森の一夜
森の中でリーフが止まった
辺りを見渡し、何かを確認すると
やっと落ち着いたように息を吐いた
「…ふぅ、今日は此処で一晩過ごします」
その掛け声に各々が大走鳥から降りて
僕達も辺りを見渡してみる
「今から焚火をする為に、薪とか集めたいんですけど、
ドーラさん達にお願いしていいですか?」
「リーフは」何かするのじゃ?」
「私は今から眠ります」
「なんでじゃ?そんなに疲れたのじゃ?」
「夜、一応誰か起きてた方が安心でしょ?
あまり来ない場所だから念のためですよ」
「あ~、確かにそれは助かるのじゃ」
「…それで、その~…
…できたら、主さん、貸して欲しいな~って…」
「…なんじゃって?」
露骨に嫌な顔をしたドーラだったが
最終的に僕はお昼寝するリーフを見守る役目になった
木漏れ日が当たる温かそうな場所を選んで
僕にリーフが寄り添うようにしてくる
「付き合わせちゃってすみません
もしかして、皆と辺りを歩きたかったですか?」
「大丈夫だよ
リーフを一人にするの心配だし…
もっと寄り掛かって平気だよ」
「なら遠慮しませんよ?
…それじゃ、おやすみなさい…」
会話はそれだけで、思っていたよりすぐ眠った
本当に疲れていたのかもしれない
彼女が眠りやすいようになるべく動かず、
森を見上げながら葉の擦れる音を聞いた
「…これは寝言なんですけど…」
とても小さな声だった
その声を聞いて、リーフの顔に視線を向けるけど
眼は閉じたままだった
「ずっと、二人で旅がしてみたかったんです
でも、ドーラさんが居るから、絶対に無理な事もわかってて…
それでも、憧れてて…
…今、それが少しだけ叶った気分です」
寝言だと言ったから返事はしなかった
代わりに繋いだ手に力を込めて
できるだけ身体を摺り寄せた
「…ふふ…
…私、幸せですよ…
…主さんと、皆と一緒に居られて幸せです…」
それだけ言うとリーフは静かになり、
すぐに寝息を立て始めた
しばらくすると少し離れた場所で、
ドーラ達が野営の準備を始めだした
浅く穴を掘り、大きめの石を周りに置いてから
中心に薪を組んでいるのが見える
一段落すると足音を立てない様に、
忍び足でドーラが此方に向かってきた
「…。」
寝ているリーフに気を使っているのか、
ただ様子を見に来ただけのようだ
羨ましそうな顔でリーフの寝顔を見た後、
ため息を吐いて戻ろうとするドーラを小声で呼び止める
「…ドーラ…」
「…?」
不思議そうな顔をするドーラに
彼女が寄り掛かっていない方の
動かせる手だけを使い、わざと言葉にはせずに
手振りだけで口を指さし、キスをして欲しいと強請った
「…くふふ…」
それに気が付いたドーラは
まるでいたずらっ子のように笑い、
音を立てない様にゆっくりと
二度、三度とキスをした
それだけでご機嫌になったドーラは
先程より軽快な足取りでフローラ達の方へ戻っていった
そして空が暗くなりかけた頃、自然にリーフが起きた
「外でこんなに安心して眠れたのは初めてです
主さんが一緒に居てくれたおかげですね」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
一緒に居るくらいしかできない僕でも
役に立てたと思えるとお世辞でもかなり誇らしくなれる
「本当ですよ?また、見守ってくださいね」
「なら大樹に帰る時も任せてね」
「約束ですよ?…えへへ…」
まだ里についてもないのに帰る時の約束をして
僕達は皆のところに移動した
「やっと起きたんじゃな?
早く主を返すのじゃ!」
「はいはい、わかってますよ~
ほら主さん、行ってあげてください」
「あはは、わかった
ただいまドーラ」
「お腹空いたじゃろ?
パンしかないけど、一緒に食べるのじゃ」
すぐ焚火を始めて食事をする事にした
フローラが固めに焼いたパンを食べると
普段より顎がかなり疲れる感じがした
でも、木の実が混じっていて味は美味しい
食べながら皆の様子を伺ってみると
グラがかなり不安そうな表情だった
辺りが暗くなり始めた頃から
そわそわして、少し落ち着きが無い
「グラ、大丈夫?」
「…う、うん…
…主さん、怖くないの…?」
「僕はドーラが居るから怖くないよ」
「…羨ましいの…」
そんなグラにフローラが何かを耳打ちした
グラは僕とフローラを交互に見て、
持ってるパンをギュッと握りしめて口を開いた
「…あ、あのね…
…私も、隣に行ってもいい…?」
「ドーラの?」
「…主さんの…」
「僕でいいの?もちろんいいよ」
頷くとすぐにグラは隣に移動してきた
それでも少し距離を空けているのが
グラらしいと言えばグラらしい
「…寝る時も、隣にいてもいい…?」
「ドーラ、いいよね?」
「リーフは見張りじゃっけ
ならば空いてるから構わないのじゃ」
食事が終わり、後は眠るだけだった
フローラはまだ眠くないらしくて
焚火を維持しながらリーフと話をするらしい
きっとリーフを一人にしない為だ
「主くん、ドーラとグラは任せるよ」
「任せて。おやすみフローラ、リーフ」
二人に挨拶をして焚火から少しだけ距離を取る
布を敷いただけの地面に寝ころぶと
両隣にドーラとグラも寝転んできた
「グラ、もっと主に近づくのじゃ」
「…も、もっと…?」
「くっついて主を温めたいのじゃ」
「…う、うん…」
確かに地面は少し硬くて冷たかった
でも二人がくっついてくれたから
身体が温まっていくのがわかった
最初に寝息を立て始めたのはドーラだ
グラももう眠ったかな?
そう思っていると僕の手を触ってきた
僕が反応すると驚いたのか、ビクっとして手を引っ込める
「…寝てると思ったから、触っちゃったの…」
「起きてても触っていいよ?
手、繋いで眠ろうよ」
「…いいの…?…繋ぎたいの…」
知らない場所で眠るのは怖いのだろうか
僕と手を繋ぐと強い力でギュッと握ってきた
「…朝まで、繋いでたら辛い…?」
「平気だよ
でもグラもちゃんと寝るんだよ?」
「…うん…手、繋いでたらきっと眠れるの…」
「よかった。おやすみ、グラ…」
「…おやすみなさいなの…」
おやすみを言うとグラは静かになった
繋いだ手の力もゆっくりと抜けていったが
最後まで離れる事はなかった
…。




