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第十一話「トッブウド・イタリベーシャ」

「ヒポヒポ」


 巨鳥が、わたしのすぐ目前までやってくる。


「ヒーポー」


 怯えるわたしに、巨鳥が顔を寄せてきた。

 そして――


「ヒッポヒポヒポ」


「え……?」


 巨鳥がわたしの頬に、頭をぐりぐりと押しつけてくる。


「ヒポヒポヒポポ~……」


「ぐええ……な、なになに、なんなの?」


 甘えたような声音で鳴きながら、巨鳥はぐりぐりをやめない。


 でもなんか、わたしを食べる気はないみたい……?

 わたしはおそるおそる巨鳥の頭部に触れる。


「うわ……すっごいモフモフ……」


 なんとも幸せな感触。この世界で記憶を取り戻してから、初めての癒しだよ。


「はぁ~モフモフ~」


「ヒポポ~」


 わたしは巨鳥の頭を撫でる。


「……はっ、和んでる場合じゃなかった」


 襲ってくるような気配もないし、つい。


「ヒポ?」


 巨鳥が不思議そうに頭を傾ける。


「えっと……貴方は、わたしたちを食べたりしない?」


 問いかけといてなんだけど、この子が人の言葉を理解できるかわからないよね。

 あ、そういえば……さっきは思い出せなかったけど、『サント・ブランシュ』には、動物と会話できる魔法もあった気がする。

 しかも、その魔法……他でもない『ルベーリア』が使っていたような?

 なんのシーンだったか覚えてないけど、その魔法を使って『ルベーリア』が主人公に蛇かなにかをけしかけようとするみたいな展開があった。

 わたしは『ルベーリア』の記憶から、魔法の使い方を知ろうと試みる。

 記憶は簡単に思い出すことができた。上手くできるかどうかわからないけど……やってみよう。

 わたしは意識を集中して、呪文を口にした。


「トッブウド・イタリベーシャ」


 ……うん、たぶん上手くいったと思う。会話できるかどうか試してみないと、わからないけど。


「こほん」


 なんとなく、わざとらしい咳払いを一つ。わたしは再度、巨鳥に語りかける。


「ねえ鳥さん、わたしの言葉がわかる?」


 すると、巨鳥は何度か目を瞬かせた。


「わあ……おねえさん、ぼくとおはなしできるの?」


 やった! 成功だ!


 巨鳥が発しているのは変わらず「ヒポポ」とか「ヒポヒポ」とかって声だけど、わたしには意味がちゃんと理解できる。


「鳥さん、貴方はわたしたちを食べる気……じゃないよね?」


「ええ? そんなふうにおもってたの? こわがらせてごめんよ……」


 巨鳥……鳥さんが、悲しげな声を出す。


「よかった……わたしこそ、怖がったりしてごめんなさい」


「ううん、いいんだ。しょうがないよね」


「ところで……鳥さんは、どうしてクロウ様を背に?」


「ぼくは、きみたちをもりのそとまではこぼうとしていたんだ」


 森の外……?


「あの、鳥さん」


「どうしたの?」


「森の外にも、世界があるの? 町とか……」


 わたしの質問に、鳥さんは瞳をぱちくりさせる。


「あるにきまってるじゃないか。おかしなことをきくなあ」


 鳥さんが笑う。

 森の外に、世界がある。つまり、わたしたちは封印された屋敷から解放された?

 でも……屋敷の周りは、こんな鬱蒼とした森じゃなかったはずなんだけど……


「きみたち、まいごなんでしょ?」


「え?」


「もりのなかでまいごになって、こんなところでねてたんじゃないの?」


「えぇっと……」


 どうしよう。なんて説明したものかな。


「だめだよ、こんなばしょでねちゃ。ここはきけんなんだから」


「危険?」


「うん、ほら」


 鳥さんが、わたしの背後を指……じゃなくて翼を向けて示す。そこにあるのは、インバーテッド家の屋敷だ。どういうことだろう?


「あのやしきには、こわいきゅうけつきがねむっているってでんせつがあるんだ。だからちかづいちゃいけないっていわれてる」


 ……その怖い吸血鬼を今、貴方は背に乗せています。

 でも、なんだろう。鳥さんの言い回しに、微かな違和感を覚えたような……


「ほら、ぼくについてきて。もりのそとまであんないするから」


「ま、待って!」


 歩き出そうとする鳥さんを、わたしは呼び止めた。

 勝手に屋敷の近くを離れたりしたら、クロウに怒られそう。

 それに、まだシャルティアさんの無事を確認できてない。


「鳥さん、この辺りにもう一人、倒れてなかった?」


「……あぁ、そういえばいたような」


「本当? どこに?」


「たしか、そのあたりのくさむらにまだころがってるはずだよ」


 わたしは近くの草を掻き分けて、シャルティアさんを探す。

 求めている姿は、すぐに見つかった。わたしがいた場所から少し離れた所の草むらに、シャルティアさんは俯せで倒れていた。

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