第二十二話「呼び名」
シャルティアさんとわたしがやって来たのは、町の中心地にある酒場だった。
うん、たしかに情報収集といえば町の酒場だよね。
なんかゲームぽくてワクワクしてきた。
「行きましょう、シャルティア様!」
わたしは意気込んで、店の扉に手をかけようとする。
「少し待ってください」
そんなわたしを、シャルティアさんが冷静に止めた。
「なんですか、シャルティア様」
「……それです」
「はい?」
うーん、「あそこ」とか「それ」とか迂遠な表現が多いな、もう。
「どれですか?」
「貴女の私に対する呼称です」
「はあ……呼び方が駄目なんですか?」
シャルティアさんが静かに頷く。
それから、わたしに顔を寄せて、小声で話を続ける。
綺麗な顔が間近に急接近してきて、こちらとしては落ち着かないんだけど……。
「あまり、私の名を出さないようにして欲しいのですよ」
「どうしてですか?」
「念のため、です。ヒポグリフ……ポポは、私たちの屋敷が伝説として語られていた、と言っていたのですよね? 怖ろしい吸血鬼が眠っていると」
「はい、言ってましたけど……」
「つまり、もしかしたら私の名前も伝わっているかもしれない」
「あ、そっか……」
まだ確証が得られたわけじゃないけど、おそらくこの世界は……
「……『伝説の吸血鬼と同じ名前』の人物がいたら、注目されてしまうでしょう?」
「はい、たしかに」
「ですから、ここでは私の名前を口にしないで欲しい」
「わかりました。でも、それじゃなんて呼べばいいですか?」
名前を呼べないというのは、結構不便だと思う。だから、なにか別の呼び方を決めておきたい。ポポちゃんに続いて、また名前の話かって感じだけど。
「そうですね……シャル、ならばまだ平気でしょう」
「では、シャル様で」
「様もやめましょう」
「……いいんですか?」
まあ心の中じゃ、そもそも様付けじゃないんだけど。
「構いませんよ」
「それじゃあ……シャルさん」
「はい……ああ、そうだ。私もルビィさんとお呼びしていいですか」
「え? もちろん大丈夫ですけど……それも念のためですか?」
わたしの……ルベーリアの名前なんて、誰も知らないと思うけどな。
「いいえ、違います」
シャルティアさん改め、シャルさんが首を横に振る。
じゃあ、なんでいきなり?
「実のところ、ルベーリアさんというのは長いと思っていたんです。この際ですから、私もルビィさんと呼ばせていただこうかと」
「……ふふ」
シャルさんの説明に、わたしは笑ってしまった。
「どうかしましたか?」
「いえ、クロウ様も同じような理由で、わたしをルビィと呼び始めたので」
見た目も雰囲気もまるで違うけど、兄弟なんだなぁなんて感じてしまった。
「そうだったんですか」
シャルさんも口元を綻ばせる。
「……さて、それでは行きましょう」
「はい」
今度こそ、わたしは酒場の扉に手をかける。
重い木の扉を開いて、わたしとシャルさんは酒場に入店した。




