第9話
翌朝、ハルシウスとルミオは街に出て仕事を探すことになった。二人は起きて準備を済ませ、今から出ようとしているところだった。ハルシウスはドアを閉める前にプリシラのベッドをちらりと見るがプリシラはそれに気づかず、すやすやと寝息を立てていた。諦めるようにドアを閉めて部屋を出た。
「しかしプリシラは良く寝るのう」
「いや、お仕事が夜からあるらしいので今は寝ておくって言ってましたよ。僕達とは入れ替わりになるかもとも」
ルミオが人差し指を頬に当てて昨日のことを思い出す。左手には槍を持って歩く。ハルシウスが納得すると同時に、二人は宿から出た。ハルシウスは通りをジロジロと眺めながら歩く。
「そうじゃったのか。……それにしてもこの国は大きいだけでなく、清潔感もあるのう。よくよく見ると手入れが行き届いとる」
街の人々は皆、高級というわけでは無いかもしれないが、汚れの無い服を見に纏い、地面は歩きやすく平坦に舗装されている。屋台やお店もツギハギや今にも折れそうな木材などではなくきちんとしたもので作られている。前の街に比べたら充分にきれいだと言えるだろう。
「そうですね。この国が警備会社で成り立っていると言っていましたけど、そのイメージにぴったりだと思います」
「確かにイメージを損ないたくないのかもしれんな。これが大国と呼ばれるプライドじゃろう。わしもこんな感じで作りたかったのう……」
ルミオが横を見ると、ハルシウスは少し悲しそうな顔をしていた。
少し歩いて二人は依頼の貼られた役場にやってきた。役場も人が多く、一つ一つの依頼をじっくり見ることができない。二人は離れないように気を付けつつ、人の波に流されながら依頼を探す。
「……やっぱり森の時みたいな額の依頼は無いですね」
「プリシラの言った通りじゃな。まあ警備会社が立ち並ぶ国じゃしの。依頼することはそもそも無い、と言った感じか。それでもわしらは稼がぬと調査も出来ん。……ここは地道に行くとするか」
ハルシウスは一枚の紙を素早く取ってみせる。そこには『急募! スイートドリルの討伐、一匹辺り20ミル』とあった。
二人は果樹園に向かった。果樹園の横にある家をノックすると、ケンタウロスの女が家から出てきた。年老いた、という程では無いが少し老けて見える。女は元気な声で話しかけてきた。
「あら、依頼を見て来てくれたのかい? よろしくね」
「こちらこそお願いします、じゃ。して、そのスイートドリルというのは……」
二人は果樹園の辺りをキョロキョロと見回すが、近くには魔獣はみられない。
「そうね、急にお願いしたから詳しい説明書いてなかったものね。スイートドリルが居るのはもっと奥の方よ。私の果樹園で育てている果物がそろそろ実るんだけど、毎年狙ってくるのよ。色んな果物を食べるんだけど、特にうちで育てているものが好物らしくてね。私じゃこの広い果樹園を守れないからお願いしたいの」
「分かったぞ。そのくらい任せておけ!」
ハルシウスは即答すると胸を張って拳をどんと当てて見せた。
「心強い二人ね。じゃあ早速だけど今日から頼むわ。果物の収穫期で鳥達も必死になってるから気をつけてね。毎年同じ人に頼んでいたんだけど、今年は大事な依頼が入ったとかでねえ、丁度受けてくれる人が居て良かったわ」
そして、二人の仕事は始まった。果樹園の中でも奥にある食い荒らされた区域まで来て空を見上げる。空高くに何羽かの鳥が飛び回っている。遠くて大きさは分からないが、その大きくて猛々しい鳴き声から、獰猛さは伝わってくる。ハルシウスはプリシラから貰った杖を空に向けるが、しばらく考えてゆっくりと下ろした。
「ルミオよ、やれそうか? わしはお主の力を一度ここで見ておきたい」
ルミオは黙ってじーっと鳥達の動きを見つめていたが、はっきりとした声で答えた。
「大丈夫です! 小さい頃良く狩りをして遊んでいたのであのくらいなら問題ないと思います」
「では最初はお主に頼むぞ。仕留め損なったフォローは任せておけ!!」
スイートドリルの一群が一斉に襲ってくる。小さいものでも大人と同じくらいの大きさがある。大きくまん丸とした目は不気味さをかもしだしている。ルミオに最も近い一羽が丸呑み出来るくらいのその大きな口を広げた。
ルミオは素早く槍に魔力を込める。槍は薄いながらも魔力で出来た黄色い膜に覆われる。
「……行きますっ!!」
一匹目を横に交わしながら向かってくる勢いを逆に利用して、槍で地面になぎ倒した。同じ様に向かってくるスイートドリルを次々と交わしては的確に頭部に槍を打ち付ける。微弱な魔力を補って余りある技術にハルシウスは感心する。一通り向かってくるスイートドリルが片付いた所で、かけ寄って行った。
「やるではないか。思った以上じゃ!」
ハルシウスは頭を撫で、その喜ぶ顔にルミオは照れる。
「いえ! この程度なら」
「流石は我がライバルの子孫じゃな……しかし魔力に関してはやはり小さいのう。こればっかりはどうしようも無さそうじゃな」
「そうですね……。奴隷船の中でも相談しながら色々やってみてたのですが、やっぱり魔力は少ないみたいです」
「まあ良いじゃろう。取り敢えず槍の扱いだけならわしが教えられることは無さそうじゃな。……では、魔法の基礎をわしが教えよう。魔力が少なくとも、聞いていて損は無い筈じゃ」
そう言ってハルシウスはルミオと入れ替わり、杖を握った。




