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第1話 謎のスキル

怒られたら修正ないしは削除します。

 この世界には魔法がある。

 火、水、風、土、光、闇。

 属性の種類や分類方法については国や学派によって多少の違いがあるものの、人々が魔力を操り、様々な現象を引き起こせるという事実に変わりはない。

 そして、この世界にはもう一つ、不思議な力が存在する。

 それがスキルだ。

 魔法とは異なる、生まれながらにして持つ特別な能力。

 畑仕事が上手くなる【農耕】、剣術の習得が早くなる【剣術】、魔法の消費魔力を減らす【火魔法適性】や【水魔法適性】など、その種類は数え切れないほど存在しており、人々は十歳になると教会で正式な鑑定を受け、自らのスキルを知ることになる。

 そして今日は、その鑑定の日だった。


「緊張してるのか、モフク」


 隣を歩く父タスクが笑いながら言った。

 俺は肩をすくめる。


「少しだけ」


「はっはっは。お前なら大丈夫だろう。魔法だって随分使えるようになったじゃないか」


「それは内緒だって言ったでしょ」


「家族しか知らんから安心しろ」


 父は豪快に笑った。

 俺――モフクは十年前に前世の記憶を思い出した転生者だ。

 前世は日本で暮らしていた普通の会社員だったが、どういう経緯かは分からないまま、この世界の農村に生まれ変わっていた。

 もっとも、転生したこと自体はそこまで気にしていない。

 優しい両親がいて、妹もいて、食事もそれなりに食べられる。

 前世より幸せかもしれないとすら思う。

 ただ一つだけ違ったのは、魔法の存在だった。

 前世では空想の産物だった力が、この世界では現実に存在する。

 だからこそ俺は幼い頃からこっそり練習していた。

 その結果、十歳にして簡単な火魔法や水魔法なら使えるようになっている。

 お湯を沸かす程度なら朝飯前だ。

 もちろん村の子供としてはかなり早い部類なので、公にはしていないが。

 そんなことを考えているうちに教会へ到着した。

 石造りの立派な建物の前には、同じ年頃の子供たちが大勢集まっている。

 皆一様に緊張した面持ちだった。

 人生を左右する日だから当然だろう。

 スキルは将来の職業にも大きく関わる。

 良いスキルが出れば選択肢は増えるし、珍しいスキルなら貴族に仕える道が開けることもある。

 逆にありふれたスキルなら、そのまま村で暮らすことになる場合が多い。

 もちろんそれが不幸というわけではないが、期待してしまうのが人間だ。

 やがて鑑定が始まった。


「【火魔法適性】です!」


 歓声が上がる。


「【剣術】!」


 また歓声。


「【農耕】!」


 こちらもなかなか好評だ。

 この村は農村なので農耕スキルは十分当たりの部類である。

 そして順番は少しずつ進み、ついに俺の名前が呼ばれた。


「次、モフク」


「はい」


 祭壇へ向かう。

 中央には大きな水晶球が置かれていた。

 神父が頷く。


「手を触れてください」


 言われるままに手を置いた。

 すると水晶が淡く輝き始める。

 周囲が静まり返った。

 数秒後。

 俺の頭上に文字が浮かび上がる。

【NISSIN】

 ……。

 …………。

 なんだこれ?

 一瞬、本気で思考が止まった。

 周囲も同じだったらしい。

 沈黙。

 誰も何も言わない。

 やがて一人の子供が首を傾げた。


「ニシン?」


「魚?」


「いやスキル名だろ」


 ざわざわと騒ぎ始める。

 神父も困惑していた。

 水晶球と俺を何度も見比べている。


「むぅ……」


「何か分かりますか?」


「申し訳ありません。聞いたことがありません」


 だろうな。

 だが俺は聞いたことがある。

 ありすぎる。

 前世日本人なら知らない人はいない。

 日清。

 カップヌードル。

 どん兵衛。

 焼そばU.F.O.。

 あの日清だ。

 だがなぜそんな名前がスキルになっているのか。

 意味が分からない。


「効果は?」


「鑑定ではそこまでは……」


 神父は首を横に振った。

 この世界のスキル鑑定は名前までしか分からない。

 詳細は自分で試すしかないのだ。

 結局、そのまま鑑定は終了した。

 珍しいスキルとして少しだけ話題になったものの、誰も内容を理解できないため、それ以上盛り上がることもなかった。

 そして俺たちは帰宅した。


◇◇◇


「それで、本当に心当たりはないの?」


 夕食前、母アルマが聞いてくる。

 テーブルを囲む家族全員の視線が俺に集まっていた。


「あるっちゃあるけど…」


「ニシンって魚よね?」


 妹のアリアが言う。


「たぶん違うと思う」


「じゃあ何?」


「俺が知りたい」


 本当に知りたい。

 前世知識があるからこそ余計に混乱している。

 そんなスキルが存在する理由が分からない。

 とはいえ、スキルは意識すると使い方が分かる場合がある。

 試しに集中してみる。

 すると頭の中に不思議な感覚が流れ込んできた。

 そして理解した。


「あ」


「どうした?」


 父が尋ねる。


「たぶん使い方が分かった」


 全員の表情が変わった。


「本当か?」


「うん」


 俺は立ち上がる。

 少し緊張する。

 だが感覚としては間違っていない。

 右手を前へ突き出した。

 魔法とは違う。

 魔力を練る感覚もない。

 ただスキルを発動するという感覚だけがある。

 次の瞬間。

 ぽん、と軽い音を立てて机の上に一つの物体が現れた。

 家族全員が固まる。


「なにそれ」


 妹が真っ先に口を開いた。

 無理もない。

 異世界人が見たことのない物体だからだ。

 紙とも木とも違う容器。

 派手な印刷。

 見慣れた文字。

 そこには大きく書かれていた。


『カップヌードル』


 俺は数秒間それを見つめた。

 本当に出た。

 夢じゃない。

 正真正銘、カップヌードルだ。


「食べ物だよ」


「食べ物?」


 母が呆れたように言う。

 確かに初見では食べ物と認識できないのかもしれない。

 だが俺は前世で何百回も見たことがある。

 とりあえず蓋を開く。

 中を覗き込んだ家族が驚いた。


「乾燥した麺?」


「具も入ってるぞ」


「どうやって食べるの?」


 そこで俺は少し考えた。

 そして答える。


「お湯を入れる」


「お湯?」


「ちょっと待ってて」


 台所へ向かう。

 父と母は不思議そうな顔をしていた。

 本来なら鍋で沸かすところだろう。

 だが俺には必要ない。

 水魔法でおよそ400mLの水玉をつくり、続けて火魔法で加熱する。

 程なくして湯気が立ち上った。

 鍛錬の成果だ。

 まだ誰にも見せていなかったが、この程度なら簡単である。


「おお……」


 父が目を丸くする。


「前より上手くなってるじゃないか」


「毎日練習してたから」


 説明は後回しだ。

 お湯をカップへ注ぐ。

 蓋を閉じる。

 そして待つ。


「これで完成?」


「いや、少し待つ」


「なぜ?」


「そういう食べ物らしい」


 家族はますます不思議そうだった。

 だが待っている間に漂い始めた香りが空気を変える。

 肉の匂い。

 香辛料の匂い。

 食欲を刺激する香り。

 父の腹が鳴った。

 妹もごくりと唾を飲む。

 そして三分後。

 蓋を開けた瞬間、湯気と共に香りが広がった。

 家族全員の目が見開かれる。

 俺も思わず笑ってしまった。

 どうやら俺のスキルは、本当に日清らしい。


「もういいの?」


 妹が待ちきれない様子で尋ねる。

 俺は蓋を少し持ち上げて中を確認した。

 見慣れた黄色い麺。

 湯気と共に立ち上る香り。

 どう見てもカップヌードルだった。


「大丈夫」


 そう言いながら蓋を完全に開く。

 その瞬間、部屋中に香りが広がった。


「おお……」


 父が思わず声を漏らす。

 母も目を丸くしていた。

 肉や野菜を煮込んだスープに似ているようで、どこか違う。

 この世界では嗅いだことのない香りなのだろう。


「いい匂い……」


 妹は完全に釘付けになっていた。

 だが問題がある。

 カップヌードルは一個しかない。

 家族四人で分けなければならない。


「とりあえず小皿を持ってきて」


 母が慌てて立ち上がった。

 しばらくして四つの小皿が並べられる。

 俺はフォークの代わりに木製の食器を使いながら麺を取り分けた。


「少ないな……」


 父が苦笑する。


「仕方ないでしょ。一個しかないんだから」


 母も同意する。

 そして全員の前に麺と具が少しずつ配られた。


「いただきます」


 まず最初に口へ運んだのは父だった。

 数回噛みしめる。

 そして動きが止まった。


「……どう?」


 妹が尋ねる。

 父はしばらく黙り込んだ後、もう一口食べた。

 さらにもう一口。

 そして真顔のまま言った。


「うまい」


 その一言だった。


「そんなに?」


 母も麺を口に運ぶ。

 次の瞬間、目を見開いた。


「えっ?」


 驚いたように俺を見る。


「なにこれ」


「食べ物」


「それは分かるわよ」


 そう言いながら再び麺を食べる。

 どうやら気に入ったらしい。

 妹も我慢できなくなったのか、自分の分を口に入れた。


「おいしい!」


 即答だった。


「なにこれ!」


「だから食べ物だって」


「もっと食べたい!」


 その言葉に全員が苦笑する。

 俺も同じ気持ちだった。

 前世では何度も食べたカップヌードルだが、久しぶりに食べるとやはり美味しい。

 この世界の一般家庭では、肉を使ったスープはそれなりに贅沢な料理である。

 それなのに目の前のカップヌードルは、湯を注いだだけで完成した。

 しかも味は十分に美味い。

 異世界人が驚くのも当然だった。

 やがて全員が食べ終える。

 残ったのは空になった容器だけだった。

 そして空の容器はまるで最初からなかったかのように消滅した。


「モフク」


 父が真剣な顔になる。


「なに?」


「そのスキル、本当にすごいんじゃないか?」


 俺は返事をしようとして、ふと違和感を覚えた。

 頭の奥に何かがある。

 意識を向ける。

 すると自然に理解できた。


『生成可能商品:カップヌードル』


『本日の生成可能回数:0/1』


 どうやら今日の分は使い切ったらしい。

 そして今のところ生成できるのはカップヌードル一個だけ。

 俺は苦笑した。確かに美味かった。

 だが一日に一個では商売どころか家族全員の腹も満たせない。


「どうだろうね」


 俺はそう答える。

 その時の俺は知らなかった。

 この奇妙なスキルが、やがて王国中を巻き込み、世界を変えることになるなどとは。



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