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13.悪役令嬢とお茶会

会話文が多いです。

 トルメニア帝国は週七日制のため、カトレア学園は週末は休業日となる。


 何時もなら、休日はイシュバーン王国へ戻りアレクシスと交代して国王執務を片付けているのだが、レイチェルから生徒会の手伝いをしてくれたお礼がしたいと言われ、今日は帝都の貴族居住区にあるサリマン侯爵邸へお呼ばれしていた。



 芳醇な薔薇の香りがする紅茶を口にして、私はうっとりと季節の花が咲く庭園を眺めた。


 色とりどりの花が華やかに咲き、噴水が設置された侯爵邸の庭園には、ゆったりと過ごすことを計算して建てられた東屋もあり派手すぎすシンプル過ぎず調和のとれた配置は、屋敷の主であるサリマン侯爵のセンスのよさが窺えた。


 東屋に用意された紅茶と焼き菓子を囲み、私と他愛ない話を楽しむレイチェルはとてもじゃないが悪役令嬢には見えない。

 悪役令嬢に見えなくとも、攻略キャラとヒロインとの新密状況を考えると今のところ可能性がありそうなルートは、レオンハルト皇太子ルートかアーベルトルート。

 ヒロインがどちらかを選ぶなら、否応なしにレイチェルは断罪されてしまう。

 私が知っている範囲で、彼女はヒロインに対して悪いことはやっていない。

 堂々と浮気して、婚約者を蔑ろにしたレオンハルトが圧倒的に悪いのに、断罪され婚約破棄とか可哀想すぎる。



「仕事放棄したレオンハルト殿下とアーベルト様の御名前は消して、お兄様とシーベルト様の御名前を載せようかしらね」


 クスクス楽しそうに笑うレイチェルは、学園よりもずっと肩の力が抜けて可愛く見えた。

 こんなに綺麗で可愛い令嬢が、婚約破棄されて疵者扱いされるのは、物凄く勿体無い。


「レイチェルさんはレオンハルト殿下のことを、その、慕っていないの? 婚約者、なのでしょう?」


 唐突な私からの問いに、キョトンとした後、レイチェルはクスリッと笑う。


「お慕いするも何も、レオンハルト殿下との婚約は私達が11歳の時に皇帝陛下とお父様が決められたこと。以後は、婚約者の義務として殿下の恥とならないよう、気を引き締めて過ごしていただけですの。そもそも、三公爵家には男児しかおらず、殿下の婚約者として釣り合う年齢の令嬢が私しかいなかったため、婚約者とされただけだですから」


 紅茶を一口飲みレイチェルは目蓋を臥せた。

 長い睫毛が白磁の肌に影を落とし、なんとも言えない色気を醸し出す。


「それでも私は、皇子様に憧れて婚約者と成れたのは嬉しかったわ。殿下をずっと支えて生きていくものだと思い、拒否されても皇子妃教育を頑張って受けてきたのに......アイリ嬢が現れてから、あからさまに私を邪険にして生徒会長の仕事と勉学を放棄し、彼女の我儘を叶えようとあれだけの醜態を晒されたら、百年の恋も一気に覚めますわ」


「レイチェルさん......」


 睫毛が微かに揺れて、泣き出してしまうのではないかと私は彼女へ声をかけた時、パッとレイチェルは目蓋を開く。


「兎に角、アレは無理ですわ。レオンハルト殿下もアイリ嬢も、気持ち悪いんですもの。公衆の目前であんなにくっついて破廉恥だわ。それを恥だと思わず、自分勝手な考え方を権威を振りかざして従わせる。あの方々の全てが気持ち悪くて......生理的に受け付けないの」


 ブルリッと、身震いしてレイチェルは自身を抱くように両腕を回した。

 レオンハルトとヒロインのバカップル振りを思い出して、私は「あぁ」と声を出す。


「確かに、あれは気持ち悪いね」


「第一皇子殿下は離宮にて長らく療養中ですが、幼い皇女殿下もいらっしゃいます。現在、側妃様が身籠っていらっしゃる御子がもしも皇子殿下だったなら......皇位はどうなるかわからないでしょうね。あの皇后様は、それを御許しにはならないでしょうけど。皇帝陛下はどうかしら? 殿下の腑抜け状態が続いたら、皇族の血をひく公爵家から優秀な男子を養子にする、という形も取らざる得ません。以前のレオンハルト殿下だったら、愚かな行いを続けていたらどうなるかくらい分かりそうなものですのに」


 小馬鹿にした笑いを浮かべたレイチェルは、可愛い令嬢の顔から悪役令嬢の顔になる。


「私としては早く婚約を破棄して欲しいくらいなのに、アイリ嬢へ嫉妬など......嫌がらせなど......馬鹿らしくて呆れてしまうわ。どれだけ自意識過剰なのよあの馬鹿二人!」


 本音をぶちまけたレイチェルはすっかり砕けた口調となっていた。これが素の彼女なのだろうか。


「気持ち悪いくらい嫌なら、御父上に頼んで婚約は解消してもらったら?」


 先に婚約解消してしまえば、悪役令嬢断罪イベントは避けられないだろうか。


「お父様に頼んでも、皇帝陛下の御許しが無ければ婚約は解消できないのよ。でも、ふふふっ、ラクジットさんと話していると苛々した気持ちが楽になるわ。以前は不安だった婚約破棄によって疵者となるのも、今よりはずっとマシだと感じてしまうのよね」


 顔をくしゃっとさせて笑う、素のレイチェルの表情を見た私の脳裏に、ある計画が閃いた。

 これが上手くいったら、国の重鎮達の憂いも無くなるし巨乳好きな双子の片割れの望みも叶う。


「もしも婚約破棄したら......私の双子の兄はどうかな? 外見は私に似ていて性格も悪くないし、一年前に当主を継いだから地位も財産もある方だよ? レイチェルさんは、兄の好みのど真ん中だと思うし」


 私はチラリと、テーブルの上に乗るようにして存在をアピールしているレイチェルの立派な胸元を見る。

 今日は休日だから、彼女の服装はフリルの付いたブラウスとロングスカート。

 彼女が胸を張る度に、ブラウスの釦が弾け飛びそうになっている。これは、巨乳好きでレイチェルが好みだと幼い頃に言っていたアレクシスは堪らないだろう。


「私の父親は長く病気で静養していて、兄が代理を努めていたから婚約者は決めてなかったの。レオンハルト殿下と比べても、条件は良いと思うけど、どう?」


 次期トルメニア皇帝と婚約解消したとしても、イシュバーン王国の国王で竜王の血をひいているアレクシスが相手ならば、サリマン侯爵としたら万々歳だろう。

 上手くいけば、自身の血筋に竜王の血を取り込めるのだから。


「学園祭の夜会で、もしもレオンハルト殿下がアイリ嬢をエスコートする事態になったら......兄を紹介するね。婚約者以外の女の子をエスコートしたら、そこまで愚かで非常識で酷い男は止めた方がいいから」


 ポカンとしていたレイチェルは、私が本気でアレクシスを紹介しようとしていると気付き、あわあわと焦り出す。


「有難いけれど、殿下以外の方にエスコートされるなんて、お父様とお兄様が御許しにならないと思うわ」


「......御二人は許すと思うよ?だって、」


 東屋へ近付く足音に気付いた私は言葉を切る。


 彼が此処へ来るのにはタイミングが良すぎる気もしたが、侍女か護衛が私達のやり取りを聞いて細かく伝えているはず。



「やぁ、楽しんでいるかい?」


 胡散臭いくらい爽やかな笑顔を張り付けて登場したのは、シャツに黒いズボンという軽装のイヴァン=サリマン。


「お兄様? お父様と一緒に登城されたのでは無かったのですか?」


「ラクジット嬢が我が家を訪ねて来るのだから、用事は早々に終わらして来たんだよ。それで、どんな話で盛り上がっていたんだい?」


 絶対会話の内容を知っているだろうイヴァンは、私へ穏やかに問い掛ける。


「浮気者の婚約者殿に愛想を尽かしたら、私の兄を紹介するって話をしていたんですよ。学園祭の夜会で、レイチェルさんのエスコートを兄に頼もうかと思って」


「へぇ、ラクジット嬢の兄上か......それは良縁だね。僕の方から父上に伝えておこう。レイチェル、色狂いの馬鹿以外の異性を知るとても良い機会だ。是非ともお受けしなさい」


「えぇっ? お兄様?」


 断ると予想していたレイチェルは、アッサリ了解したイヴァンの態度に目を丸くした。


「では、学園祭の日は兄を学園に連れてきますね」


 じっとイヴァンを見上げて、私は彼に約束する。

 口元に人差し指を当てて目を細めるイヴァンの脳内では、レイチェルがイシュバーン王国王妃となった場合のメリットを算出しているのだろう。


 たとえヒロインに攻略されたとしても、イヴァンの性格上自身の恋愛より侯爵家の今後を選ぶ。

 これで、イヴァンは妹の悪役令嬢レイチェルを裏切らない。私は内心ほくそ笑む。

 やりたい放題でゲームとは違いすぎるヒロインより、学園のために頑張ってくれている悪役令嬢の肩を持っても仕方無いでしょう。


 本人に無断で夜会への参加を決めたアレクシスに対しては、心の中で両手を合わして謝っておいた。


レイチェルのことだけでなく、一応、アレクシスのことも考えているんです。

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