第十九話「名前を決めよう」
「お待たせしました」
そうこうするうち、シャルティアさんがサロンに戻ってきた。
「すみません、ルベーリアさん。すぐに食べられそうな物は、これしか見つかりませんでした」
シャルティアさんが持ってきた白いお皿を、わたしの前に差し出す。
「こ、これは……」
お皿の上に乗っているのは、焦茶色をした一口サイズの丸っこい物体が数粒。
ゴクリと喉を鳴らして、わたしはシャルティアさんに問う。
「もしかして……チョコレート、ですか?」
「はい、チョコレートです。お嫌いですか?」
「いいえ!」
わたしは激しく首を横に振る。
甘い物、大好き! という訳でもないけれど、チョコレートは好きだ。
「それはよかった。では、どうぞ」
「は、はい、いただきます!」
わたしはお皿の上に乗ったチョコを一粒、指で摘まんで口にする。
ほんのりと苦くて、甘い味が口内に広がる。
どうやらビターチョコらしい。うん、甘過ぎなくて美味しい。
「それから、これを……」
シャルティアさんが鳥さんの方をチラチラと見ながら、わたしに大きな葉っぱで包まれたなにかを手渡してきた。
「これは?」
「ヒポグリフにあげてください」
「はあ」
なんだろうこれ?
わたしは、葉っぱの包みを開く。その中身は……
「干し肉?」
平たく大きな干し肉だった。
「生肉があれば、それを与えるべきなのですが」
「そうなんですね」
わたしは干し肉をちぎって、鳥さんに差し出す。食べてくれるかな。
「わーい、いただきまーす」
鳥さんは嬉しそうに寄ってきて、わたしが手にした干し肉のかけらを嘴で器用に食べた。
「どう? 美味しい?」
「うん、おねえさんにもらったから、よけいにおいしいよ~」
「またまた、鳥さんったら~」
持って来てくれたのはシャルティアさんだけどね。
それにしても、いつまでも「鳥さん」って呼び方はなんだか味気ない。
「ねえ鳥さん、鳥さんには名前とかないの?」
「ひぽぐりふってよばれるよ~」
「ええと……そういう種類としての名前じゃなくって、鳥さん固有の名前とかはない?」
「う~ん?」
鳥さんが考え込む。
「あ、むれのなかまからは『ずんぐり』ってよばれてたかな~」
それは……名前じゃないね、うん。
「今更だけど鳥さん、仲間の所に帰らなくていいの?」
「あ~、いいのいいの。ぼく、おねえさんといたいから」
「そ、そう?」
鳥さんには森の外まで案内してもらわなきゃだから、いてくれるのはありがたい。
「ところで鳥さん、もしよかったら名前を考えてもいいかな?」
「なまえ? それって、ぼくの?」
「うん、そう」
「おねえさんがつけてくれるの?」
なんだか鳥さんが目を輝かせている。
「よかったら、だけど」
「ぜひぜひ、つけてよ~」
「よーし、じゃあ考えるね」
どんな名前がいいだろう。
「鳥さんは、なにか希望とかあるかな。どういう感じがいいとか」
「そうだなぁ……ぼく、ものがたりのおうじさまみたいなのがいいな」
「王子様?」
ちょっと意外なリクエストがきた。
うーん、王子様みたいな名前か。
王子様……王子様……
あれ、どんな名前が王子様っぽいんだろう。考えてみると、結構難しいかも。
んんんん……王子……王子……王……
「そうね……じゃあ、アレキサンダーでどう?」
「ええ~」
わたしの提案に、鳥さんが微妙な反応をする。
アレキサンダーは、お気に召さなかったみたいだ。
わたし的にはカッコイイと思うんだけどな。
「ルベーリアさん」
「え、はい」
突然、シャルティアさんが口を開く。
なんか目が据わっていて、ちょっと怖い。
「察するに、ヒポグリフに名前を与えようとしているみたいですが」
「ええ、そうですけど……駄目、でしたか?」
なにか怒っている様子だし。
「いえ、駄目ではありません。しかし……」
「しかし……?」
「アレキサンダーはないでしょう」
シャルティアさんにまで否定されてしまった。なんなの。全世界のアレキサンダーさんごめんなさい。
「なら、シャルティア様はなにがいいと思いますか? ちなみに鳥さんの希望は『物語の王子様』っぽい名前です」
「ほう、王子ですか……ならば、シャルティア二世はどうでしょう?」
「……はい?」
「自分で言うのもなんですが、『シャルティア』という名前は、どこか王子らしさがあると思うのですよ」
たしかに、そういう気がしないでもないけど。
「鳥さん、どうかな」
「ぜったいやだ」
鳥さんはぷい、と顔を背ける。
まあ、そりゃそうだよね。
「シャルティア様、却下だそうです」
「そ、そうですか……」
見るからに落胆するシャルティアさん。ちょっとかわいそうかも。
でも、シャルティア二世はアウトだよ。




