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2.『説得』のおおまかなあらすじ

 準男爵の娘、アンは27歳。

 イケメン自慢の頭からっぽの父・同じく美人だけど気位高すぎてヤバい姉エリザベス(29歳未婚)と一緒に、ケリンチ屋敷と呼ばれる先祖代々の豪邸で暮らしています。

 例によって、限定相続なので、準男爵位と屋敷はほとんど交流のないアンの従兄弟のウォルターが継ぐことになっています。

 今作のヒロインであるアンは、優しくて教養もあって、実際的なところもあって本当に良いお嬢さんなのですが、「数年前まではとても美しい娘だったが、その花の盛りもすでに過ぎてしまった」(ちくま文庫版・12頁)とか地の文で書かれたりしています。

 ほんとオースティン(というか当時の社会)、容赦ないですからね……


 ですが、アンは昔、恋をしたことがありました。

 お相手は、海軍軍人ウェントワース(当時23歳)。

 アンが19歳の時に知り合って、あっという間に恋に落ちてプロポーズを受けたものの、美形パパ&美人の姉は超塩対応。

 その上、母親代わりの亡母の親友ラッセル夫人に、家柄もなく(ウェントワースの兄は牧師で姉は海軍軍人の妻)お金もない相手に嫁いでどうすんのよと諭されて、結局諦めてしまったのです。

 ウェントワースは納得せず、傷ついたまま立ち去ります。

 1806年のことでした。

 オースティンの作品ではっきり年が書いてあるのに初めてでくわした気がするんですが、これ、トラファルガー海戦の翌年なんですよね。

 イギリスの亡国の危機を救う大勝利があった後なので、海軍士官がめっちゃもてはやされてた時期のはず。

 それでもあかんかったということで、わざわざ書いてあるのかなと思います。


 ここでちょっと海軍軍人に関する注釈を。

 この時代、海軍士官は拿捕した敵船の略奪をすることが許されておりました。

 ということは、出世すると軍人としての給与とは別に、敵の船を奪えば奪うほど臨時収入でめっちゃ儲かるので、一財産築くことができたのです。

 今の感覚で言うたら、公営の海賊みたいなものやんけという気もしますし、19世紀に入ってもそんなことやってたのかってびっくりですが。

 ということで、教養はあれどそれに見合うお金がない、冒険心に富む男性には、海軍入りはわりとアリ寄りのアリの選択だった模様。


 たとえば、トラファルガー海戦でイギリスを大勝利に導いたネルソン提督は、牧師の息子で、父が病気で家計が逼迫していたことから12歳で海軍入り(いくらなんでも早すぎない!?)。

 ナイル海戦勝利で、まず初代ネルソン男爵として叙爵。

 大激戦となったコペンハーゲン海戦を副司令官として戦って勝利し、子爵位ゲット。

 1805年のトラファルガー海戦ではスペイン・フランス艦隊に大勝利するも戦死……となりましたが、葬儀は君主以外では初となる国葬、セント・ポール大聖堂に葬られました。

 生きていれば伯爵位は当確、なんならもっと上もあるで!?という勢いです。

 引き分けとか、敗走させたとかではダメで、相手に大ダメージ与えて制海権キープしないと、フランス軍35万人が上陸してきてマジでやばいという時に、33艦対41艦の劣勢をひっくり返したわけですからね。

 日本で言うたら、ロシアのバルチック艦隊を撃破し、日露戦争を勝利に導いた東郷平八郎(薩摩藩士出身・死の直前に与えられた最終爵位は侯爵・国葬・東郷神社も没後建立)。

 2列になって、敵戦艦列の真ん中に横から突っ込こみ、敵を分断して殲滅する「ネルソンタッチ」と、敵にあえて船腹を見せながら全力で集中砲火を浴びせて先頭艦から倒す「丁字戦法(東郷ターン)」、東郷がスペイン・フランス艦隊指揮官に転生してネルソンと戦い、ネルソンがバルチック艦隊指揮官に転生して東郷と戦ったらどういう結果になるんやろとかいらんことが気になりますが、海軍で出世&大活躍したら、爵位もワンチャンあるのです。

 ちなみにオースティンの兄と弟は海軍に進み、兄は海軍大将、弟も海軍少将まで昇進してるので、このへんの事情や士官の家族の生活ぶりとか、詳しかったのではないかと思います。

 弟のチャールズ・オースティンはWikipediaで日本語の項目もあるので、ぜひご参照ください。

 

 だから、ウェントワースも、今は自分には地位もお金もないけれど、艦長になればお金が入るし、出世すれば十分な暮らしをさせられるから!とアンに主張したのですが(実際、再会した時には2万5000ポンドの資産持ち。ちゃんと運用すれば、地主階級としてそこそこ派手にやっていける額です)、ラッセル夫人にリスクが高すぎると優しく諭され、アン自身に独立した財産がないこともあって泣く泣く諦めたのです……

 実際、クロフト夫人が、夫の転勤に伴って、アイルランドとかポルトガルとか比較的近場の外国だけでなく、大西洋を4度渡り、東洋にも一度行ったと話す場面があり(しかも移動は客船じゃなくて軍艦)、大人しいとみられていた19歳のアンが、海軍士官の妻が務まるかどうかと言われたら、どうじゃろねー……もうちょっと良い縁があるんちゃう??としか。

 アンは、実は修羅場にも強くて、中盤でとある事故が起きて、ウェントワース含めてみんなパニックになってる中、てきぱきと対応を仕切るなど大活躍するところもあるんですが、『高慢と偏見』のエリザベスのような勝ち気な性格ではないですからね……

 ネルソンだって常勝だったわけじゃなくて、ちょいちょい負けては負傷して、結局隻眼隻腕になってます。

 結婚してすぐウェントワースが戦死とか普通にありえるですもん。

 そうなったら、アンの人生は詰んでしまうしかなのです。


 その後、22歳の時に地元の地主マスグローヴ家の長男チャールズに求愛されましたが、アン一人の判断で却下。

 チャールズはアンの妹のメアリと結婚しました。

 といってもドロドロした感じはなくて、チャールズ視点、地元で自分の結婚相手になりそうなのは、アンかメアリだけ。

 なのでアンから声をかけて、あかんかったからメアリに行ったという感じです。

 ちなみにメアリは、そのことを知らない模様。

 メアリは、なにかにつけて自分は不当に扱われていると言い立てるマジめんどくさい人なんですが(母は幼い頃に亡くなり、父と長姉に塩対応され続けて育ってますからわからんでもない)、チャールズはあんまり振り回されすぎないタイプなので、まあまあ巧いこといなしつつ、楽しくやっているという感じです。


 ところでエリオット家、実はピンチなのです。

 見栄っ張りのパパ&長女がバカスカお金を使うせいで、このまま行けば破産やぞ?ということになり、弁護士・ラッセル夫人・アンが財政再建計画を立て、結局屋敷を人に貸し、馬なども手放してパパと姉は温泉保養地のバースに行くことに。


 ついでに言うと、作者のオースティンも父の引退後、一家ごとバースに移ったことがあるそうです。

 わりとこの作品、実体験をベースにしている感じですね。


 とりま、バースで、準男爵位に見合った物件を借りても、屋敷を賃貸に出せば差し引きで黒字になり、数年頑張れば溜まった借金返せそうという話になります。

 要は屋敷の維持コストが、根本的に家計を圧迫してるってことなんでしょうか。


 準男爵家の有能弁護士が色々取り計らった結果、屋敷を借りたいデースと手を上げたのは、クロフト提督夫妻。

 アンは、クロフト夫人はウェントワースの姉やんけ!?と気づいて超びっくりしますが、他にふさわしい希望者もおらず、流れるようにクロフト提督夫妻に決定してしまいます。

 クロフト夫人とアンは会ったことがないので、婚約が流れた話はたぶん知らんやろなと思いつつ、ウェントワースが姉のところに来たりしたら、もしかして再会するの!?とあうあうしつつ、なんだかんだあって、アンは妹のメアリの家でしばらく暮らして、その後はラッセル夫人のところに行き、夫人は毎年バースで冬を過ごすので一緒にバースに行って、パパと姉と合流しようということになりました。


 で。マスグローヴ家の屋敷の近くの農家を改築したコテージに住んでいるメアリのところに移ったら、案の定やってきましたウェントワース大佐31歳!

 もう自分には無関心なんやろなと思いつつ顔をあわせ、後でウェントワースが他の人に「あの人(アン)はすっかり変わってしまって、つい気がつきませんでした」と言っていたと又聞きでメアリに聞いてしまって、めちゃくちゃ傷つきますが、なるべく空気に徹して接します。

 そうこうするうちに、ウェントワースはマスグローヴ家の人々とめっちゃ仲良くなり、特にチャールズの妹のヘンリエッタとルイーザはウェントワースにもう夢中。

 ウェントワースが、海辺の町ライムで療養中の同僚を訪問するのに合わせて、みんなでおでかけしたり。

 特に活発なルイーザと気が合うようで、このままルイーザと結婚するんじゃろうか、ルイーザは良い子だけど、ほんまにウェントワースと合うんかしら……とやきもきしているうちに、事故が起きたりしつつ、アンは予定通りバースへ行くことに。


 バースでは、ライムで一度すれ違っていた従兄弟のウォルターに再会。

 ウォルターは昔、準男爵に、エリザベスと結婚せんか?と水を向けられたのだけれど、マジ勘弁とばかりにばっくれ、身分は低いけれど金持ちの女性と結婚し(この書き方は相手は商売人の娘っぽい)大金持ちになりました。

 妻とは既に死別しており、年を取った分、名誉も大事やなと思うようになったのか、エリオット家と積極的に交際を求めます。

 イケメン、金持ち、教養アリと三拍子揃った紳士で、ライムでも「お!美人やんけ!」とばかりにアンに強めな視線を投げてきていたこともあり(この時、アンが「自分もまだイケるやん!」てちょっと浮かれるところかわいい)、アンにじわじわアプローチをかけてきます。


 というか、マスグローヴ家で暮らすうちに、アンの美人度が上がっていってるんですよね。

 ウェントワースに再会したこともあるでしょうけれど、父親と長姉は事あるごとにアンをないがしろにしがちなに対し、チャールズの母を筆頭に、マスグローヴ家の人たちはアンを親戚として歓迎していて、大事にしてくれるのも効いているのかなと思いました。


 ここはウォルターとくっついちゃうの?という流れになりつつ、ウェントワースもいきなりバースにやってきて、もだもだが大発生!

 音楽好きなウェントワースなら来るやろなあ思いながら演奏会に行ったら、無事ウェントワースがいてちょっと話が出来るんだけど、ウォルターが寄ってくるし、ウェントワースはウォルターを気にしているし、ウォルター邪魔なんだけど!でも人前でそんなんよう言われんし!となるあたりとか王道やね……王道やね……となります。


 最終的に、ウェントワースがアンに渾身の愛の告白をキメ、ハピエンとなります。

 この告白、そしてその直後の流れ、めっちゃいいですね!

 〆には海軍士官の妻たるもの、全力で幸福な家庭生活を築いても、戦争が起きたらどうしよういう心配は常にあるけどね的なことが言われていて、実際に作者の兄弟が海軍士官だったんだから、相当心労もあっただろうけど、なにもここで言わんでも感は若干ありましたが、まずはめでたしめでたし!


 というわけで、次節は異世界恋愛書きから見た『説得』のオススメポイントをまとめてみたいと思います。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あー、そうでした! こういうお話でしたねー。 ルイーズの事故で、ウェントワース、トラップにハマったかと思ったときは焦りましたよねー。 [気になる点] そうなんですよねー。若くて可愛いだけ…
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