第十二話「愛らしい」
「シャルティア様、大丈夫ですか?」
屈み込んで、シャルティアさんの肩に手を置く。
すると、シャルティアさんは微かに身じろいだ。
生きてるみたいで、ひとまずは安心。
「シャルティアさまー」
「う……」
さらに呼びかけてみると、反応が返ってくる。
シャルティアさんは頭を動かして、わたしに顔を向けた。
「……ルベーリアさん」
わたしの姿を確認したシャルティアさんが、ゆっくりと口を開く。
「ここは……私は、私たちはいったい……?」
「実はですね……」
状況を説明しようとすると、シャルティアさんはいきなり勢いよく立ち上がった。
「兄さんは!?」
シャルティアさんが慌てたような声音でそう発する。
「落ち着いてください。クロウ様も無事ですから。ほら、そこにいます」
わたしは鳥さんの背に乗せられたクロウを指し示す。
「……ルベーリアさん」
「はい?」
「あの……鳥は?」
「それがですね、いきなり茂みから現れたんですよ。でも、わたしたちを襲ったりするつもりはないみたいで……って、シャルティアさん?」
わたしが説明していると、シャルティアさんはフラフラと鳥さんの方へ近づいていく。
クロウの様子をたしかめたいのかな?
そう思っていると、シャルティアさんは鳥さんの前で足を止めた。
「なんて……なんて愛らしい……」
シャルティアさんが小声でそう囁く。
え? 今なんて?
「あの、シャルティアさん?」
「……はっ、あぁ……いや、兄さんは大丈夫のようですね」
いや、それで誤魔化されませんよ。
「今、『愛らしい』って言いましたよね?」
わたしの追求に、シャルティアさんは「うっ」と言葉を詰まらせる。
が、それも一瞬。シャルティアさんはすぐに平静を取り戻したようで、にこやかな顔をわたしに向けると一言。
「言ってません」
「……えぇ」
シャルティアさんは、きっぱりと言ってのける。
いやいやいや、絶対に「愛らしい」と口にしていたよね。
「きっと、ルベーリアさんの聞き間違いかなにかでしょう」
爽やかな笑顔で、シャルティアさんが告げる。
なんか静かな「圧」を感じるよ。これ以上、追求するのは怖い気がしてきた。
「……お前ら、なにを騒いでいる」
ふと、不機嫌な声が鳥さんの背から聞こえてくる。
ようやくクロウが目を覚ましたみたい。
「……どういう状況だ、これは」
自分が置かれている状況に、クロウは困惑気味に呻いた。
「なんで俺は、ヒポグリフの背に乗せられているんだ?」
ヒポグリフ? それが鳥さんの名前……というか、種名なのかな。どこかで聞いたような名前だ……なんて思っている間に、クロウが鳥さんの背から下りる。
「しかし……随分と丸いヒポグリフだな」
クロウが鳥さんの頭に軽く触れながら、薄っすらと笑みを浮かべた。
「む、なんだかばかにされてる?」
鳥さんが不機嫌そうな声で鳴く。
「さて。シャル、ルビィ、説明しろ」
「すみません、兄さん。私も目を覚ましたばかりで、よくわかっていなくて……」
そこでシャルティアさんが、わたしに視線を向けてきた。わたしに話して欲しいという意味だろう。
「わたしも、あんまり把握してないんですけど……」
とりあえず、ここまでの経緯をクロウとシャルティアさんに聞かせる。
わたしが話し終えると、二人はそれぞれ、なにやら考え込み出してしまった。
「ねえ、おねえさん」
「うん?」
手持ちぶさたなわたしに、鳥さんが近寄ってくる。
「さっきのおはなし……もしかしておねえさんたち、あのおやしきにすんでるの?」
そっか。会話の内容から、そう結びつけてもおかしくないよね。
「うん。あ、わたしは違うけど、あの二人はそうだよ」
「じゃあ、もしかして……あのふたりがでんせつのこわいきゅうけつき?」
「え、あー……」
うーん、なんて答えたものかな。
返答に困ったわたしは、なんとなくクロウとシャルティアさんの様子をうかがう。
「シャル、お前はこの状況をどう見る?」
「そうですね……考えられる可能性は二つ……いえ、三つかと」
「ほう、俺も同じだ。詳しく話し合いたいが……ここでは落ち着かんな」
「では、ひとまず屋敷に戻ってみましょう」
シャルティアさんの提案に、クロウが頷く。
「おいルビィ、いつまでもヒポグリフと戯れていないで行くぞ」
「は、はい!」
わたしたちは、屋敷へ戻ることになった。




