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開戦


「馬鹿か? あいつら!」

『ネコに軍元帥を任せた方が余程優秀!』

 

 港へ向かう総理大臣を乗せた列車が謎の大爆発。総理大臣と外交スタッフ全員死亡の報。民間人にも多数の死傷者。


 政治家寄りの軍将校暗殺事件。憲兵隊による有力議員の拘束事件。その間を突いた軍部の国会進出。

 政界が混迷する虚をついて、軍部が政権を奪取する。軍出自の総理大臣の誕生。


 次いで軍部の独走による、日独伊三国同盟締結(これでアメリカの牽制になるらしい)。英国、葡萄牙、阿蘭陀と決別。南方、欧羅巴系植民地へ攻撃。中国大陸内で軍事行動の激化。


 四大新聞社による政治の正当性の主張。米英へのヘイト。

 勝てる戦争! 攻撃の美化。そして煽る煽る! 煽れば売れた!

 国民も熱狂してこれを支持。いわゆる世論である。世論がバックに着いちゃ、開戦も仕方ないよね! 国民の総意だもんね!



 唖然とするイオタとミウラ。


 ここに来るまで、イオタとミウラが何も手を打たなかったわけではない。ヌシが表に出ることはできない。間接的に人脈をフルに使って巻き返しを図ったが、反戦派、ハト派の有力者はみんな非国民、アカのレッテルを貼られ、片っ端から投獄、もしくは暗殺された。


 公家衆にも軍の手が及んでいた。相当前からだ。これに気づけなかったミウラは地団駄を踏む。好戦派の公家が戦争と戦時政府に進んで協力する始末。

 たのみの徳川家末裔も軍の一個大隊により拠点を押さえられ、動くことが叶わない。


『打つ手無しッ!』

「もはや実力行使あるのみにござる!」


『イオタのヌシよ、ミウラのヌシよ――』

 オワリのヌシからの念話通信が入った。


『――是非も無し』

 訳)

 これはヒトが選んだ結末だ。ヒトの社会にヌシは介入しない。今まで介入しすぎたくらいだ。一度くらいこのクニのヒトは、滅びを経験した方が良い。我らヌシはニホン人の滅びを受け入れる決意をした。ヌシが立つときはヌシへの直接攻撃が行われた時。それまでニホンの行く末を見守ろう。お前達はよくやった。我らは表舞台から去ろう。以上!


「オワリのヌシ殿、檄オコにござる」

『大激怒ですね。これ、日本人、見捨てられましたね』

 怒ってる人を目の前にすると逆に冷静になる現象。イオタとミウラの心が冷めた。


「さすがの某も疲れた。もう何もしたくない。ヌシ隠居方針に賛成致す」

『国民に罪はない。罪は教育と民意にある。わたし個人の感想です』

 こうして、ヌシは深い森の奥に姿を消した。

 


 そして運命の冬。 

 ハワイの米軍泊地急襲(ハワイは日本の経済圏に組み込まれていたが、アメリカは強引に艦隊泊地を得ていた)。


 米国艦隊を大きく退却させる。あっちこっちに戦線拡大。イケイケどんどん!


 そして、ミッドウエー会戦の敗退。ソロモン沖会戦で敗退。海軍連合司令長官戦死。

 悪いことに鳥取で大地震。人はヌシの祟りだと大騒ぎ。この戦争に初めて疑問符が付く。もっとも、軍部はこれを全力で潰していったが。


 さらに悪いことに、東南海大地震。軍は報道規制を専制強権国家並みに敷く。噂話をするだけで人が行方不明になった。

 戦線を維持できず、サイなんとかとか、マリなんとかとか、なんかそんな辺から退却。

 海外の工場が維持できない。

 シブなんとか海で武蔵沈没。目をかけていた大戦艦の訃報に、イオタが落ち込む。


 米国、B29の登場により、空母を含む戦闘艦による直接戦闘戦略から戦略爆撃へ変更。

 日本各地は爆撃により被害が出始める。日本軍はB29の出撃拠点を長距離爆撃機で攻撃することで対抗。

 B29による無差別爆撃が始まった。血も涙もない無差別爆撃が始まった。無差別爆撃は平等に人を殺す。年齢に関係無い。男女に関係無い。職業の貴賎に関係無い。一民族を根切りにする意思表示だ。


 そして、京都空襲の一週間後。愛知県三河湾を震源とするM6の地震。三河地震。民間にヌシの呪いという噂が蔓延。ヌシ様はこの戦争を反対している! もはや軍部は人の口に戸を立てられなくなってしまった。

 ……ってかさ、地震の多い国が戦争なんかしちゃダメ!


 大震災の3日後、 無差別爆撃は京都に続いて浜松。岐阜。そして東京。


 この東京大空襲がいけなかった。


 300機ものB29が東京を襲った。

 今作戦においてアメリカ軍はある意味、欲を出してしまった。

 アメリカ軍はヌシの情報を、日本が思っている以上に掴んでいた。今大戦において、ミウラのヌシが何らかの形で一枚噛んでいたと言う情報を手にしていた。

(アメリカはミウラを脅威と捉えていた。アメリカが思っていたのとは真逆で、彼ら(ヌシ)は戦争回避に動いていたのだが、誤情報だったのか、戦争終結に動かれるのをアメリカが嫌がったか、それは現在も不明)



 一部のB29が焼夷弾をしこたま残したまま、ミウラ半島へ向かった。焼夷弾を落とし終わったB29も追って向かうことになっていた。ここに対空砲火や迎撃機は配備されていないからね。


 そして、ミウラの森に爆撃敢行。(希望は東京、ミウラ半島、イズ半島の3カ所だったが、第一目標を最優先した結果)

 絶対防衛高度一万メートルで編隊飛行。しかも夜間。この高度でこの地域。一万メートル上空まで効果的な砲撃はあり得ない。つまり迎撃の恐れはない。


 さて、投下ポイントに到達。弾倉を開くと……


 地上の一角より、青白い光の柱が突き立った。先頭を飛ぶB29を貫いて。


 光の柱は、機体爆弾倉を正確に貫き、内部の焼夷弾を蒸発させた。真っ二つに折れた機体は、墜落することも叶わなかった。切断面からジュルリと溶けて、気体となり風の中に消えていった。

 ジェット気流は米国の方角に向いて吹いている。運が良ければイオン化した元機体の一部くらいは漂い着くであろう。


 すぐ斜め後ろを飛んでいた機体は、隊長機が光の中で消えていくシーンを目撃することとなる。

 まばゆい光の後は何も残ってない。パニックに陥るなと言う方が頭おかしい。

 この機の機長も、あまり深く考えることはなかった。

 なぜなら、隊長機が消えた後すぐ、光の柱が編隊機数だけそそり立ち、全て撃墜されることになったからだ。


 ヌシはヒトの世に不可侵。戦争に不介入。だが、ヌシの領域を侵して生きて帰った者はいない(サブロウやサスケ達数人……大勢を除く)。高度一万メートルであろうと、衛星高度であろうと、犯した者は死ぬ。これはヒトの世への介入などという問題ではない。


 ヌシの掟である。


 ミウラ半島攻撃隊が全滅したことも知らず、無線連絡が無いなぁーと暢気なことを考えながら、ミウラ半島へノコノコと突っ込んできたB29の残り部隊があった。過去形で「あった」。

 何百何十という雷がB29に直撃。B29は電子装備機である。全ての機器が機能を停止。もちろんエンジンも計器類も。バッテリーすらダウンした。

 動力を失い、コントロールを失い、気圧装置を含む生命維持装置すら失った超空の要塞は、片っ端から墜落。

 下の町は大騒ぎとなる。なにせ焼夷弾による被害より、B29墜落に巻き込まれた被害の方が大きかったからだ。


 B29によるミウラ半島爆撃は、予想外の成果を上げることとなった。

 帰還機はたった1機だったが。


 この、誰も期待しなかった成果により、アメリカ軍はヌシの戦闘力に脅威した。そして作戦の一部を変更することとなる。それが奇しくも、日本軍の延命処置に貢献したのだから皮肉だ。

 


 B29の大量損失により、無差別空襲はしばらく息をひそめるが、アメリカはまだ転ばない。戦略行動の急停止も出来ない。


 12日後に硫黄島陥落。

 これにより航空機によるB29発進基地への爆撃は不可能となる。日本はB29の基地を攻撃する手段を喪失し、アメリカ軍がB29の機体を補充する作業を邪魔する者がいなくなった。


 アメリカは持てる工業力の全てを費やし(半分は軍の意地。残り半分は政治家の意地)B29を増産する。

 いよいよ、戦略爆撃機大編隊による攻撃を防ぐ手が無くなった日本軍は、これより急角度で凋落を始めることとなる。


 だが、歴史も変革の方向へ動いた。

 ミウラの仕置きに日本軍の一部が変な方向へ暴走。暴走する者もいれば、暴走を良い意味で利用する者もいた。


 アメリカ軍の沖縄侵攻計画に遅れが生じる。それと日本軍部内の争乱を隙とみた一部の軍司令塔は、菊水作戦改を早めてしまった。


 敵上陸前にやっちめぇ! ということで、大和を旗艦とする菊水艦隊設立&出撃。

 ありったけの機動部隊を集め(残っていた大小全空母を投入。航空機は戦闘艦の護衛に特化)、どうゆう奇跡か陸軍歩兵をすし詰めにした大和が沖縄に突貫!

 狂った日本軍指導部はこの一戦に全てを賭けた。


 どうやら早期実行が功を成した。航空機や潜水艦による被害もあったし、航空機戦力に甚大な被害も発生したが、多くの艦艇が沖縄海域に辿り着く。

 大和は沖縄港の北、現在のキャンプキンザー近くの海岸付近で座礁した。


 魚雷を7発喰らったのだが、当たり所が良かったのか、ここまで保った。だが、ここまでだった。

 陸上砲台っぽいのになってしまった大和を含む日本陸上軍は、これよりアメリカとの5ヶ月以上に及ぶ長くて辛い戦いに入る。軍属の戦死者は10万人を超えたが、民間人の被害が微少で済んだことが不幸中の幸いであった。


 最終的に沖縄戦は日本軍の降伏で終わったのだが、戦いに負けたから降伏したのではない。終戦になったから降伏したのだ。


 因みに、今世界でキャンプキンザー相当のアメリカ軍基地が後に作られることになるが、それは大和の残骸(日本は遺跡と呼ぶ)を中心に設営されたのであった。


 話は戻る。沖縄で大会戦が行われている最中。爆撃機の補充を「何とか」したアメリカは、無差別攻撃を再開。

 呉、神戸、大阪を始め、史実に近い何十という各都市が被害に遭った。


 ニホン人はB29に対し、悲惨な戦争の象徴として、生命を刈り取る悪魔の代理人として、その恐怖を魂にまで刻むこととなった。戦後何十年と経っても、いや、当事者は死ぬまでその恐怖が消えることが無かったという。


 して、後半のいつか。名古屋大空襲。

 名古屋と言えば魔神オワリ。


 深夜にB29の大編隊がやってくる。大編隊の中で開く、赤くて巨大な傘。不思議な傘に触れた機体は片っ端から炎上。焼夷弾を抱えたまま墜落。

 市街や兵器工場は大炎上。作戦は予想通りの成果を上げる。ただし、生きて帰れた機体は、またもや1機だけだった。


 B29の残機0(正確には0じゃない。航空基地内作戦可能機が0だということだ)。

 そして、東京大空襲、ならびに名古屋大空襲で生き残りが共に1機。共にヌシが関与している。奇妙な符丁。


 アメリカ軍はここに何らかの意思を感じる。それはヌシの下位生命であるヒトの生存本能が警報を鳴らしたのかも知れない。


 ここでアメリカ軍は、大胆な一手を打ってきた。


 戦艦郡によるイズ半島砲撃である。

 

 

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