俺のせいで俺が女王様に切り殺されそうになってしまうが、以下の内容はネタバレになるから黙秘しておこう。
前回の内容、
女王に俺の思惑がばれ掛けて死に掛ける、というか殺される寸前。
恐怖のあまり目をつぶってしまったのだが、何秒待っても刃が俺の体に触れることが無かったのでおそるおそる目を開けると。
「ご無事ですか、マスター」
ダナーが女王の凶刃から俺を守ってくれていた。
「お、おう……助かった。ありがとうな」
「いえ、恐縮です」
「貴様、何者だ?」
俺に深々とお辞儀するダナーに対して女王は不愉快そうに質問する。
「黙りやがれ、愚昧な原住民風情がこの私に質問してんじゃねぇよ」
ダナーが俺の知らない口調になった。
誰こいつ?
「貴様!女王陛下に向かって……」
以前、俺に怒鳴ったように怒鳴った近衛兵っぽい男にダナーがゴム弾を速射して気絶させる。
「愚鈍な劣悪種は言語が理解できないのか?黙れと言ったのだよ、この私は」
もはや別人格なのではないかと思うほどの豹変である。
これが人造人間の真髄なのか……。
怒らせないようにしよう。
「調子に乗るなよ、雑種が!」
女王がダナーに標的を変え凶刃を振るうが、ダナーは小枝を折るように簡単に手刀で諸刃のロングソードを折った。
諸刃です、片刃ではありません。
くどい様だがもう一度言っておこう、諸刃である。
「な!?」
「何度も言わなければ分からないのか、下等種。黙れと言っている」
満面の笑みで激怒して、女王の腹部を蹴り上げる。
ある程度はこいつの高性能っぷりは理解していたが、ここまで常人との戦力差があるのか。
蹴り上げられた女王が空中で身を翻し、綺麗に着地する。
このババァも相当な運動性能である。
着地したスキにダナーが女王にゴム弾を狙い撃つのだが、女王は折れた剣でそれを弾き返す。
「ちっ!」
舌打ちをしたダナーが女王に接近して顔面に拳底を入れようとしていたのだが、それを見切っていたのか読んでいたのかで女王が逆に顔面に膝を決める。
女王は追撃を試みるが、怯んでいるダナーは正面にゴム弾を撃って追撃を防ぐ。
なんだ、この闘い?
レベル高すぎない?
女子プロレスでもここまで凄くは無いんじゃない?
2人がまた間合いを詰め、同時にハイキックし合う。
大きな物音がなり響く。
これが女王と人造人間の闘いか……。
てっきり獰猛な魔物と科学兵器の戦車の闘いかと錯覚してた……。
ハイキックし合った2人が意識的にか無意識的にか知らないが距離をとった。
「マスター、この愚劣な下等種共を殲滅する許可をください。ご安心ください、マスターには返り血一滴も浴びせません」
「ま、待て!その展開はマズイ!落ち着け!」
「拒否です、マスターを殺害しようとした猿に聖なる裁きを下してみせましょう」
殺す気満々ですか!?
「……今回はそこの女に免じて退こう」
女王がしぶしぶ剣を鞘に納めた。
「ほ、ほら!お前も落ち着け!」
「二度もマスターに言われては致し方ございません」
拳銃を虚空にしまい、体裁を取り繕った。
よ~し、よしよしよく出来ました。
「何者かは知らないが随分と態度が大きいのだな、名を名乗れ」
冷血な女王が顔に血管を浮かべながら質問している。
こちらもダナーと同じくらい怒ってらっしゃるようである。
「痴れ者が調子に乗るな。アクセスレベルマイナスの愚者たる原住民に名乗るような名など……」
「名乗れ、簡潔にな」
俺は敵意むき出しのダナーに名乗るように命令する。
これ以上、女王達との関係を悪化させるわけにはいかない。
「固有名称『ダナー』。また我が主君に牙を向けてみろ、猿。今度こそ確実に殺すぞ」
「ほぉ?随分な自信だ。自惚れ過ぎているのでは?」
ガチギレしているダナーとマジギレしている女王がお互いに牽制し合っている。
女と女の戦いってレベルじゃない。
猛者と猛者の殺し合いだな……。
傍に居る俺の方がビビってしまう。
「正当な自己評価もできないウジ虫でしたか、過大評価していました」
皮肉満々ですね……。ていうかお前ってそういう人格だったの?
そう言えば俺や俺に好意的な人間への接し方しか知らなかったがこいつは俺にとっての敵に対しては厳しい対処をするのかもしれない。
最初の時は俺を殺すつもりで接してきたし、遺跡内の化物にも容赦なく撃退してたし。
「しかし、異世界人よ」
「しかし、マスター」
2人が同時に俺を睨み付けてくる。
「これ以上の無茶は許容範囲外だぞ」
「これ以上の独断行為は従者として無視できません」
この恐怖的な2人に同時に威圧されるとマジで怖い……。
「善処します……」
生きた心地がしない……。怖ぇぇ……。
「マスター、あまり無理をされては困ります」
謁見の間(だろう場所)からいつものように退室して拉致られた時に世話になっているロイヤルガーターに乗って帰ろうとしているとダナーに忠告された。
「何が悪いのか分からないのだが?」
「天然ですか?」
「天然だ」
開き直りである。
「では尋ねますが先日、私をホテルの部屋から追い出して4人で会話していたのと今回の件は関係しているのではないですか?」
…………。
「私の推測では何かしらの悪巧みをし、その件について何か失敗をしてしまい、あの猿にバレて拉致された後に尋問されたのではないですか?」
「そ、その通りです……。言い訳する気にもなりません」
「はぁ……。マスター、私はどのようなことがあってもマスターの敵にはなりません。例えこの身が朽ち果てたとしても私はマスターの味方です。だから私を仲間はずれにしてこのような独断行動をしないでもらいたいです」
なんと嬉しいことを言うのだろうか。ここまで健気な事は親にも言われたことない。
『アンタはやれば出来る子なんだから』とは言われても『お母さんはアンタの味方だよ?』とは言われた事などない。つまりこれは『アンタが世間的に自慢できるような人間になったら自慢するけど、犯罪者になったら私はアンタと縁を切るよ』ってことなのだろう。
涙出るな……。
「前々から気になっていたのだが、なんでお前は俺の従者になりたがったんだ?」
「…………分かりません。主君を選ぶ基準は自我に依存されません」
は?どういうこと?
「簡単に申し上げると、遺伝情報に何を基準に選択するかが刻まれており、私がそれに意識的に従うわけではありません。生物的に言えば本能的にマスターを選んだというわけです」
はぁ、結局なんで俺を主君に選んだかは分からないってか。
「それで、マスター。いったいどのような悪事を行えばあの猿に拉致された後であのような目に合うのか説明をお願いしたいのですが」
ここまで言ってくれている可愛い可愛い従者に対して秘密にしておくのも悪かろう、むしろ秘密にしていたがゆえに裏切られてしまった場合を考えると信頼しておく方がいい。
「少しばかり長くなるが我慢して聞いてくれ。事の始まりは俺達がこの異世界にやってきた時まで遡る……(以下中略)」
ここで何を言ったかというとエロマンガ朗読をさせられ、手に入れた金塊を9割奪われ、その手に入れた1割の金塊の紙幣1億ダラーも女王が駄メイドのパティを騙して8800万も無駄遣いさせ、現在完了進行形で俺の自室と私物を奪っていることの4つのことである。こんなことがあったから金を手に入れて女王に「ざまぁみさらせ!クソババァ!」と言いたいのである。
「なるほど、やはりあの猿の脳天に風穴を開けるべきだったでしょう」
「だから!平和的にな!平和的に」
「平和的にですか……しかしマスター、あの猿はマスターを殺そうとしていたのですよ?そのような相手を殺さずに交渉するというのは至難の業かと?」
「殺人が後味悪いってのもあるのだが、それ以前に一国の女王を殺したら色々と面倒なことになるんじゃないか?」
「一国の女王ともなれば暗殺の可能性など高いことでしょう。後継者なら大勢居るのではないですか?あの猿もそれなりの年に思えます。嫡子が居たとしても不思議ではありませんし、他の王族も居るでしょう」
極めて合理的な判断だ。反論する場所が見当たらない。しかしそれでも。
「それでも俺は平和的な解決法が良い。お前が企んでいるジェノサイド計画は最後の最後に俺の命が危ない時のみだけだ」
俺がなぜここまで平和的な方法を望むのは単純に報復が怖いだけである。
人殺しが怖いだとか平和ボケしているとかではない、断じてない、俺はもうここのおかげで価値観が狂っている。強盗殺人があった屋敷に住まわせられたり、ハゲデブエロ公爵にセクハラされたり、日本には居るわけないような獅子や虎などの猛獣を超える化物に怯えたりと酷い目にしか合っていない。
だから、女王が死のうと生きようと構わないが、奴が辛酸を舐めたような顔を見たいだけなのだ。
「そこまで我を通すのなら最終手段にしておきましょう。けれどいつの時代、どこの世界でも劣悪種は存在し、奴等は非常に愚かです。『世界が平和でありますように』という願いの『世界』とは『自分を含めた世界』のことであり『自分を含めない世界は平和であろうとなかろうと知ったことではない』という人間は多数でしょう」
「……お前は人間以上に人間を理解してるな」
「人間でないからこそ、人間以上に人間を理解してるのですよ」
たまに聞く『偽物は偽物と言うコンプレックスを抱いているため、少しでも本物に近づけるように努力しているうちに本物を超える』みたいな亀とウサギ的な感覚なのだろうか?
「そうかもな。……ところで、何時から居たんだよ?」
「あの猿が『で、貴様は何を企てているのだ?』と言った所から」
最初からかよ!!
「マスターが劣等種共に拉致された時から追跡しておりました。無論、マスターからは許可なしに不可視状態には移行しないと設定しているため移行はしておりません」
「そのスペックだけであそこで隠れて俺を見守っていたと?」
「その通りです。主君を守ろうと動かないポンコツとは違います」
いつも駄メイドをポンコツ扱いしているからパティのことかと錯覚するが、こいつが言ってるポンコツってのは量産型低性能のロボットとかそういうののことだろう。
「というかお前はある程度の自立行動は可能なのか」
「もちろんです。安価な量産型機械人形とは違います」
「そういうものなのか?」
「そういうものなのです。私は奴隷ではなく従者、主君が道を踏み外しそうになった時は頬を殴っててでも更生させるのが私の仕事なのです」
奴隷ではなく従者ねぇ……。脳の隅にでも記憶しておこう。
「あ」
ダナーが何かに気づいたように声を漏らした。
「どうかしたか?」
「いえ、忍お嬢様が『干し芋が食べたい!』と言っていたのを思い出したので」
なんとどうでも良いことだろうか、聞いて損した。
「……お前にも忘却と言う機能があるのか?」
「否定、ただ優先順位が低いものと高いもので区分けしているだけです」
なるほど、確かに忍の気紛れ的な『干し芋が食べたい!』なんてのの優先順位はワースト1位だろうな。
「ではマスター、私は適当な干し芋を探してきます。なのでこれを」
なにやら物騒な拳銃を手渡された。
「ん?なんだこれ?」
「護身用のスタンガンです。マスターが所持していた物と違い弾丸が射出され、射程距離はおよそ100mほどあります。角度や風速等を計算して撃てば3kmは飛びますが素人のマスターには不可能かもしれません」
「弾丸数は?」
「マガジン1つ辺り20発です。それではお気をつけて」
そう言いながら去っていった。
お前は働くなぁ。
駄メイドと違ってお前に給料を払わなくて有難いよ。
はぁ……しかし、世の中うまくいかないな……。
この調子だと商品を売りつけるのはしばらく止めた方が良さそうだなと思いながらロイヤルガーターに跨る。




