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追放された悪役令嬢(♂)に転生した俺、チートを隠して辺境でスローライフするつもりが世界最適解になっていた件  作者: 南蛇井


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第54話:村と呼べる規模に

 最初に増えたのは、

 音だった。


 朝、目を覚ますと、

 どこかで木を割る音がする。


 昼には、

 知らない話し声が風に混じる。


 夜になると、

 焚き火の数が一つ、また一つと増えていた。


 レオンは、それを特別なことだとは思わなかった。


(……増えてるな)


 ただ、それだけ。


 ――理由は、単純だった。


 ここは、

 追い出されても追い返されない場所だった。


 最初に来たのは、元流民。


 街を追われ、

 どこにも属せなかった者たち。


「ここ、

 本当に誰も税を取りに来ないのか?」


「来ない」


「住んでいいのか?」


「止めない」


 それだけで、

 彼らは腰を下ろした。


 次に来たのは、元兵士。


 戦が終わり、

 不要になった存在。


 剣は持っているが、

 振るう理由を失っている。


「……仕事は?」


「自分で探せ」


「命令は?」


「ない」


 一瞬、戸惑い、

 それから――

 笑った。


「……久しぶりだな、それ」


 元追放者も来た。


 罪状は様々。


 失政の責任を押し付けられた役人。

 派閥争いに負けた貴族の遠縁。

 声を上げすぎた職人。


 共通点は一つ。


 どこにも居場所がなかったこと。


 エルナは、集落を見回して、

 小さく息を呑んだ。


(……もう、村ね)


 家屋が増え、

 畑が広がり、

 道らしきものができている。


 誰が設計したわけでもない。


 必要な場所に、

 必要なものが生えたように、

 自然に形になっていた。


 エルナは、思わずレオンに聞く。


「……受け入れすぎじゃない?」


「追い返す理由がない」


「治安は?」


「問題が起きたら考える」


 楽観的。


 だが、

 無責任ではない。


 実際、

 問題は起きていなかった。


 争いが起きそうになると、

 誰かが間に入る。


 盗みが疑われると、

 まず話し合いになる。


 罰則も、

 見せしめもない。


 それでも――

 人は、壊れなかった。


 セラが、ぽつりと呟く。


「……軍より統制取れてるぞ、ここ」


「命令がないからな」


 レオンの返答は淡々としていた。


「命令があると、

 守るために嘘をつく」


「……確かに」


 夕方。


 焚き火の前で、

 新しく来た男が言った。


「ここ、

 名前はあるのか?」


 皆が一瞬、黙る。


 名前。


 それは、

 役割を与えるものだ。


 区切りであり、

 ラベルでもある。


 レオンは、少し考えてから答えた。


「……必要か?」


「ないなら、ないでいい」


 男は笑った。


「じゃあ、

 “ここ”でいいな」


 皆も、

 それで納得した。


 夜。


 焚き火の光が、

 以前より遠くまで届いている。


 レオンは、

 少し離れた場所から、

 その様子を眺めた。


(……村、か)


 不思議と、

 重くはなかった。


 期待も、

 責任も、

 背中に乗ってこない。


 ただ――

 人が集まっているだけ。


 役割を失った人間たちが、

 何者でもないまま、

 並んで生きている。


 それはもう、

 村と呼んで差し支えない規模だった。


 だが、

 誰もそれを誇らない。


 誰も、

 成果だと思っていない。


 だからこそ、

 壊れずに、

 静かに広がっていた。

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