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うちの駄メイドのせいで俺の人生がピンチピンチピンチ

 前回までのあらすじ、

 幼なじみの黒魔術に付き合ったら女にさせられた挙げ句、異世界に飛ばされてしまう。しかし、オンボロのオバケ屋敷を手に入れ衣食住の全てが保障された。けれども、貯蓄がヤバイ、今後数年で無くなってしまうだろう。そして俺がピンチなのはどう考えても黒魔術使いの幼馴染と女王に騙されたメイドが悪い。

 そんなわけで俺は今後のことを考えることを強いられているんだ!

 俺は駄目メイド、略して駄メイドのパティに任せるはずの仕事であった家計簿をつけている。

 こんなことをやるのは都合よく親が海外出張のギャルゲー主人公くらいかと思っていたが、俺のように異世界に飛ばされた人間もつけることになるのか……。


 なぜパティにつけさせないかというと、

 彼女に任せると預金が!

 仕事に対して払わなければならない給金が!

 これ以上、奴に給料を払いたくないのだ!


 彼女はこの世界のことに俺たち以上に詳しいから傍に置いておきたい。俺たち2人だけではこの世界で生き抜くのは厳しすぎる。無人島で永遠にサバイバルしなければならないことに等しいであろう。


 けれども、パティは使えない。

 炊事、洗濯、掃除はできるが、それ以外では役に立ちそうにない。

 いや、使えるのだが、主に資金的な理由で。

(なぜか資金運用においては二次元のドジっ娘メイドと同レベルなくらい使えないのである。一言で彼女を評価すると無能)


 だから俺が家計簿をつけるしかない。

 忍には任せたくないのはなんだろうかね?

 夫に小遣いしか渡したがらない主婦ってこんな気分なのだろうか?

 分かりたくなかった……。


 因みに、俺たちの買い物は3人で買い物に行き、資産の1000万を上手に切り崩してやりくりしている。あの2人だけに任せると一度にどれだけ使われるか分からない……。


 現在の収入は不定期にある俺の私物を紹介することだけ。

 これが2,3日のペースで5000ダラー。

 つまり平均程度である。


 しかし、我々現代の日本人がこの世界で平均的な生活を送るなど論外だった。

 なぜかと言えば、この世界は技術が遅い。

 テレビもCDプレイアーもゲームもない。

 そもそも電気が無い。


 娯楽が出来ないだけならまだ良いのだが、冷蔵庫にエアコン、マッサージ機の類も無い。それらを補うためには金が要る。

 そう、金の力は偉大だ。

 だからこそ必要なのだ。

 この世界で贅沢に暮らすにはな。

 つまり、俺がここでニートのように自堕落に暮らすためには少なくともあと数千万ダラーは無いと話にならない。


 俺の私物が全て帰ってくれば何か策が浮かぶかもしれないのだけれど……。



「ミコトー!お風呂、先に頂いたよー!ここのお風呂は最高だね♪何回も入ってるのに飽きないよ」

「飽きられても困るわ。あの浴室にいくら掛かってるか分かるか?俺が何日働かないといけないと思ってる?」

 言い忘れていたが、このバカは仕事をしていない。

 女王から阿呆というレッテルを貼られたせいというべきか、おかげというべきか……。

 なんで俺をこんな目に合わせた悪女が俺よりも良い生活を送ってるのだろうかね?


「でもさ、あの1億ダラーを手に入れなかったらもっと酷い目にあってたはずだよ?」

「楽天的もここまで来ると殴り飛ばしたくなるな」

「わ、悪かったよ……。でも……」

「黙れ、お前には発言権なんて無い。口答えするくらいならパティの仕事を手伝って来い。お前が少しでも彼女の仕事を手伝えばこっちが払う彼女の給料は少なくなるんだから」

「そこまでセコくなる必要が有るのかなぁ……ぅぎゃぐわぁ!?」

 何故か忍がいきなり叫びだした。

 いや、ここまで来られると絶縁したくなる。

 付き合い長いからこの程度の奇行じゃ動じませんけどね。



「み、ミコト……今の見た?」

「何も見てないぞ?俺は金の計算だけで必死だからな。パティの仕事を少しでも減らすために」

「いやいや、この際どうでもいいよ!そこのバスケットを見て!」

 いつも以上にやかましい。まさか、またガイコツみたいにオバケでも出たとか言うつもりか?

 やめろって、この屋敷には元の世界に帰るまではお世話になりそうだから。


「だから見てよ!バスケットの中にオレンジの皮が!」

「皮?」

 様子が明らかにおかしい。

 これが女特有のヒステリーってなのか?

 煩わしくて仕方が無いのでデスクの上のバスケットの中を覗き込んだ。


 するとさっきまであったオレンジが無くなり、代わりにそのオレンジの皮が置かれていた。俺はその皮をつまみ、ゴミ箱へポイっと捨てた。


「なんでヒステリックを起こしてたのかは分からんが、ゴミくらい捨てろよ。嫁に行けなくても俺は知らないぞ?」

「なんでボクが食べたと思ってるの!?ボクは今までお風呂に入ってたんだよ!!物理的に考えて食べられるわけ無いじゃないか!!」

 ……言われてみればそうだな。

 こいつが風呂に入る前は有った気がする。

 そしてパティは今、夕食の片付けをしている。

 となると……あれ?俺が食べたってことになるのか?

 でもそれはない、食べてないのだから。

 記憶からなくなっていたとしても皮を捨てるくらいはやるはずだ。



「ミコト、さっき何があったか分からないみたいだからボクが説明するね。良いかい?しっかり聞いてくれよ?今、オレンジは宙に浮いて、独りでに皮が剥かれ消失したんだ。ウソだと思ってもらっても構わない。けど、本当だから」

「はぁ?独りでに?いくらお前が黒魔術師だからってそんなわけが……」

 『ないだろ』と忍の意見を叩き落そうと思っていたのだけど、バスケットに入っていたバナナが忍の言うとおり宙に浮いて、独りでに皮が剥かれた。


 そして、俺は見た。空中に浮遊している蒼白い人影を。

 その蒼白い人影は口の方にバナナを持っていき食べた。齧られたバナナは人影の口元で消失してしまう。もぐもぐと人影が咀嚼し、こっちを見てきた。

 人影がバナナを持っていないほうの手で俺たちに手を振った。


「「うぎゃーーーー!!!!」」

 ニコニコとしている人影を見て俺たち2人は阿鼻叫喚してしまった。



「ど、どうされました!?ご主人様! お嬢様!」

 俺たちの叫び声を聞いてパティが駆けつけてきた。

「い、いいいい今!そこに人影が!!」

 俺がパティに人影の方を指差す。

 人影はまだ存在していたが既にバナナを食べ終えて皮をバスケットに捨てている。


「人影?この辺りに人が居るわけが……まさか、強盗ですか!?」

「いや、違う違う違う!お前にはアレが見えないのか?というかお前が買って来た魔除けは全く役に立ってねえんだけど!?」

「……残念ながら、魔除けのような効果が目に分からないような代物はどんなメイドであっても良い商品を選び抜くのは至難の業かと」

「このポンコツ!!」

 駄メイドに苦情を言って俺は再度あの人影の方を見る。


 さっきまでは蒼白い人影であったが、今ははっきりとその姿が目に見える。

 その輪郭は未だに蒼白いがピンクゴールドの髪の毛で貴族が着るような純白のドレスを纏ったお嬢さんだ。

 そのお嬢さんがこっちを見てニコニコしている。

 楽しそうに空中で寝そべっている。


「ところでご主人様、アレとは?」

 どうやらパティには見えていないらしい。

 しかし俺にははっきりと見える。

 忍は見えているのかと思い、彼女の方を見ていたが既に泡を吹いて気絶し、風呂上りだというのに股間から大量の黄色い液体が漏れ出しており、床に大きな溜りを作ってしまっている。


 失禁して失神しているのか……。

 つまり見えていたってわけね。



(グッドイヴニング、リトルレディ。君にはわたしが見えてるの?)

 蒼白い人影がこっちに語りかけてきた。

 俺はそれに首を縦に振って答える。


(そっか♪じゃあ、おしゃべりしよう。わたしはこの屋敷の本当の持ち主のミシェル・クリストフォード。現在はこの屋敷で地縛霊をしてるの。これからよろしくね)

 蒼白い人影、もといミシェルが自己紹介してくる……。

 まさか、この(元)お化け屋敷に本物のお化けが住み着いているとは夢にも思わなかったぜ……。



 忍のことはパティに任せ、俺はミシェルと名乗った幽霊少女を俺はもてなす。

「で、えっと……ミズクリストフォード?」

(ミシェルでいいよ♪)

「じゃあ、ミシェル。俺のことはミコトで構わないです。あなたがここの本当の持ち主ってのはどういうことか説明してもらえるとありがたいんですが?」


(ここはわたしの別荘だけど?それ以上の説明?)

「別荘……?」

 そういえば、女王が言ってたな。

 確か、貴族の別荘だったけど盗賊に襲われて家族全員皆殺しだったとか……。


「つまり、ここで地縛霊をやってるのは?」

(いや違うよ。私を殺した強盗はもう処刑されたみたいだから私はそういう未練はないの。ただ早死にしちゃったからもっと人生を楽しみたかったって言うのが未練って言えば未練かな?)

 人生を楽しむ、ねぇ……。

 そりゃ楽しみたいよな。人生だもん。

 俺も楽しみたかったなぁ……男としての人生を。


(ただ、叶うことならもう一つ願いがあるの。君らならそれを叶えてくれるんじゃないかって思ってるんだ)

「……聞くだけは聞きましょうか」

(女王をぶっ倒したいの)

「詳しく聞きましょう!」

 最後の発言に喰い付いてしまった。

 あの女王に対してこのひとも何かしらの蟠りがあるというのなら聞いておくべきだろう。

 理由はもちろん、あのクソババァには俺も敵意を抱いてるから。


(知ってるかもだけど、この国の法律だと亡くなった貴族の財産は国が管理することになってるの。だから……)

「……まさか、あの女王が強盗を雇って……」

 その後のことは考えたくなかった。

 この展開は最悪のものである。

(そういう証拠はないんだけど、こんな別荘を襲うくらいなら実家を襲う方が妥当なんじゃないかと思って)

 確かに、俺たちに思いっきり剣を投げてくるような野蛮人ならやりかねん。


「なるほど、話は分かりました。実は俺たちも斯々然々でして」

(へぇ~、異世界……だからわたしのことも見えるのかな?)

「かもしれませんね」

 パティにはミシェルは見えないみたいだったし、俺たち異世界人にしか感知できない理由でもあるのだろうか?

 いや、異世界人だからというよりは黒魔術のせいって気がするけど……。


(……さっきから気になってるんだけど、なんで敬語なの?)

「え? いや、貴族様だし……」

(わたしはそういうの気にしないよ?対等の関係になれる友達が欲しいの)

「そう?じゃあ改めてよろしく。そして、共に打倒女王のためによろしく」

(よろしく♪)

 こうして、俺に幼馴染バカ駄メイド(ポンコツ)よりも役に立ちそうな心強い仲間が出来た。

 後悔させてくれるわ、クソババァ。

 この異世界人()を謀った報いを受けるが良い!!

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