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赤い死神の勇者は伊達じゃない!

 国境線。分かりやすく言えばこのルイア王国と森との境界線なのだが、何しろ国自体が森で出来ているようなものなので解りにくいことこの上ない。現地の人間に聞いても「大体この辺りから」という頼もしい返事をもらうことしかできなかった。

 

「リアとモモは一体どこに――」


 その時、グオオォォォという尾を引く断末魔が周囲に木霊した。

 

「な、なんだ!?」


 反響しすぎて位置の特定が難しかったが、何とか当たりをつけてそこへ駆けつけてみると、愛剣をよっこいしょとばかりに肩に担ぎ上げて、嘆息しているリアの姿があった。その周囲には国境警備兵らしきものもおり、呆然とした様子で、リアとその前に横たわっている魔物の亡骸の間を何度も視線を行き来させていた。

 

「あら、マサヤ! どうしたのよ」


 まるで何事もなかったかのように、こちらに気付いたリアがひらひらと手を振って挨拶をしてきた。僕はそんなリアの元へと駆け寄る。


「いや、ティエル女王に国境の警備の様子を見てくるように言われたんだけど……」


「なあに、マサヤってば私が心配だったの?」


 ニヤニヤと、ちょっといやらしい笑みを浮かべてからかうように顔を覗き込んでくるリアが調子に乗っていてうっとうしい。


「うん、心配したんだよ。本当に……」


 なので悪戯心から反撃すると、リアはカッと顔を赤くしてもじもじとし始めた。


「そ、そんな素直に言われたら照れるじゃない……」


 ちょっとうつむき加減に顔を赤くしているリアは端的に言って可愛かった。しかし、そうは問屋が卸さないとばかりに大型の魔物が唸りを上げて現れる。

 

「勇者様! 後ろ! 後ろ!」


 警備兵たちが必死にリアに警告する。僕自身もリアを通り越してその魔物に視線が釘付けだ。

 

「リア! 後ろから来てる後ろから来てる!」


 役に立つか解らないが、一応抜剣しながら構えるが、リアはまだ自分の世界に浸っていた。


「マサヤってば時々大胆な事言うんだから、でもそこがまたいいっていうか……」


 周りの兵士たちがリアの様子に顔を色んな意味で青ざめさせながらも、戦闘隊形をとって魔物に備え始めた。

 

「グオオオォォォ!!」


 仲間を殺された恨みからか、その猪に良く似た体高が5メートルはあろうかという魔物が、血走った目で僕たちを睥睨へいげいしている。じり、と兵士達の弱気が行動に出てしまったのか、警備隊が半歩魔物から距離を取ってしまったことで、その魔物は強気になり、地響きを鳴らして一気に距離を詰め、未だに魔物へと見向きもしないリアへと飛びかかった。

 

「リア!!」


「――もう、さっきからうるさいのよっ!!」


 僕の叫びと、リアの怒号が重なる。

 

「アアアァァァァ!!」

 

 その瞬間、リアは振り向きざまに一息で大剣を使って薙ぎ払い、あの巨大な魔物を一刀両断に叩き伏せる。周囲に鮮血や内蔵やらが飛び散り、凄惨な現場の中でリアは大量の血に染まり眉をひそめた。

 

「もう、汚れちゃったじゃない!!」


「「「「気にするのそこかよ!!」」」」


 僕と警備兵たちの心が一つになった瞬間である。

 

 

 その後、僕は血をある程度拭い落としたリアにモモの状況をたずねた。

 

「モモ? あの子ならあっちの方角に警備兵と一緒にいるはずだけど……」


 リアが方角を指差すが、そこかしこに樹齢何千年かというような大木が立ち並んでいるのでハッキリ言って解らなかった。


「あの、勇者様……」


「「なに?」」


 声をかけてきた国境警備兵に、リアとハモって答えると、警備兵は苦笑しながらも訂正した。

 

「勇者マサヤ殿、モモさんの様子を見に行かれるのでしたら、私がご案内いたしますよ」


 その声に、一斉に反応したのは国境警備兵のメンバー全員だった。十数名はいるかと思われる姦しい乙女たちが、抗議の大合唱を行う。

 

「ちょっと、抜け駆けはなしよ! マサヤ様、お供にはぜひ私を!」


「何言ってんの、戦力的に判断すれば私が行くのが自明の理でしょ!」


「ちょっと副隊長!? それは職権乱用ですよ! ですからここは平の兵士である私が!」


「隊長、そんな見え見えの嘘ついてまで現場を放棄するつもりですか!?」


「案内したら帰ってくるもーん」


 もーんて……。いかんせん、僕はこの現場の指揮系統や部隊編成も全く知らされていないので誰が本当の事を言っているのか全く解らない。

 

「ちょっとあなた達、いい加減にしましょうね?」


 絶対零度の声音で、微笑みを浮かべたリアが額に青筋を作りながらも見回すと、その威容に飲まれて警備兵の皆さんは、うっと言葉をつまらせて押し黙ってしまう。

 

「全く、油断も隙もないんだから」


 ブツブツと呟きながら、リアは僕をキッと睨む。

 

「えっ!? 僕なにかした?」


「そもそもマサヤが優柔不断なのが原因でしょ!」


 えぇー……。それ僕のせいじゃなくない? っていうか僕何も言ってなくない? しかしそんな理不尽さは彼女には通用しない。

 

「というわけでマサヤは一人で行きなさい!」


「は、はいぃ!!」


 リアの怒声に弾かれるように飛び上がり、僕は彼女の指し示す方向へと駆け出す。背後からあぁ……という声にならない溜息のようなものが聞こえた気がしたが、気のせいということにしておこう。


次回は17時更新です

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