05.私と王子様のカテゴリー
会話文が多いです。
アレクシス=ローラント=イシュバーン
恋と駆け引きの方程式~魔術師女子高生~2のメインヒーローである。
日本からトリップをして異世界へとやって来てしまった女子高生ヒロインが、1の舞台である国立学園を無事卒業して、魔術師団の新米魔術師として勤め始めたある日、瀕死の重症を負い倒れていたアレクシスと出会い、物語が始まる。
甲斐甲斐しく世話をやくヒロインの優しさで、凍りついていたアレクシスの心は徐々に溶けていき......自分はイシュバーン王国の王子という事、暗黒竜である国王に体を乗っ取られるのを防ぐため、逃亡していた事を明かすのだった。
アレクシスの境遇を知り、ヒロインは学生時代に親交を深めた仲間(皇太子やら宰相の息子、騎士団長の息子、魔術師団長の息子、神官長の息子......とにかく攻略対象キャラ達)とともに、イシュバーン王国を救うため旅に出るのだ。
「双子? えっ?」
えっ?えっ?、私の口は壊れてしまったのか、何度も、えっ?と繰り返し問う。
混乱のあまり逃げたくなり、忙しなく視線を巡らして逃げる隙を探す私の手を、アレクシスは両手でぎゅっと握る。
「最近、ちょっとした切っ掛けから俺が双子で妹がいることを知ったんだ。それで......色々手を回して探して、ラクジットを見付けたから会いに来た」
真剣な表情で話すアレクシスは、私と本当によく似た顔立ちをしているのに、彼の瞳は意思の強さが表れているのか、全く違う蒼色に見えた。
しかし、双子とはどういうことだろう。
前世の知識、ゲーム内でもファンブックにもアレクシスが双子で、妹がいるとは載って無かった。
ブックブックに載っていた、製作陣の裏話インタビューページにもそんな話はなかったし、ネットでもそんな裏話は無かったと記憶している。
「ちょっと待って、私達が他人のそら似にしては似すぎているのは見た目で分かるけど、双子ってどういうこと? 貴方は王子様でしょ? じゃあ、私は......」
あれ?双子の片割れが王子様なら、私は実はお姫様だったのか?
「この国の王女様だよ」
あっさり肯定されて私は慌てる。
前世の記憶が甦ったばかりで、脳の許容量と処理能力が壊れかけていたのに、これ以上のとんでも事実があったら容量の限界で崩壊する。
「こ、この国に王女がいたって聞いたことがないよ?」
「王女が生まれたのは三百年ぶりみたいだし、君の事は隠されていたから知らないのは当然だよ」
「なにそれ」
うわー、と叫びかけた私の唇に、アレクシスの人差し指が当てられる。
「頼むから、大声はださないで。国王と黒騎士にバレたら危険なんだ」
自分とよく似た顔なのに、アレクシスの困り顔の方が可愛いいと感じるのは何故だろうか。
それにしても、髪と瞳の色から貴族の子女だろうと思って自分が王女だったとは。
私の事「姫様」と呼ぶ、メリッサとヴァルンレッドは知っていたのだろう。
「王の子は代々男子しか生まれなかったのに、男女の双子が生まれたのは前代未聞だったって。男女の双子は不吉だと言われて、王女ラクジットは殺されるか他国へ同盟の証として売られかけたけど、魔力の強さから助かったんだよ。今の王の花嫁とするために、その存在を知られないよう離宮で育てられる事になったんだ」
「他国に売られた方が良かったなぁ。閉じ込められて花嫁とか嫌だ」
生まれてすぐに他国へ売られていたら、現在、王の花嫁という死亡フラグを回避したいと苦悩しなくてもすんだじゃないか。
正直にそう言えば、アレクシスは苦笑する。
「ラクジット、このまま此処に居たら、君は王に殺されてしまう。俺達の母のように」
「母? お母様?」
勢い良く、私は俯いていた顔を上げた。
アレクシスの母親、ということは......前王の妃で、私の母親でもある。
「俺達の母は、伯爵家の令嬢だったって。婚姻式直前で花嫁が自殺したせいで、決まっていた結婚を破棄され無理矢理前国王の妃にされたんだ。そして、俺達を生んで......前王に喰われた。当時の事を知っている者達や、俺の乳母に精神魔法をかけて吐かせたから、これは嘘偽り無い事実だ」
硬い表情になったアレクシスは、ははっと乾いた笑いを漏らす。彼は今にも泣き出しそうに見えた。
無理矢理、妃とされて子を生まされて喰われた母は、国王と私達を憎みながら死んでいったのかもしれない。
苦しそうに顔を歪ませるアレクシスが一番伝えたい事は......まさか。
私の全身から血の気が引く音が聞こえた。
もう鬼畜どころじゃない。
暗黒竜となって長い時を生きていくうちに、倫理観とか道徳心とか、人として大事なものを色々消失しているんだろう。
「アレクシスは、陛下の正体を知ってるの?」
震える声で言った問いに、アレクシスは頷く。
「国王は、外見は違ってもあれが私の父親か。肉体を乗っ取って生き続けるだけでも受け入れられないのに。あはは、近親相姦とか、何その鬼畜な考え。結婚相手が父親とか最悪過ぎる」
ゲームは全年齢対象じゃなくてR15だったけど、私の設定だけR20のエロゲ仕様?
父親に貞操と尊厳と命を奪われるくらいなら、死んだ方がマシだ。
足から力が抜けて崩れ落ちた私を、アレクシスが支えようとするが支えきれずによろめき、二人揃って地面に膝を突く。
「ごめんね」
「いいって、大丈夫?」
ペタンッと、敷布の上へ座り込んだ私の隣にアレクシスは座る。
「そんな最悪設定は無かったのに」
「設定?」
呟きを耳にしたアレクシスは、大きく目を見開く。ガシッと彼は私の両肩を掴んだ。
「ラクジット、君はもしかして......転生者? 君は、この世界が何なのか知ってるのか?」
掴まれた肩をガクガク揺さぶられて、私は目を白黒させる。
「てん、転生者......? 前世の記憶持ちってこと? 世界とかは、知ってるか知らないかなら、知ってるになるのかな。あれ? もしかして、アレクシスも? って、痛い」
「ああ、ごめん」
慌ててアレクシスは掴んでいた肩から手を外す。
「俺も前世の記憶があって、此処がゲームの世界と瓜二つだってことも知ってる。だから、ラクジットを探したんだよ」
「うそ......」
そんな都合が良い展開ってあるのか。
王子様、アレクシスと双子というだけでも驚愕の事実なのに、双子が揃って前世の記憶持ちだなんて。
「前世の記憶が甦ったのは半年くらい前かな? 俺の護衛騎士をしてるダリル、黒騎士のおっさん枠と剣術の稽古をしている時に、派手に転んで頭を打って気絶したんだ。その時に思い出した。最初は頭がおかしくなったのかって混乱したけど、冷静になっていくにつれて、此処が前世の妹がハマっていたゲームの世界と一緒の世界観だって気付いた。因みに俺の出身は北海道で、大学生だったんだ」
この世界と異なる世界の懐かしい地名を耳にして、もう顔を思い出せない、前世の夫と行った初夏の北海道の一面に広がるラベンダー畑の風景を思い出して、私は目を細めた。
「私は11歳の誕生日、陛下に謁見している時に思い出したの。前世は、横浜出身の主婦だったよ」
「年上かぁ」
「年下かぁ」
同時に発した声は重り、お互い顔を見合わせてしまった。
「でも今は、兄妹だ」
「うん、そうだね」
瓜二つという程そっくりな訳ではないが、よく似た外見はした双子の片割れが同じ転生者というカテゴリーと分かり、私達は安堵の息を吐いた。
(私は、一人じゃない)
初対面なのに、懐かしかったのは私の魂が母親の胎内で一緒に育ったアレクシスの事を覚えているからか。
繋いだままの手に力をこめれば、彼は同じ様に握り返してくれて、きゅっと目頭が熱くなった。
ラクジットとアレクシスのカテゴリー→転生者。