あれから……
蛇足編です。
完全に蛇足です。
彼らには自由に動いてもらいました。
設定のつじつまが合わないかも?です。
ミウラが仕込み、家康が作り、信康が固めた平和な時代は、数百年の後、終焉を迎えた。後の歴史家は、まれに見る平和な終焉だったと言っている。
それまで、日本は欧羅巴諸国と円満に貿易を続け、互いに利益を得ていた。
英国が印度を足がかりに明の国を攻めた際、日本と幾ばくかの戦いがあったのだが、状況に大きな変化はなかった。来る将来への怪しげな種にはなったが。
そして、産業革命と超大陸国家米国の誕生。
燻る欧州情勢。米国と露西亜の覇権主義。
世界史は、イオタやミウラの前々世である地球の歴史を大筋でなぞっていく。それはミウラの関与にかかわらず、大きな歯車のように動いていく。欧州まで手が出せないからね。
そんな中で、日本はヌシという超生物が存在し、あまつさえ闊歩するという当時の生物学者と神学者がタッグを組んでフザケルナと、ロープの反動を利用してWドロップキックを打ち込むような国と理解されていた。理解だけされたが受け入れられてはいない。己が信奉する神を否定するヌシの存在は、彼らの理性が拒否した。
何ともなれば、ヌシの存在はおとぎ話であり、目で見た者は自分の目を信じぬようになり、宗教的理由などから、存在しないものとして扱われたのであった。実際いるのにね。
話はもといして――
欧州並びに米国等列強のナニなナニに対処するため、日本は政治体制・支配体勢の舵を大きく切った。
多少のもめ事はあったが、おおむね穏やかにミカドを中心とする立憲君主主義へと移行。これは後の民主主義を見据えたワンポイントリリーフと位置づけた処置である。
国内体制を一新し、世界基準を大きく取り入れた国際政治形態へと変化したが、列強のナニはそれをナニしてしまった。
イオタさんらヌシ連中は、政治はもとより海外事情を全くと言っていいほど知る手段がなく、だいたいで過ごしていた。正直、油断していた。
そして聞こえてきたのが、どうやら日本は、多少のもめ事があったにせよ、おおむね穏やかに大陸へと進出したらしいこと。
たぶん、それが原因で露西亜と一戦やらかし、短期間で勝ってしまったらしいとのこと。前世と違い、歩兵の突撃戦法は取らず、代わりに重火器を集中運用したのが良かったらしい。
また、この時代にしてはずいぶん進んだ武器、機動兵器(戦車ね)を所持していた点が勝利の鍵だった。
この大金星でイキった軍部が、議会のコントロールから外れようと画策したこと。これが成功したこと。兵器技術の先進性にあぐらをかいたこと。さすがサムライの血を引くニホン人であると、イオタ達があきれ果てたこと。
やがて、ミウラが最も恐れた第二次世界大戦の気配が濃厚になる。
歴史通り、軍艦保有数削減、そして米国より無理筋の要求が入る。さらに、悪いことに日本帝国陸海両軍部がブイブイいってる。関東軍が一国の城持ちと勘違いしている。
ここで口を挟まなければ日本が壊滅する。さすがにそれはアレだ。
そのことに気を揉んだヌシ達の会合で、こっそりと人間社会へ介入する評決を取った。
で、誰が誰に接触するんだ? と言うところで、密かに公家衆とパイプを築いていた事が徒となり、ミウラ・イオタ組に白羽の矢がブッ刺さった。
まあ……、適材適所ではある……。
早速、公家衆を通して秘密裏にミウラの代理として、ヌシ全権大使として、重責をもって政府要人と接触するイオタさん。緊張の余り四六時中尻尾がパンパンだったという。
場所は秘密のどこか。
会議に参加する人員は、総理大臣を筆頭に、外務、官房、大蔵、厚生、その他有力議員に有力公家に某親王。そして、穏健派の陸海将官。さらに徳川家の末裔まで集まった。
ヌシ側はイオタさん1人。勤まるのかというご心配はありません。常にミウラと念話が繋がったままです。秘技、ネコマリオネット状態!
「米国と会戦するのであらば、日本一国だけでは力不足にござる。人口は三倍、国土は二十五倍。石炭も石油も鉄鉱石産出する国土。
もう少し詳しく述べよう。アメリカの国民総生産は日本の10倍から20倍。石油生産量はなんと700倍にござる。長期戦に持ち込まれたら敗戦は必至。いや、米国としては如何様な手段を用いようとも長期戦へ持ち込むはず。
さらに――
かの国は自動車が発達しておるので、多くの成人が運転できる。これすなわち短時間で戦車の運転が可能となること。
また、民間の飛行機も数多く、ベテランパイロット予備軍が多い。そして取っつきやすく、教練が簡単。
それだけエンジンや機体に関わる者の頭数も多い。軍の訓練をすることなく後方整備士予備軍が多数にござる。
技術者も単純計算で日本の3倍。開発力、開発速度も3倍にござる。
工場の数は日本の何十倍にござるかな? 労働者の数は単純計算で日本の3倍にござる。これに婦女子が加われば、5倍は軽い。
当初こそ日本が数の上で優れておったが、見る間に追い越されてしもうた。
さて、これをふまえて、皆の衆による忌憚なき意見をお聞きしたい。こんな相手にどうやって戦うのか?」
ミウラの十八番戦術、情・報・過・多!
ミウラが家康公に近代化政策を仕込んだ。最初は世界をリードしていたが、あっという間に追いつかれ追い越された。先端技術の上にあぐらをかいた日本帝國政府と商売人が目先の儲けに釣られ、海外へ技術と工場を移転させたのだ。それが大きなしっぺとなって帰ってきた。イマココ。
「先ずは軍部の方! 海軍!」
イオタに指名された海の将官はぴくりと体を震わせた。先制攻撃が決まった模様。
「えー、えー、我が国は戦艦の数こそ絞られましたが、世界最強の空母機動艦隊を保有しております――」
「米国は4年あれば24隻の正規空母を就役させる工業力を持っている。6カ所以上の大型艦用造船所があるようにござるな。すでに生産にかかっておるようだ。二年以内に一隻目が就航するそうな。
そうなると続々と正規空母が誕生する。日割り計算で一月一隻。月刊空母にござるな。排水量が少ない艦隊護衛用空母に至っては週刊誌の刊行速度、とはいかぬまでも隔週誌空母にござるかな。これらはご存じか?
ちなみに日本では正規空母を造れる大型造船所はいくつあるのでござろうか?
そうそう、超弩級戦艦をこっそり三隻予定しておるようにござるな?
あと、超超弩級も何隻か計画の段階でござったな。それは個人的に楽しみにござる。就航式には是非呼んでいただきたい。祝辞の一つでも述べよう」
「……えーっと」
聞いたこと無い話だ。
だが、ヌシの力を甘く見てはいけない。これは事実、もしくは事実に近いのだと海軍将官は認識し、冷や汗を流した。
見かねた陸軍将官が立ち上がり、海さんの代わりに答えようとした。
それより先にイオタが口を開く
「大陸の関東軍な。なかなか立派な態度の『サムライ』にござる。勝手に爆破したりクーデターしたりしても大した罪には問われぬそうな。羨ましい限りにござる。何所の所属にござったかな?
その方と拙者、ここで会ったも何かの縁。どれ、拙者が皆殺しにしてきてしんぜよう。なに、心配いたすな。足は自分で確保する。懇意にしているヌシに空を飛ぶのがいてな。ひとっ飛びにござるよ」
「あ、いや、その……」
この将校、関東軍には煮え湯を飲まされた立場の者だった。
イオタにそこを突かれると辛い。まして、ヌシはサムライを見ると殺しにかかる性質を持っているとの認識だ。イオタだけならともかく、オワリやミウラ、エチゴやムツのヌシが出てきたら日本は壊滅する。そして、あの方々なら喜んでやりかねん。
軍を黙らせたイオタ(ミウラ)は政治家を次のターゲットに定めた。
「さて、政治の方は如何かな? 戦になれば欧州を敵に回すことは必然。連中、有色人種対白人種の戦いに持って行こうとするぞ。
ならば、戦いに勝ったとしても、未来社会において米国と欧羅巴各国を潜在的な敵と見なさねばならない。
かの者達を甘く見てはいけないのでござる。一発ガツンと殴ったくらいで未来永劫凹んでおるような柔な人種にござらぬ。その恨みと反感は何世代にも渡って続き、日本の油断を見計らって難癖付け、戦に持ち込もうとする卑怯さがあやつらにござる。
ちなみに、連中、規則は守る物ではなく、作る物じゃと思うておるぞ。
これは歴史の書を紐解けば子供にも解ること。ちなみに、ここで言う戦は、武器を持った殴り合いだけとは限らぬぞ。経済や文化、民間人による侵略戦争も考えねばならぬ。例えば、金で広大な土地や、戦略上有効な無人島などを買い上げられたりしたら、なんとする?
この先未来永劫、日本は軍備、経済、文化、貿易、人の流れ、土地売買等々多、方面多次元による向上を目指し続けねばならぬ。
その為に、どれだけ税を上げればよいのでござるかな? 九公一民で済むか、人ごとながら心配にござる」
ここまでブチ殴ったら、後は和平交渉に向けた流れを作るだけ。
途中何度か強硬意見も出てくるが、そこはミウラの指示で、丁寧に一つずつ論破していく。
「さて、机上の理論にござろうが、太平洋戦争のゲームを致そうか」
ヌシの権限を持ち出し、強引にシミュレーションゲームを持ち込んでいた。かなり簡素化したゲームであるが、なかなか急所は突けている。ミウラ渾身の作品である。
長い長い時間をかけ、太平洋戦争をシミュレーションした。
結果は日本の敗戦。3年と250日で日本敗戦。
「何度も遊ぶが良かろう。これは軍部に託すでござるよ」
そして幾つかの問題点を挙げ、当然のように出てきた反論を叩きつぶし、会議は終わった。
後は人の手に委ねる事にした。じっくり考える様にと。
戦争に関するシミュレーションシステムは軍部にもある。そこにイオタがもたらしたデーターと軍情報部が持つデーターを総合し、複数の角度から産出した最新のデーターを用い、シミュレーションした。何度も何度も。
だが、結果は変わらず。何度やっても4年から5年の間に日本は敗北する。
この結果を基に、再びメンバーが秘密裏に集まった。今回はイオタ抜きの会議だ。
長い長い会議が終了。
結果――
三国連合を結んではいけない。
中国大陸より段階的に撤退する。
過去に渡って交友関係を続けてきた英国、葡萄牙、阿蘭陀と変わらず手を結び続け(この世界では、割と友好関係にあった)、友好関係を続ける。
なんとしても米国大統領と直接会談を行い、調整とすりあわせを行い、2国間戦争を防ぐ。会談は何度も継続して行い、時間をかけ徹底的に話し合う。
という方針が決まった。
(この世界で日本は、いわゆる南方諸国と環太平洋自由貿易協定を締結していた)
当然の如く(理解不可能だが)軍部がこれに反対。陸海共、こういう時だけ仲良く反対。そして頑迷なる抵抗と妨害と物理攻撃。
政治重鎮衆が文字道り生命を賭けて軍部の説得にあたり(原因不明の死亡が1人)、時間を稼ぐ中、総理大臣が米国大統領と会談を持とういう話にまでこぎ着けることができた。
場所は米国領アラスカ州のとある秘密の場所。
時の総理大臣は激務の間を縫って、こっそりと船に乗る。その段取りも付いた。総理大臣とベテラン交渉スタッフを乗せた列車が出発。スケジュールは完璧。秘密保持も鉄壁。軍部を出し抜いたのだ。
第二次世界大戦における太平洋戦争は回避されることが決定された。内閣府が正式に採用した。
こうまでしないと政治を回せない。まるで国内に表と裏、二つの政府があるかのごとし。
イオタとミウラは、イズ半島の隠れ家で一息ついていた。
ムサシのヌシを議長とした四大巨頭の報告会も終えた。
『いやー、どうにかなりましたね。戦争を回避させた転生キャラは、わたしが初じゃないですかね?』
「何を言っとるのか半分しか判らんが、兎に角平和への第一歩を歩み出したと言うことにござる。オワリのヌシもことのほか喜んでおられた。もうこっち見ないでほしいでござる」
虎サイズに縮んだミウラのお腹をモフモフしながら体を預けるイオタ。ここ数百年、ミウラのお腹の柔らかい毛は、イオタのソファとなっていた。それは望むところ!
『これより日本は正史にない道を歩みます。日本人としての尊厳、発達した経済、戦争と無縁の緩い世界。さて、どんな未来が待っているのでしょうか? ワクワクが止まりません!』
「だがミウラよ、そうなると空飛ぶ大戦艦が造られぬのではないか?」
全長333m、超光速エンジンを積んだ宇宙戦艦のことだ!
『まあ、大丈夫でしょう。ずっと未来の話ですし。この世界では、大和と武蔵と信濃の3隻が就航済みですから、どれか一つくらいはマゼラン星雲へ向かうんじゃないですか?』
盛大に目が泳ぐミウラである。
「そうか、楽しみにござるな!」
平和な世界の訪れを楽しみにしているイオタとミウラ。
だが、軍部の組織力、情報収集能力を甘く見ていた。
港へ向かう総理大臣を乗せた列車が爆破され、総理大臣死亡の一報が入ってきたのであった。




