第48話 メイドたちの交流
モエがイジスの専属のメイドになったという話は、あっという間に屋敷中に拡散する。
つい少し前にふらりと現れたマイコニドな新人メイドがそんな重職に就いたとなると、本来は何かと面倒な事になりそうなものである。ところが、ほとんどの使用人たちはその栄転を喜んでいるようだった。そのくらいにはイジスのモエに対する感情を理解しているようだった。
確かにぽっと出の新人メイドがそんな事になれば、長く働いてきた身からすれば悔しくて仕方がないだろう。だけど、モエの特殊な能力やイジスの態度を見る限り、意外とあっさりと諦めがつくのだという。モエは意外とみんなにも愛されているようだった。
「まったく……。予想はしていたけれど、ずいぶんと早く決まったものですね」
そう話し掛けてくるのは、モエの教育を担当していたエリィである。
「私もこんな事になるとは思っていませんでした。私はマイコニドだというのに、イジス様は本当に気まぐれです」
モエもきょとんとした表情でエリィと話をしている。
「私たちは悔しいとは思うんだけど、意外とモエだよ許せるのよねぇ」
「そうそう。モエってば真面目だし、子爵家の方々にも気に入られちゃってるものね。正確だって悪い子じゃないのは分かっているし、なんだか素直におめでとうって言えるのよねぇ」
同僚のメイドも、そんな事を言いながら食事をしている。
「みなさんが優しい方ばかりで、とても嬉しく思いますね」
つい笑顔になりながら、モエはみんなに頭を下げている。ちなみにだが、今もモエの頭にはルスが乗っかっている。
「みんながみんな、モエの事を祝福しているってわけじゃないけどね。でも、イジス様がかなり惚れ込んでいるから、処罰を恐れて手を出せないと思うわ」
「そうそう。ルスちゃんも居るしね」
メイドたちはそんな事を話しているのだが、やっぱりイジスからモエに対する感情というのは、もう周知な事のようだった。これにはモエは複雑な表情をしていた。
「モエさんは素晴らしい方だと思います」
「にゃはー。だから、あたしたちもこっちに残ったんだよ」
エリィが居るので、当然のように今エリィが教育を担当しているビスとキャロの二人も居た。
この二人は獣人なわけではあるものの、モエという亜人の先輩が居たおかげですんなりこの屋敷に馴染んでいる。
「亜人に関しては街の方もいろいろ思う事はあるでしょうから、そっちはこれからですね」
「頑張ります」
エリィが懸念を話すと、ビスは気合いを入れていた。
孤独な身という事もあって、子爵家に恩を返すために身を粉にする気満々なのである。頼もしい限りだ。
しかし、街の人が獣人を忌避するというのは、確かに予想される懸念ではある。
モエは意外と受け入れられているものだが、それは頭の笠さえ隠せばまだ人間の少女にしか見えないという事情があるからだ。それに、モエはマイコニドでありながら、振りまく胞子が特殊すぎるという事情もある。黙っていれば本当にただの人間である。
それに比べてビスとキャロは、耳と尻尾という大きな特徴がある。モエのようにはうまく隠せないし、しかも体毛がもふもふとしているのでそもそも隠しようがないのだ。現状は屋敷の中だけなので隠せている部分はあるが、そのうち街の人たちにも知られる事になるだろう。
反応が気になるところだが、その時はガーティス子爵家が矢面に立つつもりでいるようだった。
「ここで働けるようになってよかったと思います」
「あたしもそう思うの」
ビスとキャロは笑顔で話していた。
「さて、そろそろ夜も遅くなってきましたし、明日に備えてそろそろ休みましょうか。ビスとキャロには獣たちの世話をして頂きたいですしね」
「お任せあれ」
エリィがちらりと視線を向ければ、キャロがどんと胸を叩いて自信満々に言いのけていた。獣人だから、獣に対する扱いに自信があるのだろう。大したものである。
みんなは応援するような反応をしていたが、おそらくは獣の相手はしたくないのだろう。
まあそもそも保護された獣たちは、イジスとモエ以外にはあまり懐いていない様子なのだが……。はてさて、同じ場所に居たビスとキャロには懐くのだろうか。予想がつかないものである。
そういった交流も、メイドの一人が大あくびをした事でいよいよお開きのようだった。
「さすがに眠いですね。お先に失礼致します……」
「おやすみなさい」
同僚のメイドたちは次々と席を立って部屋へと戻っていく。
「私たちもそろそろ寝ましょうか。今日の仕事は終わっているわけですし、あまり遅くなると朝寝坊をしかねませんからね」
「分かりました。さっ、ルス。私たちも部屋に戻りましょう」
「わふっ」
モエの頭上でルスが小さく鳴く。
これを合図に、全員が食堂から去っていく。
本当にガーティス子爵領の使用人たちは和気あいあいとしているようだった。
こうやって見ると、モエは幸運なマイコニドだと思われる。みんなの反応を見ながら、ついモエは優しく微笑んでしまう。
(本当にここに来れてよかったですね)
そう思いながら、モエは部屋に戻って眠りについたのだった。




