表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/71

第五十五話「クロウの魔剣」

 全身を怖気が駆け抜けた。

 マーカスと呼ばれた吸血鬼の視線が、わたしを捉えたからだ。

 もしかして、わたしに狙いを変えた?

 というか思い出したけど、あのマーカスって人……黒の王復活の儀式をやっていた司祭だよね。

 わたしと同じく生贄に選ばれた人たちに、手を下していた吸血鬼だ。

 目覚めた黒の王に殴り飛ばされていたけど……生きてたんだ。びっくり。

 ……なんて驚いている場合じゃない。


 よく考えなくても、マーカスにとってわたしは恰好の的じゃない。

 貧相とはいえ魔法を使えるだけの魔力は持っているんだから。

 いくら少ない魔力で活動できるとはいえ、より多量の力を確保しておきたいと、わたしなら考える。


 こちらを凝視していたマーカスが動いた。

 ものすごい速さで、まっすぐに走ってくる。

 目標はたぶんクロウじゃなくて、その後方にいるわたしだ。

 駆けてくるマーカスに、クロウが立ちはだかる。


 そして手にした剣でマーカスを斬りつけた。

 マーカスはクロウの剣を腕で掴むと、そのままへし折った。

 えぇ……どんな腕力?

 折られた剣は光の粒になってクロウの手から消える。


「……ちっ」


 忌々しげに舌打ちして、クロウは身体を捻った。

 左脚を軸にして、マーカスの腹部に回し蹴りを喰らわせる。

 マーカスの身体が回転しながら宙に浮き、吹き飛んだ。

 五メートルほど離れた場所でマーカスは落下して、鈍い音を立てる。


「う、うわぁ……」


 思わず声を漏らしていた。

 クロウってば、蹴りの威力がえげつない。

 普通の人間なら、今ので死んでると思う。

 そう、普通の人間が相手ならだ。

 土の上に落下したマーカスが、何事もなかったかのように立ち上がる。

 口から血を流しているみたいだけど、平気そうにクロウへと向かっていく。

 目の前で繰り広げられる超絶戦闘を、わたしは呆然と眺めるしかない。


「邪魔をするなァァァァッ! クロウ・インバーテッド!」


「下郎が気安く呼ぶな」


 クロウは、こんなときでも尊大な態度を崩さない。

 迫るマーカスにも慌てず、至って冷静な様子だ。

 右手を上げて、再び魔法で剣を造り出す。

 クロウが屋敷を出る前、武器を持つ必要がないって言っていたのは、あの魔法があるからだったんだ。


 便利そうに見えるけど……たぶんあれ、魔力が不足したら使えないよね。

 などと考えている間にも、吸血鬼同士は互いの攻撃をぶつけ合う。

 クロウが振り上げた剣に、マーカスは拳を突き出す。

 破砕音が耳朶を打つ。

 クロウの剣が砕かれた音だ。

 マーカスはそのままの勢いでクロウの顔面を殴ろうとする。


 ヒュン――と、なにかが空気を裂くような音がした。

 そう思った刹那。


「ガァァァァッ!」


 マーカスが呻き声を上げる。

 クロウを狙っていたマーカスの右腕が消えていた。

 ううん、切断されたんだ。

 クロウが左手で新たに造り出した剣を振るい、マーカスの腕を斬った。

 さっきの空気を裂くような音の正体はそれだ。

 どさり、とわたしのすぐ近くに「なにか」が落ちた。


 視界の端に捉えた「それ」を直視しないようにする。

 たぶん、というか間違いなく斬り飛ばされたマーカスの右腕だろう。

 しっかりと目にするのは、きっと精神衛生上よろしくない。


「ぐううう……」


 呻きながら、マーカスが地面に膝を突く。

 左手で右腕を押さえながら顔を上げて、クロウを恨みがましく睨む。


「おのれ……おのれ……クロウ・インバーテッド……」


「気安く呼ぶなと言っただろう」


 クロウは剣を右手に持ち替えて、その切っ先をマーカスの眼前に突きつけた。


「終わらせてやろう」


「ふ、ふははは……」


 突然、マーカスが笑い出した。

 なになになに、なんだか怖いんですけど。

 クロウもいきなりのことに怪訝そうな顔になってる。


「気でも触れたのか」


「はははは……油断したな、クロウ・インバーテッド」


「……なんだと、どういう意味だ?」


 そう問い掛けた直後、クロウは弾かれたようにこちらを振り向いた。


「ルビィ!」


「え?」


 クロウがわたしの名を叫ぶ。

 同時、足首を「なにか」に強く掴まれた。


「きゃあ!」


 驚いて、足元に目を向ける。

 そこには――

 クロウに切断されたマーカスの右腕がいた。

 マーカスの右腕に、わたしの足首ががっちりとホールドされている。

 な、なにこれ、どういう状況?

 肘から上だけの状態で動いて、いつの間にかわたしに近づいた?

 というかゾンビ映画みたいで怖い!


「――ちっ!」


 クロウがマーカスに背を向けて、こちらへ駆け出す。

 ほとんど一足飛びでわたしの元まで来ると、マーカスの右腕を剣で突き刺した。

 刺された右腕が、わたしの足首を放す。

 クロウは剣ごとマーカスの右腕を地面に突き立てる。

 串刺し状態になった右腕は激しく悶えてから、糸が切れたように動きを止めた。


「平気か?」


「は、はい、ありがとうございま……」


 言葉を途中で止める。

 クロウのすぐ背後に、マーカスが迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=49427196&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ