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第35話 最終回――公爵様の告白、王子の告白、そしてドーナツ!


 夕暮れの庭。

 私は公爵様と二人で、静かに並んでいた。

「ミヤ」

「はい」

 公爵様は、いつもの冷静な表情とは違っていた。

 少し緊張している。

「私は……君に伝えたいことがある」

「……?」

 公爵様は私の目を見る。

「最初は、君を不思議なメイドだと思っていた」

「はい……」

「物と話し、突然ドーナツを作り、王子まで屋敷に入り浸るようになった」

「……それはすみません」

「いや」

 公爵様が微笑む。

「いつの間にか、それが当たり前になっていた」

 そして――。

「君が笑っていると、私も嬉しい」

「……」

「君が困っていると、助けたいと思う」

 公爵様は一度だけ目を逸らし、そして真っ直ぐ私を見る。

「ミヤ」

「はい」

「私は君が好きだ」

「……!」

 顔が熱くなる。

「私と、これからも一緒にいてほしい」

「公爵様……」

 私は胸に手を当てる。

 小さく頷いた。

「私も、公爵様と一緒にいたいです」

 公爵様の表情が柔らかくなる。

「……ありがとう」

 その瞬間――。

「ちょっと待ったーーー!!」

「え!?」

 庭の植え込みから王子が飛び出してきた。

「王子!?」

「ミヤ!」

 王子は真剣な顔で私を見る。

「僕も君に伝えたい!」

「え?」

 公爵様が眉をひそめる。

「おい」

「公爵、邪魔しないでください!」

「……?」

 私が混乱する。

 王子は私の前に立つ。

「僕は君と出会ってから、毎日が楽しくなった」

「王子様……」

「ドーナツも美味しかった!」

「そこ!?」

「でも、それだけじゃない!」

 王子は胸に手を当てる。

「君が困っていると助けたくなる。君が笑うと嬉しい。そして――」

公爵が「そのセリフ、さっき俺が言った奴丸パクリだろうが」

 王子も顔を赤くする。

「僕も、ミヤのことが好きだ!」

「……!」

 沈黙。

 公爵様と王子が互いを見る。

「公爵」

「王子」

「僕は本気です」

「私もだ」

 バチバチと火花が散る。

「ちょっと待ってください!」

 私が慌てる。

 そこへ――。

「お兄様ーーー!!」

 王女が走ってきた。

「何ですの、この状況は!」

「ミヤに告白した」

「私の未来の姉に!?」

「え?」

 王女は私の腕を掴む。

「ミヤ!」

「はい!」

「あなたはもう私のお姉様ですわ!」

「まだ何も決まってませんよ!?」

「決まっています!」

 するとアルトまでやってくる。

「なるほど」

「アルトさん!」

 アルトは腕を組んで頷く。

「それなら僕にとっては――」

 ミヤを見る。

「妹だね」

「ええ!?」

 王女が叫ぶ。

「違いますわ! 私のお姉様です!」

「僕の妹」

「お姉様!」

「妹」

「お姉様!」

「妹!」

「二人とも落ち着いて!!」

 私は頭を抱える。

 公爵様がため息をつく。

「……なぜ告白した直後に、こうなるんだ」

 王子も苦笑する。

「ミヤがいると、毎日が騒がしいですね」

「王子様まで!」

そして――公爵家名物

 その日の夜。

 公爵家の食卓には、大量のドーナツが並んでいた。

『今日は特別よ!』

 調理器具たちが大張り切り。

「わぁ……!」

 王女の目が輝く。

「ドーナツですわ!!」

 王子も笑う。

「やっぱり最後はこれだな」

 アルトが一つ取る。

「いただきます」

 公爵様も手を伸ばす。

「……」

「公爵様?」

「いや」

 公爵様はドーナツを見つめる。

「この菓子には、ずいぶん思い出があるな」

「最初は食べたことなかったですもんね」

「ああ」

 公爵様が一口食べる。

「……やはり美味しい」

「でしょう?」

 王女が得意げに言う。

「ドーナツは世界を救いますの!」

「それは大げさですよ」

「何を言います! 五百年の悲劇を乗り越えた最後に食べるドーナツですわ!」

 アルトが笑う。

「確かに」

 王子も笑う。

「では乾杯しよう」

「何にですか?」

 王子がドーナツを掲げる。

「新しい未来に」

 公爵様もドーナツを持ち上げる。

「これからの記憶に」

 アルトが続ける。

「家族に」

 王女が元気よく叫ぶ。

「そしてドーナツに!」

「最後だけおかしいです!」

 全員が笑う。

 私もドーナツを手に取った。

 日本で過ごした時間。

 異世界へ来た日。

 壺にぶつかったこと。

 物たちの声を聞いたこと。

 公爵様。

 王子。

 王女。

 アルト。

 そして、たくさんの食器たち。

 どれも忘れたくない。

 私は笑って言った。

「これからも、たくさん思い出を作りましょう」

 公爵様が頷く。

「ああ」

 アルトが笑う。

「妹として歓迎するよ」

「だからまだ妹じゃありませんって!」

 王女が私に抱きつこうとして――

「お姉様!」

「だから違います!」

 王子が笑い、公爵様も笑う。

 食器たちまで、

『ミヤ! ドーナツもう一個!』

『私も食べたい!』

『食器だから食べられないわよ!』

 屋敷中が笑い声でいっぱいになる。

 私は思った。

 この世界に来たことは、偶然だったのかもしれない。

 でも――。

 ここで出会った人たちとの未来は、自分で選んだ。

 だから私は、これからもここで生きていく。

 物たちの声を聞きながら。

 大切な人たちと笑いながら。

 そして――。

「ミヤ、ドーナツもう一個」

「公爵様まで!?」

 今日も公爵家は騒がしい。

 だけど、それが私にはたまらなく幸せだった。

――完――

『異世界転生メイド・ミヤ

~物たちの声が聞こえる公爵家で、今日もドーナツ騒動です~』

完結!

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