あざとい、流石女王陛下あざとい
「……サヤ、起きなさい、マサヤ!」
「ハッ!?」
目を覚ますと、眼前にリアの顔が迫っていた。後頭部はやたらと柔らかい感触に包まれているし、一瞬自分がどうなっているのか把握するのに戸惑ったが、数秒でリアに膝枕されているのだと気がついてカッと顔が赤くなる。
「リ、リア! ありがとう、その……介抱してくれて」
こちらが照れながら礼をすると、恥ずかしいのか、リアもまた顔を赤く染めて聞こえるかどうかギリギリの声で呟いた。
「い、いいのよこれくらい。私は勇者なんだから……」
それ勇者関係あるの? なんて野暮なツッコミはしない。するとその様子を見ていたモモが声を張り上げた。
「マサヤとリアが真っ赤なのです!」
「「赤くない!」」
思わず息ぴったりに言い返してしまった僕とリアに、モモは怯んで体をビクッと震わせた。
「ひぅっ!? モ、モモは何も見てないのです……」
すっかり縮こまってしまったモモを見て、僕とリアは反省する。気のせいかティエル女王とトラムスの視線も冷たい。
「それで、創造神様とお会いすることはできたのですか?」
ティエル女王が気を使ってくれたのか、話の流れを変えてくれた。
「え、ええ。加護についても話を聞いてきました。創造の女神様は、リアにも複数の加護があると明言していましたよ」
「ちょっとマサヤ、それ本当なの!?」
僕の言葉に顔を輝かせるリア。彼女の顔をしっかりと見て、もう一度詳しく説明した。聞き終えたリアは、小難しい顔をして額に手を当てている。
「可能性の種、ね……。ということは、“加護”がいつ発現するか、わからないということなのよね」
「そうだろうね。具体的な時期までは教えてくれなかったし……、それに」
言葉を続けようとしたその時、にわかに外が騒がしくなっていた。ドタバタと幾人もの足音が駆け回っているようで、そのうちの一部が地下牢に飛び込んできた。
「も、申し上げます、ティエル女王! 只今我が国で異変が起きております!」
「落ち着いて、状況を説明なさい」
慌てふためく伝令の兵とは対照的に、ティエル女王は諭すように声を掛ける。
「は、はっ! 現在、我が国のマナバリアが解除され、しかも一切の魔法や魔道具の使用ができなくなっています。このような異常事態は初めてです!」
伝令兵の焦りの声に、僕たちは言葉を失った。ティエル女王の顔を伺うと、うっすらと額に冷や汗をかいて仮面のような笑顔を貼り付けている。
「少々お待ちなさい」
「は、はぁ」
伝令兵は曖昧な指示に従い、その場で立ち尽くす。その間にティエル女王は衛士から素早く牢の鍵を奪い取ると、躊躇いなく牢の鍵を開け、ずずいと僕に顔を寄せてきた。
(これは、あなたの魔法の影響で間違いないですよね?)
(っていうか女王様、なんとかしてくれてる約束でしょ!? 何で混乱が起きているんですか!?)
小声で怒鳴るという器用な真似をし、僕はティエル女王に逆に詰め寄る。
(忘れてました、てへっ)
(ことここに至っては可愛く言ってもダメですよ!?)
怒られて、しゅんとしたティエル女王は衛士や伝令兵に顔を向けた時には、もうすでに威厳を取り戻した顔をしていた。
「落ち着きなさい、これは一時的な現象です。念のために国境周辺の警戒を怠らないよう、兵を増員してください。民には一時的なものであるという事を周知させなさい」
「は、ははっ!」
矢継ぎ早に指示を出し、ティエル女王はほっとしたように一息ついた。
「行く前に念を押しましたよね?」
ぼそっと僕が毒を吐くと、ティエル女王は輝かんばかりの笑顔で振り返り、ぱちんとウィンクをしてごまかした。
いやいや、誤魔化せてないから!
「今のは、まあ行って帰ってきただけなのでそれほど時間を待たずにマナは回復すると思います。問題は聖剣の修復ですね。おそらく膨大なマナを持っていかれるんじゃないかと思うのですが」
「んー、どうしましょう。1日、2日で治まりますかね?」
ティエル女王は小首を傾げて目線を投げてきた。僕はあえてそれには答えずに、リアの方に向き直る。
「リア、マナが枯渇している間はリアを頼らなくちゃいけない。悪いけど、その間がんばってくれるかい?」
するとリアは当然! と言わんばかりに大きく頷いた。
「任せて! 私は勇者、選ばれし者なのだから!」
「モモもがんばるのですー!」
そうだった。モモも戦力としてはかなりのもの、それをティエル女王に告げる。
「そうなのですねー。モモさんも、私達の国のために協力して頂けるかしら?」
「なのですー! モモはいい子だからみんなのお役に立つのです!」
ふんす! と鼻息も荒く言い切るモモに、その場にいる皆が穏やかな笑顔を浮かべる。……トラムス以外は。
「お、おい」
トラムスが遠慮がちにモモを呼ぶと、モモはこてんと首を横にした。
「なんなのです?」
「お前、本当に大丈夫なのかよ……」
照れくさいのか、まともにモモの顔を見ずに尋ねるトラムスに、僕、リア、ティエル女王は思わずニヤニヤとした笑みを浮かべてしまう。
「な、何にやついているんだ!?」
「べーつーにー? トラムスもやっぱり男の子なんだなーって思っただけよー?」
「勇者リア! 僕のことをバカにしているのですか!?」
「まさか! モモは可愛いもの、心配するのも当然よねー」
「からかわないで下さい!!」
憤慨しているトラムスはさておいて、ティエル女王は僕を見てこれからのことについて相談してきた。
「それで、予定なのですが。やはり皆が寝静まる夜中に試して頂くのが一番かと思います」
ふむ、それが一番被害が少なそうではある。しかし、僕には懸念が存在していた。
「でもティエル女王、ダークエルフの襲撃が気にかかるのですが……」
その問いに、あっけらかんとティエル女王は答える。
「ああ、彼女たちも夜は寝てますから心配いりませんよ?」
「襲撃者やる気ねえな!?」
余りののんびりさ加減に思わず突っ込んでしまったが、元来エルフという種族は自然とともに生きる種族、日が落ちれば眠り、日が上がれば起きる、そんなサイクルが染み付いていて、兵士たちですら最大の敵は眠気らしい。
「それなら、夜中のうちに修復をしてしまいましょう」
「はい、お任せいたしました」
決行は今夜、皆が寝静まってからということに決まった。その間の魔獣などの対処については、リアとモモ頼みだ。頼んだぞ、二人共!
次回は15時更新です




