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後日談 お姫様のお願いが叶う直前のおはなし

「・・・ぁ・・・ん・・・」


千花は思わず声を漏らした。元晴からの熱烈なキスは、いつも千花の意識を奪いそうになる。

文化祭以降、元晴はこうして、隙あらば千花の唇を奪いに来る。千花は嬉しくもあり、誰かに見られやしないかと心配でもあり、それでも与えられる快感には抗えず、元晴にされるがままになってしまっている。


(でもここ学校だし!誰か来るかもしれないし・・・!)


千花がどうしようと考えたとき、元晴が唇を離した。だが、元晴はぎゅーっと千花を抱きしめて離さない。


「は、ハル?」

「ちぃちゃん、ここ、音楽室だね」

「そ、そうだね」

「放課後だし部活ない日だし、人気ひとけもないね」

「そ、そうだね」

「・・・音楽室だから、防音はばっちりだよね」

「そ、そりゃあ、クラス全員で合唱したってほとんど廊下には聞こえないくらいだからね」


元晴は、ざっと教室を見回した。


「窓も開いてないしね。完璧だね」

「何が!?」

「いやほら、愚かな真似を繰り返すことだけは避けたいんだよね、僕としては」

「何のこと?」


元晴にとってはたいへん苦い思い出となった、文化祭声漏れ事件のことを言っているのだが、千花は当然、そのことは知らない。事件のことを言ってしまえば、おそらく、こういう場所でキスすることは許してもらえなくなるだろう。

元晴は一度千花を離し、目を見て言った。


「ちぃちゃん。僕、ずいぶん我慢したと思うの」

「へ?」


(突然、何の話?)


「文化祭からずっと、お願い聞いてもらえるの待ってたの。無理強いは趣味じゃないし、いやそれはそれでいいかもしれないけど、でも初めてはやっぱり双方合意の上がいいんじゃないかって思って待ってたの」


さらりと本音を漏らしつつ、元晴は続けた。


「でもそろそろ我慢の限界なの」

「でも、だって、その、きききキスはしょっちゅうしてるじゃん・・・!」


真っ赤になりながら千花が抗議すると、


「だってあれは味見でしょ?僕はもっともっとちぃちゃんが食べたいの」


そう言って、元晴は千花の腕をつかんだ。いつかの状況と重なり、千花の頭の中には警鐘が鳴る。


(この状況はマズいよぅ!・・・いやハルとどうこうなるのが嫌ってわけじゃないけど、でもでもでも・・・)


前回同様、助けが入らないかと期待してみたが、今日は一斉下校の日。千花は担任に頼まれ、音楽室に機材を返しに来ただけなのだ。音楽室の鍵が返っていないことに気付いてもらえば、誰かが来てくれるかもしれないが、それがいつ頃になるか分からない。

ハルは千花を腕の中におさめ、左耳を甘噛みしながら言った。


「今日は先生方は学外研修だから、しばらく誰も気付かないよ?」

「ひぁっ!」


ハルの息が耳にかかって、変な声が上がる。ハルには、千花の考えていることが筒抜けだったらしい。

ハルはにこりと姫スマイルを浮かべ、素の低い声で言った。


「覚悟決めなよ、千花」


そしていつかと同じように、千花のシャツのボタンを取っていく。

千花の左胸を見て、「あーやっぱり消えちゃったか。今度はもっとしっかりつけなきゃな。あ、しょっちゅうつければいいのか」と独り言を言いながら、ちゅうっと肌を強く吸う。

千花はその刺激にびくっと体を震わせる。


「は、ハル、待って」

「もう待てない」

「だって・・・ぁ・・・や、やだ・・・」


元晴は気にせず、千花の背中や脇腹などにも印をつけていく。元晴の手が、千花のスカートの中に入り、内腿に触れる。


「・・・や、やだってば!こんなとこじゃやだよ!」

「じゃあここじゃなきゃいいんだね?」


ぴたりと止まって、元晴は言った。


「え・・・?」

「ここじゃなきゃ、続きしてもいいんだよね?」


神々しいほどの姫スマイルの元晴。千花は、自分の失言に気付いた。


「ち、違う。そういう意味じゃ・・・」

「ううん、今言ったもん。『こんなとこじゃやだ』って。あのね、ちぃちゃん。今日うちね、夜まで誰もいないんだぁ」


元晴はいったん千花から離れ、


「僕一人じゃ寂しいから・・・来てくれるよね、ちぃちゃん」


上目遣いに甘えた声を出す。


(行ったら結果は分かってるけど・・・断ったら、今度こそハルは愛想尽かしちゃうかな・・・)


千花が逡巡していると、ハルはみるみるしょぼんとしおれていった。


「ちぃちゃんが、ホントのホントに嫌って言うなら・・・・・・」

「い、嫌じゃないよ!」


千花は反射的に答えていた。


「嫌なわけないじゃん!私だってハルのこと好きだもん!でもでも、まだ早いっていうか、何ていうか・・・ほら、私たち受験生だし、ね?気持ちが通じたのも最近だし・・・まだ時期じゃないかなって・・・」


指をもじもじさせながら、千花は必死に自分の気持ちを言葉にしようと努力した。


「よかった!」

「え?」


見ると元晴は、恵みの雨を浴びた植物のように生き生きしていた。


「ちぃちゃんが嫌じゃないなら問題ないよね!」

「あの、ちょっとハル、私の言葉の後半、聞いてた?」

「嫌だって言ったら、この場で無理やりいただくねって言おうと思ってたんだけど」


(そう続くの!?)


どう答えても、結局同じだった。それが分かり、千花はぐったり疲れ、床にへたり込んでしまった。


「じゃあ千花ちゃん、おうちに帰ろっか」


語尾に音符がつきそうなほど浮かれた声で言って、元晴は千花に手を差し出した。千花がそろそろと元晴の手を握ると、ぐいっと引っ張られ、千花の体は元晴に抱き留められた。


「もう逃さないからね、千花」


素の声で千花に囁く。その声の真剣さに、千花もようやく覚悟を決めるのだった。

千花ちゃんの受験勉強が心配です・・・。

まぁいざとなったら、元晴が何とかするんでしょう・・・。

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