結末
「あいつ・・・あいつが嫌がらせをして・・・
俺は会社を首になるし・・・嫁と子供は出て行って・・・」
ぼそぼそと男が言う。
「なるほど。
首になって家族もいなくて、暇だから復讐しようと思たんだね?」
佐倉さんは身もふたもない言い方をする。
男が不服そうに何か言いかけるが、言葉に詰まり黙る。
「カッターか・・・
なんで彼女に嫌がらせをされたの?」
男の持っていたカッターを手に取り、佐倉さんが聞く。
「ちょっと脅かしてやろうと思って・・・
刺そうとかそんなつもりはなくて・・・
なんで、って・・・」
男は話すことを考えているようで、そこで言葉を切った。
「あなたもしかして彼女に痴漢したんじゃない?」
「痴漢なんて!
ちょっとだけだし!自意識過剰なんだよ!」
男が吐き捨てるように言う。
「あ。やっぱりそうなんだ。」
佐倉さんは得心がいった、という風にうなずき
「なるほどね。私の好奇心は満たされたよ!ありがとう!
満足したし、帰ろう」
と僕のほうを振り返った。
それから一か月後。
僕はネットニュースで彼女の写真を見つけた。
「特技:殺人」の彼女の写真は、加害者としてではなく被害者として載せられていた。
彼女は例の男以外にも嫌がらせをしていたらしく、そのうちの一人にホームから突き落とされたのだ。
犯人は思いのほか早く捕まった。
彼女は痴漢から、身元のわかりそうなものをスリ取り、彼らを調べ上げていたのだ。
そっけないルーズリーフ状の手帳には、何人かの細かなプロフィールや名刺がきちんと整理されていたらしい。
「たぶんね。彼女が殺したのも痴漢だと思うよ。」
佐倉さんはそういう。
「殺された人と嫌がらせされた人の違いって何だったんでしょうね?」
僕は聞くともなくそう言う。
「なんだろうね?」
佐倉さんが少し考えてからまた口を開く。
「初めのころは嫌がらせで満足していたのが、だんだんエスカレートして殺人に至ったのかな?
と思ったんだけど、違うのかも。」
どうやら佐倉さんは、彼女が加害者と思われる未解決事件と、彼女に嫌がらせをされた人たちを調べたらしい。
佐倉さんによれば、それらしき未解決事件は3件。
去年の2月と11月。それから今年の1月。
今回犯人として捕まった男は、今年の3月半ばごろから嫌がらせを受け初めたらしい。
そして殺された人たちが「生前嫌がらせを受けていた」と言うウワサはない。
「なんか嫌がらせをする人と、殺す人は対応をすっかり分けていたみたいだし、
殺人を犯した後でも、嫌がらせだけの人もいるんだよね」
「あの子と話してみたかったなぁ・・・」
未練がましく佐倉さんがつぶやく。
僕はふと気になり、佐倉さんのステータスを開こうと手を動かす。
「勝手に人のステータス見るのやめて。どうせ
『この野次馬根性の塊、刑事とか探偵とか雑誌記者とかに向いてるんじゃないか』
とか思ったんだろ?
悪かったね。下世話で不謹慎で。」
ニヤリと笑って佐倉さんがそう言う。
「・・・そこまでは思ってないです・・・」
僕は首をすくめて目をそらした。
「殺人現場を目撃する」「殺人を止める」「彼女との会話をメインにする」「彼女に逃げられその後不明」
などいくつかのルートで悩み、今の形にしました。
彼女は昔考えた「痴漢被害者が痴漢を殺す話」の主人公。