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第8話

 男が去ると、車内に賑わいが戻った。扉が閉まると、ハルシウスが尋ねる。

「あやつが護衛軍なのか? そこの女が言っておったが」

「……そうだよ。まさかこんなとこにいるなんてね」

プリシラの両手はいつの間にか汗でびっしょりとなっていた。ルミオが気づいて心配する。

「大丈夫ですか、プリシラさん?」

「大丈夫、ありがとう」

ハルシウスは依然としてのほほんとしている。

「それにしても護衛軍なのにこんな所に居るんじゃな」

「護衛軍は全部で十人しかいない。それでも軍隊レベルの強さだから護衛軍なんて呼ばれてるの。実際に王の護衛を常にしているのは二、三人だけで他の奴らは仕事を掛け持ちしたり、王からの依頼を受けて動き回ってるから、あいつも多分そうなんだと思う」

「うむ、確かに強いのはビリビリと伝わってきたぞ。わしには及ばぬが久しぶりにゾクゾクしたわ」

かっかっかと甲高く笑う。その背中から微かに漏れ出すどす黒く、純粋な黒の魔力を見てルミオは背筋がぞくりとした。

「文字を読めない人もいるし、情報が回ってない人もたくさんいる。だから護衛軍の事を知らない人なんていくらでもいるんだよね。寧ろ間違った噂の方が早く広まっているかも。やつらの中にはその地位と実力を利用して横暴を働くやつも居るから、さっきみたいな感じでこそこそと馬鹿にしてたらいつの間にか首が飛んでた、なんてこともあったらしいよ」

プリシラはすっかりいつも通りのつまらなそうな顔に戻り、腕に巻き付くベリトの頭を撫でる。

「プリシラさんはあの方個人については何か知っているんですか?」

「ちょっとはね。あいつはギルベルト。名家の生まれで圧倒的な昇進スピードで最年少で護衛軍に選ばれてるらしいよ」

「じゃあ護衛軍の中でも凄い方なんですね。ハルさんもプリシラさんも強そうなのに、まだ同じくらい強そうな方と会うとは思っていませんでした」

話を聞いて感嘆するルミオに対してハルシウスはムッとする。

「ルミオよ、何を言うておる。わしをあんな小童と一緒にせんで欲しいわ。一瞬でけちょんけちょんに出来るぞあんなやつ。それに今は持っておらぬが、杖さえあれば指一本すら触れさせぬ」

杖を振って呪文を唱える真似をする。

「そう言えば二人とも杖持ってないね。使ってないやつで良かったらあげようか?」

そう言ってカバンから束になっている杖を取り出した。束ねられた杖は長さや太さだけでなく、材質まで様々なものが入っていた。束を見て二人は驚いた。

「そんなに持っておるのか⁉︎」

「使い分けてるからね。それでも使わなくなったやつあるから良いよ。はい、これとこれがいいんじゃない?」

そう言って一本ずつ渡そうとするが、ルミオは受け取らなかった。

「いえ、僕は大丈夫です。これがありますから」

そう言って壁にかかってる槍を指差す。

「それに多分、僕は余り魔法が上手く使えないんですよね」

そう言って右の人差し指からろうそくの様に炎を灯す。炎は付いたものの、細く、弱弱しいため、機関車に揺られて最後には消えてしまった。

「確かにこれだと普通の子供よりも使えてないかもね。扱い方というよりは魔力が余り貯められないのかな」

プリシラはうーんと考え込んでいたが、やがて杖をしまった。一方のハルシウスは杖を手に取って確かめる。

「恩に着るぞ。どれ……」

細い杖の上から下までハルシウスの指が撫でる。

「うむ! なかなか良さそうじゃの」

杖から炎を出してみる。ルミオとは対照的に、太く、力強い炎が灯った。

「気に入ってくれて良かった」

 そして、三人はメフロンに到着した。駅に降りると乗った街では想像できない程の人でぎゅうぎゅうになる。ハルシウスとルミオは成る程と言った顔をしてから狭い隙間を縫う様に進んだ。

 やっとのことで人混みを抜けると、一面にはレンガのビルが立ち並んでいた。建物の一つ一つがとにかくでかい。以前の街の建物の二倍が普通、という規模だ。二人は更に目を大きくする。

「これ程大きな建物が横にもこれだけ並ぶと壮観じゃな! このレベルの国が他にもあるとは……。ま、まあまあやるではないか」

「取り敢えず今日泊まる所を探そっか。お金はまだ余ってるんでしょ?」

ハルシウスが袋の中身を確認すると、まだじゃらじゃらと硬貨の擦り合う音が聞こえる。

「そうじゃのう。並んでいる看板を見る感じ、一週間程なら二人分賄えると思うぞ」

どれどれとプリシラが小袋に顔を覗き込む。

「うん、大丈夫だと思う。一応出来るだけ安い所探そっか」

ルミオが申し訳なさそうに気遣う。

「でも、プリシラさんは良いんですか? 僕たちと違ってお金には困ってなさそうですが」

「まあそうだけど、職業柄野宿だってするし慣れてるから大丈夫。二人はそれよりも新しい仕事を見つけないとかもね。殺し屋は出来なさそうだし……」

三人は歩きながら考える。街での種族の割合は逆転し、獣人が大半を占めている。頭が豚のオーク、馬のケンタウロス、魚のオアンネス、トカゲのリザードマンなど多様で、交じり合って生活している。耳の長いエルフが歩いていたり、下が魚の人魚が池を泳いでいたりもした。 

 しかし、多様な種族とは裏腹に多くの獣人が同じ様なシンプルな防護服を身にまとっていた。ハルシウスが首を傾げる。

「何故みな同じ服をきとるのじゃ?」

「それはあの人たちが警備会社の社員だからだね。あれを見て」

プリシラが指を指したのは一際大きいビルだった。そこを先程の鎧を纏った獣人達の多くが出入りしている。

「列車の中でも言ったけど、この国は主に警備会社で成り立っている。ここの獣人達を雇って色んな国に派遣してるって訳。だから皆着ているあれは作業着であり、制服かな」

「成る程のう……」

「ここから派遣する意味はあるんでしょうか? それぞれの国で雇えば良いと思うんですが……」

ルミオは不思議そうに呟いた。

「安くて皆強い。ここの社員は同じ教育を受けてるから皆同じクオリティの強さを持ってる。だから求めてる数をそろえやすい。それに魔法特化、武術特化みたいに分類に分かれているから目的、まぁ護衛だったり見張りだったりになるけど、その使い分けも幅広く出来るんだよね」

「言われてみれば、確かによく見たら防護服にも種類があるんですね」

細かい違いはもっとあったが、防護服は大きく二種類に分かれていた。鉄で出来た厚い鎧と、黒い布でできたコートだ。

「それに信頼を勝ち取っているからね。同じ国でも誰か知らない人より、他の国の大きな会社に頼む方が意外と安くて安全なんだよ。貴族や学校が雇ってることが多いかな」

「教えてくれてありがとうございます。本当に物知りですね。プリシラさんは」

「色々知っておかないとね、変身も暗殺も難しいんだよ」

 三人は更に進むと、屋台が並び始め、遠くには果物畑が見えた。プリシラは先手を打つように聞かれる前にガイドを始める。

「あれがもう一つの収入、果物だね。警備会社の人達も仕事が無い時は果樹園で育てたり、派遣されるついでに他の国に運んで行ったりしてるよ」

「ほう。どれ、一つ食ってみるか」

興味津々なハルシウスは既に袋から硬貨を一枚取り出しており、屋台の一つで赤色の果実を一つ買った。外側を指で弾くと皮や殻は無く、身の詰まった音がしたので、そのまま食べる。

「……おお、美味いぞ!! 身が詰まっていて瑞々しい。ルミオも食べてみよ」

そう言って齧りかけの果実を渡す。ルミオは小さな口で齧った。

「……本当です、とても甘くて美味しいです!」

「とれたてだからね。これを食べにわざわざ来る人だって後を立たない。だからこの国は大国になったんだよ。実は他にもお金の出所はあるんだけど……まあ大体分かったよね?」

「うむ……どうした、ルミオよ」

ルミオは屋台に並ぶ一つの果物をじーっと眺めていた。ハルシウスの声は届いておらず、プリシラが肩をポンポンと叩いてハッと気づいた。

「すみません。なんかあの果物が見たことあるような気がしたので……」

ルミオの視線の先には、黄色い皮に包まれた瓢箪状の果物があった。

「あれは特にダメになりやすいし薬とかにも使える高級品なんだけどね……。ここには来たことは?」

「いえ、勿論ありません。何ででしょうか……」

既に日が暮れ始め、三人は宿に泊まることにしてメフロンでの一日目が終わった。

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