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忌祓の守人~元ダメ人間の異界転生譚~  作者: 中野 元創
第一章:沈んだ先の戦世界
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第十話:討伐と帰還

既に修正済みですが、以前までの三話と四話の内容が全く同じになっていました。

同じミスが起こらないように気をつけていきますが、他にもミスがあることに気がついた場合は、感想欄などでご指摘いただけると嬉しいです。

 左端のゴブリンの元へと近づきながら、標的に対してどう立ち回るかを考える。今俺が利用しようとしているのは、魔術、身体能力、手に持った石、そしてこの森という立地そのもの。しかしこの状況では石は使いづらい。

 逃げている間に気が付いた事だが、目に見えない、という利点があったはずの『ウインドカッター』、実はこの森の中では少し話が違うのだ。と言うのも奴らに向けてはなった時の事、まわりの落ち葉やらを巻きあげ、葉のついた枝を切ったり揺らしたりしながら進んでいくのだ。せっかくの透明さも意味がない。本来の暗殺なら話は別だが、不意も付かず真正面から撃っても逆にこの距離が仇になり、しっかり見切られ回避されてしまう。

 つまり、視界の外からか、不意を突くか、それも出来る限り近くからと言う高難易度。

 しかし、それでも方法はあるのだ。それもこの森と言う立地においてもっとも単純明快な方法、つまり、


「奴らの周りの木を切り倒す。押しつぶされればそれでいい。ダメならダメで、そちらに気を向けている間に隙が生まれる!」


 現状、奴らは狩る側。自分たちが窮地に置かれるとは考えていない筈。その時に不意に危険が迫れば思考も上手く回らない。その時こそが最高のチャンス。もちろん外せば近づいた分かなりのピンチなのだが、『ウインドカッター』を撃つ際には、ピッタリと表現しても問題無いほど正確にイメージした場所に飛んでいったのだ。なので狙いに関しては自信がある。

 そんなこんなでかなり近づいた。派手には足音がならないようにし、奴を追うように駆ける。ちょうど良い頃合いの木が奴の進行方向に現れたのを見計らい、


「……ウインドカッター」


 ザッ!という音と共に木を一刀両断。わずかに心配していたが、岩も綺麗に切断できる『ウインドカッター』であれば流石に木を切るくらい訳は無いようだった。そして切断された木は重力に従い、僅かな傾斜のついた断面を滑って、俺を包囲しようと少しずつ右へ進路を変えつつあったゴブリンの進路を封鎖する形で倒れた。幸運な事に、人の手の入っていないであろう木の葉が深く深く敷き詰められた地面のお陰で音もあまり立たなかった。これならば他のゴブリンにもばれてはいない。


『ギャッ!ギィアッ!』


 そんな驚愕の悲鳴を無視しながら俺はゴブリンに当たるイメージをしながら、


「ウインドカッター!」


 再度撃つ、その風の刃は狙い通り奴の首めがけて直進。草木を薙ぎながらそれと胴体を泣き別れさせ、そのまま奥の木々を数本切り倒し止まった。

 断末魔さえ無い、静かな勝利。しかし、確かに俺が仕留めた相手だ。


「…あんまり、時間も無いよな。早くほかの奴の所に行かないと」


 そして俺は次に近い場所…それどころか、少しずつ近づいているであろう左から二体目を待ちうけるため包囲の外側すぐ近くに潜む事にした。

 そう、この見通しの悪い森の中、互いの場所もつかめない程離れるという事は、一人やられても気付かないと言う事ともう一つ、純粋に、その包囲からも抜け出しやすい、なんていう元も子もない欠点があるのだ。これに気付けたおかげで、いざとなれば逃げればいいやと余裕を持つ事ができた。頭がいいと言ってもどこか抜けた種族であるようだ。勿論、それに救われているのだから改善なんてされたら困るが。

 そして再び足音が迫ってくる。左から二番目のゴブリンが近づいてきたらしい。茂みから頭をのぞかせ確認すれば、俺が元いた方向に集中しながら走るゴブリンが十数メートルほど離れた場所にいるのが見えた。

 …これは、小細工なしで行けるのでは?こっち側は何一つ気にしていないし、『ウインドカッター』の射程距離は思ったよりも長い。しっかり狙いを定めて撃てば、一撃で仕留められる。

 そう考えた俺はすぐさま奴の姿に集中。先ほどよりもじっくり狙いを定め、『ウインドカッター』を形成、奴がちょうど僅かに開けた場所に出たのを見計らい、


「ッ!ウインドカッター」


 再び命中。胴体を斜めに真っ二つにしている以上、奴もまた死んだ筈。ただ、動く相手を狙う、と言う事で先ほどよりも大きく作りすぎたのか、木の倒れ方がひどい。ここにとどまっていると、流石に見つかってしまう。なので移動しなければいけない。

 そんなこんなで中心方向に移動しながら、ゴブリンを一匹一匹倒して行くことになった。残りはおそらく八体。この調子でいけば、三十分後にはすべて倒せるのではないだろうか?


◇◇◇


 二体目のゴブリンを倒し、約三十分後。

 長かったが、遂に残り八体のゴブリンを倒す事ができたようだ。


「あ~、疲れた、疲れた。あ、そうだった、倒すだけじゃあだめなんだ。証明するために…右耳?だったかな?を剥いでおかなきゃあいけない」


 と言うわけで作業開始。右耳だけを切れる程度に威力を下げたウインドカッターでその特徴的な尖った右耳を切断。


「…これ、直接触っても大丈夫なのかな?」


 病気が不安だったりしたので、下に切り口を向け血が落ちるようにし、少し離して左手で持つ。その状態で、今まで倒したまま放っておいたゴブリンのもとへと向かう。最後は気付かれてしまって少し危なかったものの、結果的にウインドカッターで木々が倒れていたのはむしろ幸運だっただろう。そうでなければこの藪の中、二度と見つけられはしなかったはずだ。

  そして探し続けた結果、三匹目。


「ウインドカッッ!?」

『ゲァァッ!』


 もう全滅しているだろうとたかをくくっていたのが完璧に裏目に出ている。ウインドカッターを撃とうとしていたところを背後から飛びかかられて、再び魔術を撃たれる前に目の前にまで接近される。


「くっ!そおぅ!」


 咄嗟に身体を翻し、回避しようとして、


『ドゴッ』

『ゲピャァ!』


 いまだに握りしめていた石でゴブリンの顎を粉砕、一撃で失神させた。


「………た、助かったぁ…!なんだかんだ持ってて良かったぁ!」


 いまほどの恐怖体験もそうはあるまい、油断していた所に瞬間的に命の危機が訪れたのだ。

 石を握り続けていなかったらどうなっていた事か。


「っと、失神しているうちに止めを刺しておかなきゃいけないか、

 …ウインドカッター」


 もちろんしっかりと命中。右耳を切り落とし、他のゴブリンの耳を取りに行く作業を進めに行く。


◇◇◇


 さて、その後15分程で全てのゴブリンから耳を切り落とすことに成功した俺は、かなり急ぎ足で森の外へ向かっていた。と言うのも、十一個もの耳を持って戦うのはあまりにも厳しいと言う事に気付いたからだ。命の恩すらある石を泣く泣く捨てて両手で持っても、やはり落としそうになる。これはもともと袋を持ってくることが前提だったようだ。走っていても落としそうなのだが、それでもちんたら歩いて何度も戦う事になるよりはずっといい。

 そのまま十分ほど走った後、ようやく森の外に抜ける事ができた。ここまで来れば少し安心できる。草原では忌種なんて一匹もいなかったし、きっと森の中以外では被害が出ないようにできる限り駆除しているのだろう。

 空は森の向こうから赤く染まり、見とれてしまう程のコントラストを映し出している。


「…アイゼルって、やっぱり地球より景色がきれいだよな…。いや、地球のきれいな景色なんて、自分で見に行った事無いから感動度合いとか違うかもしれないけど」


 と、少しばかりセンチメンタルな気持ちを振り切り、ロルナンへと走っていく。


◇◇◇


「あ、あれ!?タクミ君!?父さんから連絡は無いのに!

 ………ま、さか、この一瞬で、幽霊に!」

「い、生きてますよっ!」


 ギルドに帰還した途端ミディリアさんに死人扱いされた。解せぬ。死の危険もあったが、それを送り出した側が言ってくるのはどうなのだろうか?いや、一種のネタなのだろうけど。

 と、そんな事よりも早く報告を終わらしてしまおう。町の外を走っているうちに血は滴り落ちなくなったため、床を汚したりはしないが、このまま長い間ゴブリンの耳を持ち続けたいとは思わない。


「これ、西の森にいたゴブリンの右耳です。何体分必要なのかが分からなかったのですが、取りあえず十一体ほど襲ってきたので、そいつらから切り落としてきました。

…足ります、か?」


 よく考えると、ここで『足りない』と言われてしまうと、今さら森まで行くのは厳しい時間帯になっている以上それで積みなのだ。

 …しかし、何故だろうか、ミディリアさんの反応が無い。俺の眼を真っ直ぐ見ぬいているあたり、突発的に気絶している、と言うわけではないのだろうが。

 そして、その数分後、


「へ、へへ、…タクミさん、あなた…死んでしまったことに、気が付いていないんですね」


 などと言う事をミディリアさんはのたまい始めた。おふざけが意外と長い人のようだ…。それとも、何か勘違いでもしているのだろうか?

 ………えっ!まさか、本当にまた俺死んでるの!?


「ちょっ!ちょっと!ミディリアさん!?どういう事なんですか!?俺いつの間に死んでるんですか!?」


 あまりに驚きすぎてミディリアさんの両肩を掴みガクガクと揺さぶってしまった。


「ぎ、ぎぃやああああ!私じゃないですよぉ!タクミさんを殺したのはゴブリンですよう!話、私じゃなくてゴブリンに!ゴブリンにその復讐心を向け…ああ!もう、もう復讐は終わったと!

 ―――憎き仇への復讐を終えたタクミ、しかし、その怨念は尽きる事は無く、全ての生きとし生ける物を滅さんと」


 …何なのだろうか、その無駄なオーバーリアクションと、『最終章乞うご期待』とか後に続きそうなアオリ。

 と言うか、これはさすがに…。


「………いい加減にして下さい、ミディリアさん。流石にそこまでネタを長引かせられると、まともな反応を返すことすらできなくなりますよ」


 俺の言葉がちゃんと聞こえていたのだろう、口を閉ざし、後ろを向いていた体を前向きに戻す。


「………ご、ごめんね?途中で、肩に触れてる事とか、亡霊なのに怨念をまとってないなぁ、って事で何となくは気付けたんだけど、正直、自分の今までの高揚感を止める事ができなかったの。

 …そういう事って、あるわよね?」

「その結果がああやってネタに走ることにつながるんですか?…いえ、別に被害を受けたわけでもないので、もう良いです。

 もう一度質問ですが、ゴブリンの耳は十一個で足りますか?」

「は、はい!…あれ?十一個?どうしてそんなに…?」

「ああ、そんなにたくさんは要らなかったんですね。先に聞いておけばよかったです」

「そういう事じゃないわよ!?武器も無く、魔術の経験も無い貴方がどうしてゴブリンを十一体も…!

 ね、ねえ、それって父さ、じゃない、家のギルド長に倒してもらったの?」


 …?どうしてそこでギルド長の名前が出て来たのか?今日は思い返しても朝の一件以外では会っていない、と断言できるのだが?

 …も、もしかして、この試験って実際の目的は別にあって、その監視をギルド長は観察していた、なんて可能性があるのか!?きょ、今日はかなり取り乱したりした結果、森の中を多勢に無勢のまま逃げていたわけなのだが、それがマイナス評価になっていると言う事かも知れない。確かにあれは俺の不注意と油断が原因。ここからさらにランクを下げられたり、それ以外のペナルティも決められてしまうだろう。


「い、いえ、俺は今日の朝の一件でしかギルド長には会っていません。…何か、まずかったのでしょうか?」

「ええ!?………じ、実は、タクミさんが武器を持ってなくて、魔術も使った事が無い、そもそも戦いの経験が無い人なんだってことがギルド長に伝わっていなかったので、タクミさんの救出のためにギルド長本人が向かったんですけど…」


 あ、あれ?いつの間にそんな大事になっていたんだろう?別に何とかなったわけなんだけれど…。

 ああ、魔術を使えないと思われていたのがいけなかったのか、それなら、


「それだったら大丈夫でした。少し準備の時間はとられてしまいましたが、どうにかこうにか一つ魔術を使えるようになりましたので、どうにかこうにか十一体のゴブリンを倒す事ができたんです」

「………そういう事じゃぁ無いんだけどなぁ………まあ、良い事にしようか。しかしギルド長はどこに行ったの…?

 ええ、と。それで、倒したゴブリンの数は十一体なのよね?本来は二体の討伐で銅貨八枚ですから…銅貨八十八枚、銀貨に変えれば銀貨八枚と銅貨八枚ね、…はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます。…!そうだ、ミディリアさん、以前借りたお金、返しますよ!ええ、と確か銀貨七枚でしたよね?」

「ああ、それならまだ返さなくていいわよ?タクミ君は今の今まで一文なしだったんだから、これからの暮らしのためにも先立つ物は必要よ?今日だって、ゴブリンの耳、素手で持って帰ってたじゃない。持ち運びのために袋を買ったり、武器…を買える額はまだ無いけれど」

「でも、借りっぱなしって言うわけにも…」

「それはまあ、そうね、でも、返すにしたって、一度にじゃなく分けて返してくれればそれでいいわ。もちろん、利息なんて取る気は無いわよ」


 ………あ、有難ぃっ!正直なところ、これからどんな風に生活していけばいいのか分からなかったのだ。だが何を買うにしたって金は必要。借金をしている身では何かを買うなど夢のまた夢と言う感覚だったが、そう言ってくれるのならば非常に助かる。


「ありがとうございます。でも、全く返さないのは違うかなとも思うので、今回の報酬から、銀貨一枚を」

「?…そう、なら受け取っておくわ。…こんな時間だし、もうすぐギルドも通常業務は終了しちゃうから、いくらなんでもこれ以上仕事はできないわけだけど…?どうするの?もう宿に帰る?それともどこかで買い物でもしていくの?」


 う~ん、買い物…物を入れられる様な袋とか鞄は欲しいところだけど、今日は昨日よりも遅い時間になっている訳だし、場所を知らないお店に行くのはあしたに回して、今日はもう赤杉の泉に帰って休むことにしようかなぁ…。


「えと、今日はもう宿に帰って休もうかなぁ…と考えているのですが、今日もゴブリンの耳を持ち帰るのに苦労したので、鞄とかは買いたいと思います。どこで買う事ができますかね?」

「そうねぇ…って、ギルドの中にもお店はあるのよ?専門的なものも多数取り扱ってて、その上冒険者たちがよく買ってくれるからって言う事で外で買うのと比べるとかなり割安なのよ」


 おぉ、それは便利な。冒険者たちに専門的な物を買いやすい場所で売って、冒険者たちがそれを目当てに買いに来る。余裕ができたから他の店よりも安く…、なるほど、WinWinの関係と言うやつなのか。

 しかし、一つ気になる事が、


「ミディリアさんはどうしてそんなに詳しいんですか?随分と店の事を理解している感じですけど?」

「ああ、あの店はね、私たちが商品を入荷する役目を担っているのよ。時には販売だってしているしね」

「へえ…でも、大変ですね。仕事の種類多過ぎじゃないですか」

「そうよ~全く、人使いが荒すぎるのよね~ギルドは。ッと、ほら、鞄ならその店で売ってるから、行ってらっしゃい。ああ、後気付いてないみたいだけど…服も買った方がいいわよ」

「え?」


そう言われ自分の服を見ると、…これはひどい。森の中を普段着で走り回ると言うのがどれ程馬鹿げているのかがよくわかる悲惨さだ。


「その服高かったんでしょうに…。まあ、お金が無かったから仕方がないとは思うけれど、懐に余裕ができたらせめて鎖帷子くらい買わないと、忌種の攻撃で御陀仏よ?気をつけなさい」

「は、はい。…失礼します。」


 ミディリアさんに挨拶をしてギルド内のお店へ向かう。

取りあえずは袋を探して、そのあとに服を買おう。今着ている服は赤杉の泉亭の庭に有った井戸水でも貰って洗わせてもらおうかな?


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