お風呂殺人未遂事件
「どうしてって、ここは私の宮殿ですもの、いても不思議はないでしょう?」
実に不思議そうに首を傾げるティエル女王は、お風呂に相応しく当然すっぽんぽんだった。
「いや、いやいやいや、僕らが入ってるの知ってましたよね? っていうか前隠してください!?」
「あら、お風呂では裸の付き合いが礼儀というものですよ」
こっちの世界にも同じ格言あるのかよ! と思ったが実際の所僕はそれどころではなかった。何故なら……。
「マサヤ!!」
「なにって、ぐぼがぼごぼぼぼ――」
突然、リアに呼ばれたかと思ったら、振り向く間もなく頭をがっしと掴まれて湯船に押し込まれる。
「マサヤは見ちゃだめでしょ!」
お湯に阻まれて若干くぐもったリアの怒鳴り声が聞こえる。そして、反論しようと立ち上がろうにも、僕の力がリアに敵うわけもなく、どんどん肺の空気が追い出されていく。
「マサヤ、聞いてるの?!」
「がぼ……ぼ……」
薄れゆく意識の中、リアの怒りが僕を責め苛んでいたような気がしたが、とうとう空気を全部持っていかれた僕には割とどうでもいいことだった。
「……サヤ! マサヤ!」
「う……あ……?」
誰かに呼ばれた気がして、薄っすらと目を開けると。眼の前には泣き顔のリアが迫っていた。
「良かった、マサヤ気がついたのね!」
「僕は一体――?」
今の体勢を確認すると、どうやら浴槽のそばの床に、リアに膝枕されている状態のようだった。ごほっと口から少量の水が溢れると、ビクッとリアが反応する。
「勇者殿は勇者リアに水責めにされていたんですよー」
僕の疑問に答えてくれたのはのんびりとしたティエル女王の声だった。彼女は、浴槽に身体を沈めていて刺激的な部分を隠れていたが、透明度が高いお湯なので余りマジマジと見るのもはばかられた。
「人聞きの悪いこと言わないで!? ちょ、ちょっと浴槽に押し込んだだけじゃない……」
「思い出した! 突然有無を言わさず溺れさせられたんだ!」
「うっ……ううっ……ごめん、なさい……」
「リ、リア!?」
僕の言葉にボロボロと泣き出したリアに、オロオロとする。というか、泣くほど罪悪感を感じるなら、そもそも拷問まがいの方法を取らないで欲しかった。
「だ、大丈夫だよ。もう怒ってないから」
女の子の涙は卑怯だ。いつだって男が折れることになるのだから。
「ホント……? 嫌いになったりしてない……?」
「ぼ、僕がリアの事嫌いになるわけないだろ……」
膝枕されている状態でなんて恥ずかしいことを言わせるのか、この子は。横目で見ると、ティエル女王がニマニマといやらしい笑みを浮かべてこちらをガン見していた。
「ちょっと! 見世物じゃありませんよ!」
「あらあらー、お熱い所をお邪魔してしまったみたいでー。あら、でもここはお風呂ですしお熱くても当たり前かしら」
等ととぼけたことを言う女王。僕はいい加減我慢ならず、リアに一言告げてから身体を起こした。
「だ、大丈夫? まだ横になっていた方が……」
心配そうなリアに、僕は大丈夫だとアピールすると、彼女はようやく安心したようにほっと胸をなでおろす。
「勇者リアはもうちょっと勇者殿の感触を楽しみたかったのではないかしらー?」
「「ティエル女王!!」」
「うふふ、ごめんなさい。ちょっとイタズラが過ぎましたね」
口では謝っていても、内心絶対まだ楽しんでるぞ、あの人。
「それでは改めて、三人でお風呂につかりましょう。親睦を深めることにもなりますし」
そんなとぼけたことをのたまう女王をジト目で見つつ、意見を求めてリアをうかがう。彼女は一瞬嫌そうな顔をしたが、諦めたような吐息を漏らした。
「……なんかしゃくだけど、まあほとんど温まってなかったし、折角だから入らせてもらいましょう」
僕は彼女に同意すると、湯船へと身体を沈める。それに続き、リアもまた湯船へと入ってきた。……先程からなるべく意識の外へとやっていたリアの裸が、ようやくお湯で隠れたことに安堵する僕。この鋼の精神を誰かに褒めてもらいたいくらいだ。リアに身体を隠せなんてとても言える状況じゃなかったし……。
なるべくティエル女王から離れた所に入っていたのに、彼女はすすすと僕の方へお湯を揺らして近づいてきた。僕からほんのちょっぴり間を空けて並んでいたリアが敏感に反応する。
「ちょっと、何故わざわざこちらへ来るんですかね!?」
「その方が話しやすいでしょう? 伊達や酔狂だけで入ってきたわけではないのです」
「伊達や酔狂は認めるのね……」
疲れたようにぼやくリア。その気持はとても良くわかる。
「それで、話というのは?」
「ダークエルフの真の目的について、です」
思いの外真面目な話に、僕とリアは身構える。
次回は7時の更新です。




