第五十八話「帰還」
わたしとクロウは、小屋で待つミリアさんとエマちゃんの元に戻ることにした。
クロウがわたしにしたことについて、もっと問い詰めたいところだったけど、二人を待たせる訳にもいかなかったし。
「おねえさ~ん」
「うん?」
小屋に入ろうとしたところで、なにやら聞き覚えのあるプリティボイスが。
声のした方向を見やると、ドドドと砂埃を上げながらポポちゃんが走ってきている。
ポポちゃんは、わたしの前で急制動すると、頭をグリグリと押し当ててきた。
「さみしかったよ~、だからきちゃった~」
「あらあら、よーしよし」
甘えてくるポポちゃんの頭を撫でる。
うーん、可愛い。やはりポポちゃんはベスト・オブ・癒しだ。
「ルビィ、お前はここにいろ」
「あ、はい」
ポポちゃんと戯れるわたしを置いて、クロウが小屋に入っていく。
それから数分後、クロウが一人で小屋から出てきた。
「あれ、ミリアさんとエマちゃんはどうしたんですか?」
「眠らせた」
「ああ、なるほど……って、ええ!?」
「ついでに記憶も少し消させてもらった。具体的には吸血鬼……マーカスについての記憶。それからルビィと俺に、この森で出会った記憶だ」
なんか、淡々とすごい所業を語っていらっしゃる。
魔法って、そんなことまで可能なのか。
「どうして、ですか?」
「覚えていられると、面倒事になりそうだからだ」
……たしかに、そうなのかもしれない。だけど、なんだか罪悪感がある。
「さて、ちょうどいいところにポポが現れてくれたな」
クロウがポポちゃんに目を向ける。
「うん? なにかなあ?」
ポポちゃんはキョトンと頭を傾げた。
なんとなくだけど、クロウの考えを察する。
「まさかクロウさん……」
「そのまさかだと思うぞ」
クロウが再び小屋の中に引っ込む。
そして片腕にミリアさんを担ぎ、反対側にエマちゃんを抱えながら出てきた。
「この二人を、ポポに森の外まで運んでもらう」
やっぱり予想通りだった。
「ルビィ、お前からポポに頼んでくれ。その方が言うことを聞きそうだ」
「あれえ?」
ポポちゃんがミリアさんとエマちゃんを見て声を上げた。
「どうかしたの、ポポちゃん?」
「おんなのひとに、こどもだよねえ」
「うん、そうだけど……」
「もしかして、このおんなのひと、みりあってなまえかなあ?」
ポポちゃんの言葉に、わたしは目を瞬かせた。
「なんで知ってるの?」
「やっぱりそうなんだ~。えっとね、ここにくるとちゅうで――」
ポポちゃんは、ミリアさんとエマちゃんを捜している男性と遭遇したらしい。
「おいルビィ、何事だ」
ポポちゃんとのやり取りを見ていたクロウが、そう訊ねてくる。
事情を説明すると、クロウは難しい顔になった。
「二人の捜索に来た町の人間か……そいつは一人だったのか?」
「ポポちゃん、どうだった?」
「ひとりじゃなかったよ~」
わたしはポポちゃんの答えをクロウに伝える。
「そうか。ならば、この二人はそいつらに発見してもらうとするか」
「もしかして、二人をここに置いていくんですか?」
「ああ、そのつもりだ」
「それ、大丈夫なんでしょうか……」
こんな場所に女性と子供を置き去りにするだなんて。
「大丈夫だろう。マーカスはもういない。とはいえ、別の魔物はいるかもしれんがな」
「どこが大丈夫なんですか!」
声を荒げると、クロウはうるさそうに顔をしかめる。
「落ち着け。一応、魔物除けの魔法を施していく」
「本当にそれで安全なんですか?」
「当たり前だろう。俺様の魔法なんだぞ」
クロウに懐疑的な視線を向けると、自信満々にそう返される。
「信じます、任せましたよ」
「ふ……任されよう」
まだちょっと不安だけど、クロウを信用するしかない。
ミリアさんとエマちゃんを小屋に残して、わたしたちは屋敷に帰ってきた。
二人にはクロウが魔物除けの魔法を使ってくれたけど、やっぱり心配だ。
町から来た人が、早く二人を見つけてくれるといいんだけど。
「やれやれ、森を歩き回ったせいで身体が不快だ」
屋敷に入るなり、クロウがそう漏らす。
「俺は風呂に行く」
宣言するクロウに、わたしは「いいですね」と返した。
「わたしもお風呂に入ろうかな」
クロウと同じく森を探索したわけだし。色々と変な汗も出たしね。
「ほう、ならば一緒に入るか」
「え――」
なんでもないような調子で言うクロウに絶句する。
「な、なななな、なに言ってるんですかっ!」
入るわけないでしょうに。
「冗談に決まっているだろう。真に受けたのか?」
「う……わかってます! 受けてません!」
意地の悪そうな笑みを浮かべるクロウから顔を逸らして、わたしは意味もなく屋敷の外に出てしまった。なにやってるんだろう。
「あれ、ルビィおねえさん、どうしたの~?」
「な、なんでもないよ」
庭先にいたポポちゃんが、わたしの近くに寄ってくる。
そういえば、気になっていることがあったんだ。
「ねえ、ポポちゃん」
「なにかなあ?」
「森で会った男性って、どんな人だった?」
特に意味はないんだけど、なんとなく気になっていたんだよね。
「えっとね~」
ポポちゃんが中空を見つめる。
男性と会ったときの記憶を辿っているのかな。
「たしか……ぎんぱつで、おっきなけんをせおってたよ~」
「銀髪で、背中に大きな剣……」
なんだか知っているような。
「もしかしてなんだけど、その人って小さな狼を連れていなかった?」
「うん、そうそう~。らいくんだよ!」
やっぱり。
「かわいかったな~、らいくん。でも、ぼくがちょっとだけうえかなあ……えへ」
どっちも可愛いと思います。
銀髪で、大きな剣を背負っていて、狼のライオネルくんを連れている男性か。
うん、間違いない。
リスルムの教会で会った、ミカエラさんだろう。
町からミリアさんとエマちゃんの捜索に来たのは、ミカエラさんだったんだ。
ちゃんと二人を発見してくれているといいけど――




