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追放された悪役令嬢(♂)に転生した俺、チートを隠して辺境でスローライフするつもりが世界最適解になっていた件  作者: 南蛇井


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第52話:共同統治の提案

 午後。


 エルナは、集落の端に立っていた。


 崩れかけた柵。

 半分だけ修理された道。

 畑と呼ぶには心許ない区画。


 ――何も整っていない。


 だが、

 破綻もしていない。


(……不思議な場所)


 統治されていないのに、

 混乱もない。


 命令がないのに、

 不満も噴き出していない。


 それが、

 どうにも落ち着かなかった。


 エルナは、決心してレオンの元へ向かう。


 彼は、いつも通り、

 畑の端で鍬を整えていた。


「少し、話せる?」


「今なら」


 作業を止める様子もなく、

 ただ応じる。


 エルナは、一呼吸置いた。


「……この村、

 放っておくには、惜しいわ」


 レオンは、否定しない。


「そうかもな」


「でも、今のままだと、

 いずれ問題が出る」


 人が増える。

 物資が要る。

 外部との関係も避けられない。


「だから、提案があるの」


 エルナは、まっすぐ言った。


「共同統治。

 私が表に立つ。

 領主家の名前も使える」


 空気が、少しだけ張る。


 セラが、遠くから様子をうかがう。

 リィナも、不安そうに手を止める。


 レオンは、しばらく黙っていた。


(拒否されるだろうか)


 エルナの中で、

 王都の記憶がよぎる。


 権力を嫌う人間。

 肩書きを拒む者。


 だが――


「いいんじゃないか」


 あっさりとした返答だった。


 エルナは、思わず聞き返す。


「……いいの?」


「やりたいなら」


 拒否しない。

 だが、

 乗り気でもない。


「条件は?」


「特にない」


「指示は?」


「必要なら聞く」


「最終決定権は?」


 レオンは、鍬を地面に立てた。


「それも、必要なら」


 エルナは、言葉を失う。


(……丸投げ?

 それとも、完全な信頼?)


 どちらとも違う。


 彼は、

 支配にも、服従にも興味がない。


 ただ、

 自分の生活を乱さないなら、

 誰が何をしても構わない。


 そんな距離感だった。


「……変な人ね」


 エルナが言うと、

 レオンは肩をすくめた。


「そうか?」


「普通、

 権限を渡すか、奪うかの二択よ」


「その二択が嫌で、

 ここにいるんだ」


 その言葉に、

 エルナは静かに納得した。


(ああ……

 この人も、

 “役割”から逃げてきたんだ)


「じゃあ、私は――」


 エルナは、少しだけ笑った。


「統治するけど、

 命令はしない」


「それでいい」


「困ったら?」


「考えればいい」


 簡単すぎる合意。


 だが、

 エルナの胸は、

 不思議と軽かった。


 夕方。


 セラがぽつりと呟く。


「……珍しいな。

 揉めない政治」


 リィナは、小さく首を傾げる。


「せいじ……?」


 レオンは、空を見て言った。


「たぶん、

 政治じゃない」


 ここで始まったのは、

 支配でも、革命でもない。


 ただ――

 互いに縛らないまま、

 一緒に生きる選択だった。


 エルナは、胸の中で思う。


(この場所なら……

 私も、

 “誰かの役”じゃなくていいのかもしれない)


 共同統治。


 それは、

 名前だけが立派な、

 最も緩やかな約束だった。

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