第116話:王国崩壊加速
王都。
朝。
市場は静まり返っていた。
以前は人で溢れていた場所。
だが今は違う。
店は半分以上閉まっている。
残っている店の前には――
長い列。
食糧を買うための列だった。
女が震える声で言う。
「まだありますか……?」
商人は首を振る。
「今日の分は終わりだ」
女の顔が青くなる。
「そんな……」
後ろの男が怒鳴る。
「ふざけるな!」
だが商人も叫び返す。
「俺に言うな!」
「入ってこないんだ!」
それは事実だった。
王都に食糧が入ってこない。
商人たちが避けている。
理由は簡単。
もっと儲かる場所がある。
辺境都市――
グレイウッド。
王城。
会議室。
空気は重い。
宰相が報告を読む。
「食糧価格、先月の二倍」
「農村の放棄が増加」
「魔物被害拡大」
貴族たちの顔が青い。
一人が叫ぶ。
「兵を出せ!」
宰相は首を振る。
「出しています」
だが。
足りない。
魔物の数が増えている。
街道も危険。
物流が止まる。
そして。
経済が崩れる。
宰相はさらに資料を出す。
「税収も減少しています」
商人が減った。
商売が減った。
金が回らない。
王国の経済は――
崩壊しかけていた。
城の外。
街。
怒号が響く。
「食べ物をよこせ!」
「子どもが飢えてる!」
石が飛ぶ。
兵士の盾に当たる。
指揮官が叫ぶ。
「下がれ!」
だが。
もう止まらない。
人々は怒っていた。
貴族の屋敷が襲われる。
窓が割れる。
火が上がる。
暴動。
それも一か所ではない。
王都のあちこちで起きていた。
城の塔。
王子アルバートが街を見ていた。
煙。
炎。
怒号。
かつて栄えていた王都。
それが今。
崩れている。
王子は小さく呟く。
「……どうして」
宰相が後ろに立つ。
王子は振り返らない。
「兵を増やした」
「討伐もした」
「税も変えた」
それでも。
状況は悪くなる。
王子は言う。
「なぜ止まらない」
宰相は少し沈黙した。
そして言う。
「流れです」
王子
「流れ?」
宰相は遠くを見る。
「人」
「物」
「金」
全部の流れ。
それが。
今――
王都から離れている。
王子は言う。
「どこへ」
宰相は答えた。
「グレイウッド」
沈黙。
王子は拳を握る。
「……あの街か」
辺境の街。
だが。
今は違う。
人が集まる。
物が集まる。
金が集まる。
それはつまり。
力が集まる。
王子は窓の外を見る。
燃える王都。
そして遠く。
まだ見えない辺境の都市。
王国は今――
静かに。
だが確実に。
崩壊へ向かっていた。




