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(ガワだけ)胡乱なカードゲームおじさん  作者: 十田心也


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4/13

4枚目 輝ける様は誰が為に

『彼女ハ預カッタ。取リ戻シタクバ此処ニ来イ』


 添付されているのは五色(ごしき) (とおる)の後ろ姿と、学園内のカフェへの地図。

 そのようなメールを受け取った門地(かどち) 界斗(かいと)は教室を飛び出し、件のカフェへと走った。

 途中で界斗のただならぬ様子から、何かあったと察した友人の炉井(ろい) 鷹介(ようすけ)が合流する。


「透が攫われた!? 相手は?」


「分からない! メールは透のデバイスから送られてきたが、この手の悪ふざけはしないだろ」


「短い付き合いだが確かにそれは言えてる。ってことはマジの誘拐かよ、クソがっ!」


 吐き捨てる鷹介の隣で、界斗も同じく荒れていた。

 自分と透はまだ数か月の付き合いだが、大切な友人だと胸を張って言える。

 この前のカードショップの件で少しギクシャクしていたが、そんなことはもう二人の頭から消えていた。


 界斗はこの学園での出会いや学びに感謝しているが、同時に舞い込んでくるトラブルにはウンザリしていた。

 入学時からトラブルはあったが、最近は度を越して厄介ごとに見舞われている。

 生徒や教師、果てには身元不確かな人間が昼夜問わずに因縁つけてバトルを迫ってくるのだ。

 いくらバトルワールドに力を入れている学園にしても限度があると思うが、仮にも自分は競技プロを目指す身。

 対戦の経験は将来の糧になると思えば、この境遇にも耐えられた。


「友達を巻き込むのは違うだろ!」


 界斗自身ではなく、その友人を狙うという卑劣さ。

 今までにも卑怯な手段を取る者はおり、今回もその類かと思うと怒りが湧いてくる。

 焦りと怒りも燃料にして走っていると、目的のカフェが見えてきた。

 そしてカフェのテラス席に見覚えのある後ろ姿、透を見つけ思わず叫ぶ。


「透、無事かっ!」


「今すぐそこから離れろ!」


 拘束などはされていないようで、この場から逃がそうと叫んだ2人の視界に飛び込んできたのは──



「ふぇ、ふぁふぃ?」


 スコーン片手に両頬をふくらませた五色 透の姿だった。



「えっと……?」


「なんで暢気に菓子食ってんだよ」


「んっぐ!? あ、いやこれは、違くて」


 透の妙な反応を訝しみ、そして同じテーブルに着いている女子生徒を見て二人は気付く。


「先輩がいるってことは、担がれた?」


「門地さん、自分を見てすぐにその判断は傷つきますねえ」


「そう言うならそれらしい顔ぐらいしろよ」


 鷹介の言葉にも笑って返す女子生徒。

 2人にとって同じ学科の先輩、観月(みつき) 陽映(はるえ)がそこにはいた。

 界斗が学園で噂のカードを手にして以降、なにかと接点を持つことになった先輩。

 透とはいとこの関係だと聞かされており、今回は目の前の油断ならない人物が描いた絵図なのだろう。


「今回のはちょっと冗談が過ぎるぜ、先輩」


「僕も鷹介に賛成です。あまり褒められたことじゃないですよ」


 友人の安否が懸かっていると思わせるなど、流石に許容できるものではない。

 そんな彼らの雰囲気を察し、陽映はその場で頭を下げる。


「2人とも申し訳ありません。確かに軽率でした」


 深々と頭を下げる先輩を前にして、2人もとりあえず気持ちを抑える。


「頭を上げてください、先輩」

「ただの狂言で良かったです」


「心配した奴も元気に菓子食いまくってたみたいだしな」

「てか買収されてたし」


「いや、買収というか、気付いたら罠にかかっていたというか……」


「まぁ透が無事で僕も鷹介もホッとしたよ」


 最近はギクシャクしていた3人だったが、今は元の雰囲気が戻ったように話ができた。


「うんうん、3人の友情を確かめられて良かった良かった」


 したり顔で頷く陽映を見て、界斗はどこまでがこの先輩の想定通りなのかを頭の片隅で考える。



「では御園プロ、そろそろ」


「分かりました。観月さん、色々とありがとうございます。お二人とも、はじめまして。私、御園(みその) (しげる)と申します。」


 その場でこれまで沈黙を貫いていた人物に、陽映が話しかけた。

 男の正体もこの場の事情も知らない2人に対して説明がされ、その内容に2人は驚愕する。


「大企業がプロを雇ってお忍びでバトルかよ。注目されてんな、界斗」


「いやもう、何て言ったらいいのか」


「あなたは大いに期待されているということですよ、門地 界斗さん」


 その道に生きる、自分たちの学びの先で結果を出しているプロの言葉に思わず照れる界斗。


「そんなプロでも、噂の学園のカードは奪ってでも欲しいわけだ」


 鷹介の非難に、若干絆されていた界斗が警戒心を取り戻す。

 学園創設以来、封印されていたというカードのうち2枚を手にしたのが去年の暮れ。

 その噂が学園内外にあっという間に広がり、それから界斗のもとにはそれまでの倍以上の対戦申し込みがあった。

 その中には噂のカードを賭けた対戦を望む者もおり、そうした者に限って強引に事を運ぼうとする。

 プロは今までいなかったが、学園外の人間が界斗に挑んできた対戦は全てがカードを賭けたものだ。

 目の前の御園 繁という男が例外であるなどという保証は──


「いえ、私はただバトルをして欲しいだけですよ」


「……えっと、アンティルールではなく?」


「はい、普通にバトルをしていただきたいのです。賭け勝負など望んでおりません」


 界斗は相手の思わぬ肩透かしに気勢が削がれる。


「個人的な考えですが、私たちがカードを選ぶようにカードも私たちを選んでいると思っています」


「カードが僕たちを……」


「これは貴方が手にしたような特別なカードに限った話ではなく、全てのカードに対して適用されると私は考えていましてね」


「プロで鎬を削ってるにしちゃ、ずいぶんなロマンチストだな」


 からかうような、しかし先ほどより若干柔らかくなった声で鷹介が茶化す。


「よく言われます。しかしデッキとの信頼関係などは広く浅く信じられているのですから、あながち間違っているとは思っていません」

「ですから一方の意思のみで通すアンティルールなどは必要ありません。私個人としては対戦中の雑念にしかなりませんからね」


 己がプロとしての信条の一端を語る繁。

 そんな姿は、いまだ学生である彼ら彼女らにどう映ったのか。


「普通のバトルでいいのなら……」

「こちらこそよろしくお願いします、御園プロ」


「気乗りしないなら俺が代わってやってもいいぜ、界斗」


「ご指名は僕だよ。一足先に目指してる場所の光景を見てくる」


 やっと年相応の笑みを浮かべながら、界斗が対戦を受諾する。

 少年2人の目には最初はなかった、相手への敬意が混じっていた。

 少なくとも今までのような、欲に溺れた相手ではないと感じたのだ。


「ありがとうございます。では早速」


「ええ、時間も限られてますから」


 示し合わせたように、それぞれ自分のデバイスを構える。


「御園 繁、参ります」


「門地 界斗、いきます!」


『Battle Start』


 デバイスから発せられたシステムの宣言をもって、いまここに闘いの火蓋が切られた。








「判定により先行は私が貰います」


 デバイスの判定は繁が先行、界斗が後攻。


「エネルギーフィールドに手札からカードをチャージし、そのままエネルギーを1点抽出。対応する世界は緑」


 始まったバトルを観戦する3人のうち透はルールに詳しくないため、他の2人が解説をはさむ。


「カードを出すためにはエネルギーが必要で、そのエネルギーを生むにはエネルギーフィールドにカードをチャージする必要があるんだ」


「ただチャージすればいいってもんじゃねえ。カードにはそれぞれ対応する世界ってのがあって、エネルギーはその世界に紐づいた色しかだせねえからな」


「確か赤、青、緑、黒、黄色……、だったよね」


「合ってるよ透。カードを使うにはコストがあって、それを払うのには一致する色のエネルギーを使わなきゃいけないってわけさ」


「ついでに言うと色付き、いわゆる有色のエネルギーは基本的にユニットからしか抽出できねえ」


 3人の視線の先では、エネルギーを糧として戦場に最初の命が生まれようとしていた


「私は緑エネルギー1点を使用し、【香蟲花草(こうちゅうかそう) 漂う綿毛】を召喚!」


 ふわふわと、雪のように舞う綿毛が召喚される。

 いや、よく見ればその綿毛には羽があり節くれだった脚が付いていた。


「【香蟲花草】……、初めて見るカテゴリーだねえ」


「名前や見た目から察するに蟲、いや植物も種族に含んでそうだな」


 経験者2人が解説するプロとの対戦という、気付いてみれば貴重な対戦に透は必死にメモを取る。

 普通科が無駄なことをなどと言う者はこの場におらず、陽映にいたっては微笑ましそうに後輩にしていとこである少女を見ていた。


「私のターンはこれで終了です」


「ターンを貰います、ドロー!」


 界斗も透と同様、この得難い機会に今更ながら実感が湧き高ぶっていた。

 雲の上のプレイヤーであるプロとの対戦など望んでも叶わないことが多いというのに、自分はいまその幸運を手にしている。


「僕も手札からカードをチャージします」


 高揚はそのまま、プレイングは冷静を心掛けるべく気を引き締める。


【香蟲花草 漂う綿毛】

 カードコスト:[緑]

 カードタイプ:ユニット

 世界:緑

 種族:香蟲花草

 戦闘力:0/生命力:1000


 今の界斗から見て、相手のユニットで分かっていることを整理しだす。

 初めて見るカテゴリーのユニットではあるが、ステータス自体はコスト相応の貧弱さ。

 こちらの攻撃を防ぐただの壁ユニットか、それとも何かしらのコンボパーツか。


「特殊能力があるにせよ、今すぐ悪さすることは無いはず。僕は【人懐っこい短剣】を赤エネルギー1点を使用して召喚!」


 界斗が呼び出したのはデフォルメされた短剣で、刀身には目、柄には鼻と口が付いている。

 犬が飼い主にじゃれつくように界斗の周りを走ったかと思えば、相手のユニットを威嚇するように切っ先を向けて唸りだす。


【人懐っこい短剣】

 カードコスト:[赤]

 カードタイプ:ユニット

 世界:赤

 種族:魂魄武具

 戦闘力:1000/生命力:1000


「ターンを終了します」


「なるほど、装備ユニットですか。楽しいバトルになりそうですね」


 一巡したターン、エネルギーフィールドに更にカードがチャージされる。


「私は緑エネルギー2点を使用し、【芽吹く命】を発動。デッキの1番上のカードをチャージします」


エネルギーフィールドに手札からカードをチャージできるのは1ターンに1枚まで。

緑のカードはそのエネルギーを増やす手段が豊富にある。


「この効果でエネルギーフィールドに置かれたカードからはこのターンにエネルギーは生み出せません。ターン終了です」


 繁のエネルギーフィールドのカードを増やす行動から、界斗は僅かだが繁のデッキタイプにあたりをつけた。


「カードをチャージし赤青1点ずつエネルギーを使用、【新米冒険家】を召喚! 他のユニットが召喚されたことにより【人懐っこい短剣】の効果発動! このユニットは装備カードとなり、装備されたユニットの戦闘力にプラス1000の補正を加える」


【新米冒険家】

 カードコスト:[赤][青]

 カードタイプ:ユニット

 世界:青

 種族:冒険者

 戦闘力:1000/生命力:2000→戦闘力:2000/生命力:2000


「更に【新米冒険家】の効果も発動します! このユニットのコストと同じ数値のコストを持つカードをデッキから1枚選び公開、手札に加えます。この時選べるのはカード名かテキストに【冒険】と記載のあるカードだけ!」


 界斗は己のデッキを確認し、どのカードを持ってくるか一瞬思案する


「僕はコスト2のサポートカード【冒険者の即席落とし穴】を手札に加えます。そしてこの効果を使用した時、【新米冒険家】は次の僕のターンまで戦闘力が0になります」


 まだ幼さの残る冒険家は装備された短剣に振り回されながら、無茶苦茶な動きで腰に巻いたロープを明後日の方向に飛ばす。

 いかなる偶然かそのロープはデッキからカードを巻き取り、フラフラと目を回しながらも冒険家はそのカードを界斗に手渡す。


「目がグルグルしちゃって。あのカードかわいい」


「効果はまるで可愛くねえけどな。制限があるとはいえ毎ターンサーチされるとか」


 過去に対戦でしてやられた経験がある鷹介が苦い顔で呟く。


「ドロー! そのまま居座られると少々厄介ですねぇ」


 繁の知る限り【冒険】カテゴリーはかなりの種類があり、その効果は多種多様だ。

 このまま銀弾戦術(※1)で対処カードを揃えられては苦しい。


「私はカードをチャージ。緑エネルギー4点で【大地への郷愁】を発動! 相手ユニット一体をエネルギーフィールドに送ります」


 郷里を懐かしむ音楽があたりを包み、それに触発されたのか【新米冒険家】が目を潤ませながら光となってエネルギーフィールドにチャージされる。


「まだ効果は続きますよ! 自身のエネルギーフィールドのカードが全て同じ世界だった場合、ターンが終了するまでユニット1体の戦闘力にエネルギーフィールドにあるカード1枚につき1000がプラスされます」


 この場合、選択されるのは唯一フィールドに存在しているユニット。


「私は【香蟲花草 漂う綿毛】を選択!」


【香蟲花草 漂う綿毛】

 戦闘力:0/生命力:1000→戦闘力:4000/生命力:1000


「っ装備していたユニットがいなくなったことで、【人懐っこい短剣】は墓地へ行きます」


「では戦闘へ移りましょう。【漂う綿毛】で攻撃!」


 パワーアップしたユニットは、漂うというよりも風を切る勢いで界斗へと突撃を敢行した。


 門地 界斗

 SP20000→SP16000


「まずは先制点、ですかねぇ。ターン終了です」


「僕のターン、ドロー!」


 僅かだが心に湧いた恐れに支配されぬよう、界斗は気迫を込める。

 怪我の功名で自身の扱えるエネルギーは増えており、ここからどう立て直すべきか。


「ますはカードをチャージ!」


 チャージされた黄の世界のカードが、繁の興味を引いた。

【冒険】カテゴリーは競技の世界でも結果を残しており、その勢力は赤、青、緑に跨る。

 黄の世界に該当するカードはなく、ならばあれは界斗なりのデッキ構築要素。


「エネルギー4点で【セイクリッドゲート】を召喚!!」


 力強い宣言で召喚されたユニットは、輝くオーラを放つ巨大な門だった。

 プロの世界で多少は経験を積んだ繁だが、目の前に現れたカードは初めて目にする。


「【セイクリッドゲート】の効果! 自分のターンに一度、手札の黄のユニットカードをコストを支払わず使うことができる!」


「っ踏み倒しですか!」


 無条件ではない、おそらく何かしらの制限や代償が必要なユニットなのだろう

 しかし本来払うべきコストを無視できるその効果に、繁は身構える。

 ゲームの展開速度を一方的に縮められる力から、一体何が生み出されるのか。


「御園プロ。ご希望のカードの1枚、今ここで披露させてもらいます!」


 界斗の目に意思、己のカードに対する強い信頼を繁は見た。


「その威光は全てを塗りつぶす! 僕は手札から、【輝ける黄金の竜】を召喚!!」


 噂の学園のカードをデバイスが認識した瞬間、辺りが光に包まれる。

 召喚時の演出なのだろうが、どこか異質な雰囲気を繫は感じ取った。

 上手く言語化できないが、自身が向き合ってきたカードとはどこか違う力のようなものに繁は思わず声を上げる。


「何の光です!?」


 しばらくして光が収まると、威光の主がその場に降臨していた。

 翼や尾、爪に角、全身を覆う鱗など全てが黄金で形作られたその威容。


「……なるほど。これは噂になるのも頷けます」


 携帯デバイスでは映像と音声のみの筈だが、目の前の竜からはそれだけでは説明のつかない威圧感のようなものが強く感じられる。

 学園に眠るカードたち。

 対峙して初めてそれらの噂が大げさなものではないことが分かった。


「【輝ける黄金の竜】の効果発動!」


 これほどのカードが何の効果もないわけがなく、繫はいくつかの予測を立てる。

 黄の世界、おそらく種族はドラゴン、召喚時の口上から……。

 早速の答え合わせとばかりに、竜の体躯が再び輝きだす。


 持ち主の意思に応えその巨躯に秘められた力を開放しようとした竜だが、突然その姿がブレる。

 次の瞬間、その場から竜は完全に姿を消していた。



「これは一体……」


 予期しない事態を訝しむ繁だが、それはすぐに氷解する。

 学園全体に、授業の先触れである予鈴が鳴り響いたのだ。


「もう昼休み終わり!? こんな、こんな……」


「ありゃしばらく引きずるな。まぁ気持ちは分かるが」


 鷹介は親友が納得できないと憤る様を見て苦笑する。


「えっと、なんでドラゴンが消えたんですか先輩」


「一部を除いて、学園支給のデバイスには色々な制限があるんだよ。許可なき対戦への強制介入もね」


 陽映の語る制限のうち今回機能したのは、教員の許可のない対戦が授業開始時間まで続きそうな時にその対戦を強制終了させるというものだ。

 バトルワールドに力を入れている衛征学園といえど、野放図なやり方を許容しているわけではない。

 健全な学生生活を保証するため、学園のデバイスには様々な制限機能が施されているというわけだ。


「くっ、こんな終わり方なんて! 駄目だ、対戦機能がロックされてる……」


「界斗、遅刻したらお前をよく思ってない奴を調子づかせる。教師にも面倒な奴が何人かいるしな」


「そうだけど、そうだけども! こんな機会、もう二度とないかもしれないのに!」


「……そうだよなぁ。プロとの対戦だもんなぁ……」


 鷹介が説得しようとするが、自身に置き換えたら確かにお預けが過ぎる状況。

 思わず説得ではなく同情が口から零れた。

 未練がましくロックされたデバイスをいじる二人に、透の注意が飛んでくる。


「だからって、ここでいじけててもしょうがないでしょ! このままじゃ本当に遅刻しちゃうよ」


「一度の遅刻といえど、門地さんを陥れようとする人は両手両足では足りないですからね。つけこまれる隙を自分から作るのはいただけません」


 正論である。

 界斗とて、学生の本分が何たるかくらいは理解している。

 手にしたカードにより、自身の一挙手一投足が必要以上に大きく扱われることもだ。


「門地 界斗さん。付き合わせた私が言うのもおかしいですが、授業にはちゃんと出たほうが良いです」


「御園プロ……」


「お詫びになるかは分かりませんが、こちらをどうぞ」


 そう言って繁が界斗に手渡したのは、数枚のチケット。

 どうやら来月にバトルワールドのイベントが開催され、そのための入場チケットらしい。

 幸いにもその日は何の予定もないため、問題なく行けることを確認する界斗たち。


「主催者の方から頂きましてね。イベント参加者の1人として、少しでもお客様を呼んで来いと」


「もしかして、他のプロも参加したりするんですか?」


「ええ、当日は恥ずかしくないバトルをするよう努めます」


 そうこうしているうちに、いよいよ授業開始時間が迫ってきた。


「御園プロ、今日は対戦していただいて本当にありがとうございました! 大会も絶対応援しに行きます!」


「あ、あの、本当にたくさんご馳走になっちゃってすみませんでした。試合頑張ってください!」


「イベント、楽しみにしてますよ」


 そう言って校舎に走っていく3人へと手を振る繫。



「御園プロ、データは後ほど名刺のアドレスに送らせていただきますね」


「歓月さん、ご協力いただき本当にありがとうございます。今回は色々助かりました」


 礼を言う繫がふと陽映を見れば、その顔には何かをこらえるような表情が浮かんでいる。

 先ほどの様子もあり、お節介とは思いつつも繫は陽映に尋ねた。


「観月さん、私に何か尋ねたいことがあるのではないですか?」


「え、いえ……、その、そんなことは……」


 否定しようとした陽映だが、明確な言葉は出なかった。

 あるいは、自身に対する繫の気遣いを感じ取った結果かもしれなかった。


「……あの、御園プロはバトルワールドが嫌になる時ってありますか?」


 先ほどまでの飄々とした雰囲気はまるで感じられず、心底から絞り出したような声で陽映が尋ねる。

 事実、それは彼女の心の奥底で澱みとなっているものなのだろう。

 それを無理にでも汲み上げて晒している。

 自惚れかもしれないが、繫はこれはそういう問題だと認識した。


「あります。数え切れないほどあります」


 ならば真剣に向き合わなければいけない。


「目当てのカードが引けなかった時。相手のデッキ回りが圧倒的だった時。すぐに気付くようなミスをした時。負けるたび灼けつくような激情が沸き上がり、冷めても暫くはその名残が固まってこびりつく」


「プロでも……、御園プロほどの方でもですか?」


「私はさほど器用じゃありませんからね。そうして時間をかけてその名残と向き合うと、ふと気付くんです」


 己の胸に手を当てながら、繁は陽映の目を確りと見て話す。


「こびりついたその感情が、誰に対してのものだったのか」


「それが、バトルワールドへの?」


「いえ、それからは近いようで遠い……」


 繫の答えを待つ陽映。

 会って数時間の関係だが、目の前の男の言葉を陽映は真剣に聞いていた。


「私は毎回その感情が、自分への怒りだと気付くんです」


「自分への、怒りですか?」


「はい、当然ですがバトルワールドはカードを持っているだけではどうにもなりません。カードを適切に扱い、相手の繰り出してくる手札を処理する。そうして初めてバトルワールドで勝利することができます」



 目当てのカードが引けなかった時。

 デッキ構築の段階でどこかに見落としがあった。自分のせいである。

 相手のデッキ回りが圧倒的だった時。

 相手の戦術に対処できていなかった。自分のせいである。

 すぐに気付くようなミスをした時。

 手癖でカードを扱うような疎かさ。まごうことなき自分のせいである。



「自分の不始末は自分で何とかしたいものですから」


 どこか気恥しそうにする繁。


「どうにかしてそこから次へと繋がる何かを欠片でも見つけ出していく。嫌いになれない……、結局どうしようもなくこのカードゲームが好きなんです」


 あなたと同じように。


 陽映は、繫の言外の気持ちを聞いた。

 その表情は先ほどよりもいくらか柔らかい。


「おっとすみません、つい説教くさいことを。どうも若い方に見栄を張りたくなってしまったようで」


「いえ……、貴重な心構えを教えてくださりありがとうございます」


「どういたしまして。僅かでも観月さんの糧になっていただければ幸いです」








 陽映にもチケットを渡し、繫は学園を去った。

 コンクエスト社より依頼されていた今回の件だが、結果としてはあまり芳しくない。

 対戦は中断となり、依頼主が気にしていた学園のカードも片割れの姿を見ただけという始末。

 デバイスが読み込んだ以上あの竜のカードはデータとして記録されているため、最低限の面目は保てる。

 しかし結局はもう1枚のカードは依然として謎のままである。

 追加条件という形だが、依頼主の関心がそちらに寄っていることを僅かでも利に敏い者ならば感じられただろう。


 だが御園 繫の考えは違った。

 そもそもこの男、依頼主の関心が学園に封印されていたカードであることに気付いていない。

 カードはあくまでおまけであり、その持ち主である門地 界斗との接触が依頼主の本命。

 将来有望な若者への橋渡しが自身への依頼であると繫は信じ込んでいる。

 コンクエスト社が今回の人員選定にあまりおだやかではない界隈の人間も含めていたことから内心は伺えるが、繫はただ字面通りに受け取っていた。

 コンクエスト社の遣いとして界斗と接触し、対戦を実施。

 こうして目的を達成した以上、異物の自分はさっさといなくなった方が良いという判断からの行動である。

 その外見からは若干想像できない四角四面ぶりであり、今回の件で指揮を取っていたコンクエスト社内の人間が知れば頭を抱えただろう。



 神ならぬ、ただの人である繫には分からぬことであった。

 そうして繫は学園の正門をくぐり、ふと振り返る。


「……自分で招待したからには、情けない試合にはできませんねぇ」


 既に次のバトルへと、繫は思いを馳せていた。

 仮にもプロである自分が、未来ある若者たちに何を伝えられるか。

 思わぬ形であるが、今度のイベントにてただ勝つだけではない目標を繫は得た。

 それが吉となるか凶となるか。

 全ては己の腕次第ときている。

 激しくはない、しかしふつふつと沸き立つ闘志を繫は感じるのだった。



(※1 銀弾戦術:状況に応じて必要なカードを都度繰り出す戦術。かかる困難を撃ち払うシルバーバレット)



衛征学園で生徒たちが使用しているデバイスには様々なペナルティ機能も搭載されており、バトル中のイカサマや暴力行為は検知されるや即座に当事者へ電気ショックが発生する仕組みとなっています。

バトルワールドに関わる者の心構えとして、戒めの意味も込めて学園の生徒たちにこれは広く認知されています。


高貴な心を忘れてはいけません。


==============================================

【新米冒険家】

カードコスト:[赤][青]

カードタイプ:ユニット

世界:青

種族:冒険者

戦闘力:1000/生命力:2000



1ターンに1度だけこのユニットの合計コストの数値と同じコストかつ、カード名かテキストに【冒険】と記載のあるカードをデッキから1枚選び公開した後、手札に加える。

このユニットの効果でデッキからカードを手札に加えた時、次の自身のターン開始までこのユニットの戦闘力は0になる。



地図、コンパス、ロープ、ナイフ、食料。

準備を怠らなかった者だけが、栄光と財宝を手にする機会を得る。

==============================================


・今の【冒険】の出張ってこいつは必須だよな

・↑まあこいつは上限の3枚入れちゃっていいでしょ

・↑レスサンキュー、2枚しかないから残り1枚なんとかするわ

・結局のところ新米くんちゃんは男なのか女なのかどっちなんだい!

・↑マジで荒れるから議論したいなら雑談行け

・↑↑コメント欄閉鎖されるからやめろ

・↑↑↑また戦争がしたいのか!

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・この前のランキング戦で採用されてたから記念カキコ



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