佐倉ツバキの独り言
私の名前は佐倉ツバキ。
25才日本人女性だ。
この体になったのは5年くらい前だったと思う。
元々は異世界と言われる別の世界で、勇者をやっていた。
剣と魔法のファンタジー世界だ。
私はそこそこ腕の立つ勇者で、男で女の子にモテた。
そのうちの一人に刺されて死んじゃったんだけどね。
この世界に来てみたら、私と似たような英雄がいたようで、彼には親近感を持っている。
英雄色を好むなんて、私に都合の良い言葉もあってちょっと笑ってしまった。
前世の最後に思ったのは「まぁ仕方ないかぁ・・・ごめんね」だった。
刺した女の子が泣いてて、申し訳ない気持ちでいるうちに死んでしまった。
気付くと円卓についていた。
背景描写の手を抜いたとしか思えない、真っ白な空間。
二人の人間がお茶を飲みながら、向かい合うのにちょうどいいサイズのテーブル
細かい細工のされた椅子。
向かいには身なりの良い若い男。
綺麗な顔をしているが、華奢で強そうには見えない。
男はお茶を飲み、私のほうを見た。
「死んじゃったね」
軽くそういう。
「やっぱり死んじゃったのか」
俺はつぶやく。
「他の人生試してみたいとか思う?」
男はニヤニヤしながら唐突に聞いてきた。
「僕は君らが神と呼ぶ存在なんだ。
最近、異世界との人員交代が流行ってて、君にその気があれば
他の世界で他の人間として、やり直させてあげるよ。」
「そういうことなら、お願いしようかな。」
うさんくせーなーと、思いつつどうせもう死んでるし、これも死ぬ間際の幻覚と思い即答する。
「交代ってことは、俺の体には他の人間が入ってるのか?」
ふと疑問が浮かび聞いてみる。
そいつ気の毒すぎるだろ・・・
「あー大丈夫大丈夫。
君がいた世界は僕の作ったものだから、ある程度干渉できるんだ。
君の体は死んだ土地から離れたところで、若返らせてから使うから!」
思ったことが筒抜けのようだな、と思いつつ、使うって言い方はねーだろ、とも思う。
「ごめんごめん。なんか気を悪くしちゃったみたいだね~
じゃあ異世界で新たな人生楽しんでね~」
次に気付くとそこは見知らぬ部屋だった。
目覚めた直後「佐倉ツバキ」の人生が頭の中で再生される。
脳内の長いドラマを見た後、私はベッドから立ち上がった。
重い体だ・・・
この女はタテにも横にも大きい。
しかもついているのは、筋肉ではなく脂肪だ。
私のこの世界での一番初めの感想は「思い・動きにくい」だった。
翌日からは到着直後に見せられたドラマを基に、佐倉ツバキとしての生活を始めた。
どうも彼女は友人が少なく、腐女子と呼ばれるタイプの人間で、名前にコンプレックスを持っていたようだ。
幼少のころ外見をからかわれる時に「桜と椿なんて似合わない」と言うようなことを言われたからだ。
しかし、俺から見るとこの子、外見に手を抜きすぎなんだよね。
若い女の子なんだから、それなりに気を遣えばマシな外見になるはずなのに、どうしてこんなに自分の外見に手を抜くのか俺には理解しがたい。
そんなわけで、日本に来て一番初めに俺がしたのは佐倉ツバキ改造計画だった。
佐倉ツバキ改造計画
まず第一に痩せることだ。
筋肉も必要。
好きなタイプの女の子は、華奢でかわいい感じの子だが、自分がなるなら動ける女だ。
それから化粧とやらを覚えよう。
身だしなみと人を不快にしない程度にはマナーも必要だ。
と言うことで、ジムへの入会手続きをする。
もともと体を動かすことは、得意なのでこれは問題なく通い、適度な筋肉とすっきりした体を手に入れることができた。
インターネットと言う初めて知る便利なツールで、色々調べる。
ツバキは大量の漫画を買い込んでいたが、他に趣味のない人間で、多くはないがそれなりの貯金があったので、メイク教室やマナー教室に何度か行った。
女の子になってみて、化粧と言うのはなかなか面白いものだ、と知った。
特にナチュラルメイクと言うやつが面白い。
色々塗って描いて、明らかに素の顔とは違う顔になるのに、その顔だけ見ると薄化粧に見えるのだ。
2年くらいで結果が出た。
まぁ、元の顔立ちや骨格が変わるわけではないので、絶世の美女などにはなれなかったが。
猫背を直す・痩せる・化粧をする
この三つで佐倉ツバキは見違えた。
そして中身が、無駄にポジティブアクティブなオレに入れ替わった。
これはもう、ほぼ別人だ。
ツバキの昔の知り合いや、親族に会うと驚かれる。
そして女の子大好きだった俺だけど、ツバキになってみて女子の嫌なところをたくさん知ってしまった・・・
太っていたころ見下し要員で優しくしてくれていた子やら、痩せたら嫌がらせを始めた子やら。
一番すごいのはツバキが、職場内で仲良くしていた男性社員に振られた子。
ツバキとその男は全く恋愛関係になく、男はその後社外の女性と結婚したのだが、なぜかツバキに嫌がらせを始めたのだ。
女の子が好きだ。
男と恋愛する気はない。
だけどリアルな女子と恋愛する気にもなれない。
前世の件で懲りたのもあるけど。
そして私は百合漫画にはまった。




