なものたちなのだ。きっといつか、と信じている。

 それに何より、これらのことは、苦労とは思っていない。

 貶されることは堪えるが、次に王権を譲る我が子のためにも、今できることは全てしておきたい。

 それらを実現できている現状に、私は充分、満足している。

多分、彼女は生まれが低く文官課に行っていれば普通の幸せを手に入れたと思います。

王太子は一旦上げて下げる結果になりました。

一旦完結設定しますが、書けるようでしたらもう一つ別視点をあげます。

こちらはお待たせします。


  *  *  *

5/22 誤字修正 ご指摘ありがとうございます。


想像して、鳥肌がった。 → 想像して、鳥肌が立った。

慣習に縛られ往来の公務に掛かり切り → 慣習に縛られ従来の公務に掛かり切り

公務は変わりができる者 → 公務は代わりができる者

過った判断をしたのなら → あやまった判断をしたのなら

頻敗に外国を巡って → 頻繁に外国を巡って


6/26 本文修正 ご指摘ありがとうございました。

私は伯爵令嬢の娘 → 私は伯爵家の娘

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