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3 術技創造(スキルクリエイト)

 作り方についての説明が特に書かれていないため、取りあえず効果を考えながら念じてみる。



「アイテムボックス、アイテムボックス……、っ! ダメだ、弾かれた?」



 魔力の使い方など分からないため、スキル出でよ~! と念じてみること数秒。

 何となく集まり始めていた胸の熱が霧散するような感覚を覚えると同時に、目の前にステータス画面と同様の半透明のウィンドウが現れ、【既存スキルは創造できません】と表示された。まるで、PCでエラー画面が出た時のようだなと思う。


 どうやらアイテムボックスは既存らしい。


 残念、と肩を落とすイズミ。

 しかし、ここが天国にしろ異世界にしろ、快適な手ぶらで移動の夢は捨てきれない。差異があれば類似スキルは作れるというのだから、諦めずに挑戦してみることにした。


 生前は持病のせいで眠くなくても横になっていることが多かったイズミだ。気を紛らわせるため数々の妄想を膨らませてきただけに、想像力には自信がある。微妙に違う類似スキルを作ることなど造作もない。


 あれでもない、これでもないと試行錯誤すること暫し。



「やった、出来た! 初めての創造&スキルゲット!」



 再び出現したウィンドウに【スキル、影収納シャドーストレージを創造、習得しました】と表示され、ステータス画面のスキル一覧にもしっかりと影収納の文字が追加された。


 初めての術技創造を終え、その満足感に思わず笑みを零す。


 アイテムボックスの代案として作った影収納は、自分の影に荷物を収納できる、というスキルだ。

 収納できる量は自分の体重と同量で、残念ながら内部の時間は外と同じく進む仕様となっている。また、少しでも影がなければ出し入れできないし、使える影も自分のもの限定なので既存のアイテムボックスよりだいぶ使い勝手は悪い。


 しかし、これで手ぶらで移動できるのだから十分な成果と言えるだろう。


 使ってみて解ったが、術技創造には既存スキルが作れない点以外にも、恐らくレベル制限によって現状かなりの縛りがある。そのため、アイテムボックスと同等の性能のスキルは作れなかった。

現在、術技創造のレベルは一だ。

 レベルが上がれば今後作れるスキルも増えるだろう。


 使用魔力に関しては微々たるもので、スキルを作ったにも関わらず100程度しか消費されなかった。もちろん、他のステータス数値からするとかなりの量が消費されていることになるのだが、なんせ魔力だけ万単位であるため、うわ低コスト、くらいの感想だった。


 さっそくスキルを使ってみようと、何か入れるものを探す。

 辺りを見回せば直ぐ近くに自分のリュックが落ちていたことに気づき、手を伸ばした。中身は大学へ行った時のままらしく、貴重品がなくなっていたりはしないようでホッとした。


 念のためスマホが繋がるか画面を開いてみるも、電波などあるはずもなく、右上には×マークが表示されている。最後のやり取りはメッセージアプリでの弟との会話で、既読にはなっているものの、返事は永遠に届きそうになかった。


 一つ溜息を零してスマホをポケットにしまう。

 死んだものだとばかり思っていたため荷物など気にもかけなかったが、はたして天国に荷物を持ってくることは出来るのか。スライムといい、ステータスやスキルといい、いっそのことここは異世界だと認めた方が辻褄は合いそうだなとイズミは思い始める。


 とはいえ、異世界と判断するには圧倒的に情報が足りない。ファンタジー種族の代表であるエルフでもいれば問答無用で信じるのだが……。



「とりあえず、このリュックを影に……わっ、本当に入った。で、取り出す場合は影に向かって出したいものを念じると……うわ、ぬるっと出てきた……」



 スキルの効果が問題なく発揮され、イズミの意思によってリュックが影に沈んだり、浮かんできたりする摩訶不思議な光景が繰り広げられる。

 VRゲームでもアイテムの出し入れは似たようなもの(選択したアイテムがパッと目の前に現れる仕様)で慣れているはずなのに、天国? で出来ると流石に驚く。最近の天国はこんなに便利なのだろうか。


 それとも本当に異世界なのか――。


 本当にスキルが作れることに気を良くしたイズミは、続けてスキルを作ることにする。

 定番どころで言えば回復スキルは必須だし、鑑定スキルも欲しい。地図や転移なども作れれば、天国? 異世界? でも怖いものなしだろう。作ってみたいスキルならたくさんある。


 元々は兄達に勧められ時間を潰すために始めたVRゲームだったが、人生の大半をゲームに注いできたイズミは今やすっかりゲームオタクだ。オタク魂に火がつき、ここが見知らぬ森の中だということも忘れてスキル作りに没頭した。




 あれこれ考えながらの作業であるため、一時間半ほどかけて十個のスキルを創造。すると術技創造のレベルが一つ上がり、追加効果として【スキル削除】を覚えた。


 お、これは案外便利そう? と思いきや、消せるのはイズミが作ったスキル限定な上、消したら二度と同じスキルは作れないというオマケつきだった。

 一応考えて作っているし、そもそも現時点では存在したらマズいようなスキルは作れない。スキルを消したくなる場面などそうそうこないだろう。

 スキル削除に関してはハズレだなと思いつつ、イズミはステータス内のスキル一覧を眺めながら腕を組み唸る。


 この短時間で十個のスキルを創造し、スキルレベルが上がったことで追加効果を得られると確認できたことは良い収穫だった。


 しかし、作れたスキル自体が問題だ。


 先ほどスライムに溶かされかけたこともあって、二つ目のスキルはがぜん回復系! と意気込み創造してみたところ、当然というべきか、回復スキル自体は既存だった。そのため、一度にある程度のケガが治るスキルではなく、一定の間隔ごとに少しずつケガが治る継続回復リジェネという、いまいち使い勝手のよろしくないスキルを作るに留まった。


 影収納も継続回復も、完全に既存スキルの下位互換と言っていい。スキルを作れるという謳い文句に浮かれて失念していたが、仮に天国? 異世界? の既存スキルがもの凄く充実していたら? イズミはこの先、下位互換スキルしか作れないことになる。


 術技創造チートでウハウハ! などと考えていたわけではないが、ことと次第によって術技創造は死にスキル――つまり、使いどころのないスキルである可能性が出てくる。既存スキルの一覧でも確認できれば、死にスキルにならないよう方向性を考えることはできるのだが……今はないものねだりだ。


 ちなみに、異世界ものでよくあるサポート的存在(色々助言してくれる人工知能的な)をスキル創造で再現しようと試みたところ、【解説書ガイドブック】というスキルが創造できた。解説書という名の通り、このスキルは魔力を本の形に具現化するもので、必要な時に出し入れができる。


 意思もなければ話すこともできないが、本を開けば知りたいことが書かれているという便利スキルだ。頭の中に自分以外の存在がいるという現象は、イズミとしては正直気持ちが悪そうだったので、このような形に落ち着いた。


 レベル制限らしきものがある中、よくこんなチートスキルが作れたなと自分でも驚いたイズミだったが、なんてことはない。単純にレベルが低い分、知り得る情報が極端に少なかった。


 この森の近くに街は? と考えつつ本を開けば、東に【ダンジョン都市】という最早ゲームとしか思えない名前の街が存在することが分かった。


 続いて、人口や人種、物価、治安、そもそもダンジョン都市とは? と色々な疑問を投げかけてみたものの、示された答えは恐らく小さな子どもが知り得る程度の知識。【人間や獣人などがたくさん、治安は普通】と書かれていたのだから、イズミは怒るどころか笑ってしまった。答えられない問題に関しては無視、および空白のページ、という返答の形だった。


 イズミは微妙に幸先が悪いなぁ、と思う。


 しかし、解説書のお陰で一つの、それも大きな疑問に光明が差した。

 それは、ここが本当に天国なのか、それとも異世界なのか、という問題である。


 解説書によれば、ダンジョン都市とやらには人間や獣人・・が暮らしているという。イズミが知らなかっただけで、天国にはスライム同様獣人もいるもの……なのかも知れない。が、魔物スライムに人間以外の種族、ダンジョン都市という名の街にスキルの存在と、その全てが異世界であることを主張しているように思う。


 イズミがここを天国だと思い込んだのは、当然、意識が戻る前の出来事が影響している。日中の道路へ倒れ込み意識を失えば、誰だって死んだと思うだろう。


 が、最大の理由は別にある。

 目覚めてからずっと、【体が軽かった】ことだ。


 物心がついた時にはいつも体が怠く、成長期に突入してからは悪化の一途を辿り、楽な日などそれこそ年に数えるほどしかなかった。持病が治らないと分かってからは、死んでこの肉体から解放されない限り、この地獄が続くのだと受け入れざるを得なかった。


 だから、ここで目覚めて体の軽さを感じた瞬間、自分は死んだのだと判断したのは当然だろう。魂だけの存在となれば肉体的苦痛から解放されて然るべきなのだから。


 そのため、ここは天国だと思い込んだのだが……。


 仮にここが天国ではないにしても、設定的にここがゲームの中だと思えなくはない。が、視覚、聴覚、触覚、それらの感覚がVRゲームの域を遥かに超えている。残念ながら、現代のVRにここまでの再現度はなかった。

 その結果、スキルの情報と合わせてここは異世界と考えるのが妥当だろうとイズミは判断した。いや、判断せざるを得なくなった。正直、突然の出来事で夢心地だが……。


 そう考え込んでいたイズミのもとに再び、ガサガサと草木の揺れる音が届く。ハッとして音の鳴る方へ顔を向ければ、そこにいたのは。



「またスライムなの!? って、森なんだから次々に出て来てもおかしくないか! 逃げないと……!」



 水色のぷるぷるボディ、再び。


 リュックは影収納に入れたまま、慌てて立ち上がる。せめて東がどちらかだけでも確認してから移動したかったが、あまりにのんびりしすぎた。とにかくスライムを倒したくない一心で、その場から逃げ出そうとしたイズミだったが。



『待って、ニンゲンさん!』

「……えっ? だ、誰?」



 ここで初めて聞く他者の声に足を止め、辺りを見回す。

 しかし、当然辺りに人の気配はない。あればとっくにそちらへ向かっている。


 今この場に存在するのはイズミと、どこからともなく現れたスライム(第二陣)だけだ。そのスライムもよくよく見れば十数匹はいて、思わずイズミの頬が引きつった。

 その数に気圧され、ついジリジリと後ずさるが、スライム達は何故か一定の距離から近づいて来ることはない。まるでこちらを観察しているようだ。


 と、声の主を探して周囲を見回すイズミの困惑を察したのか、再び声がかけられた。子供のような高くて愛らしい声で、性別は分からない。



『ボクだよ! ここだよ!』

「??? ここってどこ……というか本当に誰?」



 まさかスライムは喋れないだろう。事実、先ほど倒してしまったスライムも、「ぷるぅ!」と謎の鳴き声しか上げていなかったし。

 声はどこからか聞こえてくるというよりも、頭の中に直接届くというか、イヤホンを着けて音楽を聴いている時のような感覚、とでもいうか。そのため発生源こそ分からないが、その不思議な声がイズミに向けられていることだけは分かった。



『ここだよ! ニンゲンさんの下だよ!』

「え、私の下って……まさか踏んでるってこと!? え、植物? 虫? 声が聴けるスキルとか作ってないよ?」

『チガうよ! ここだってばぁ!!』



 下と言われ思わず片足を上げて見るも、そこにあるのは草だけだ。もしかしたら虫でもいたのかと少しばかり焦ったが、踏んづけて大惨事、というわけではないようで安堵した。

 イズミの対応に焦れたのか、少しばかり怒ったような勢いのある声が届く。声の主を見つけなければ逃げることも適わないらしいので、仕方なく自分の足元をよく探る。


 前を見て、後ろを見て、次いで左右の確認と視線を移したところで、ふと、右側の景色のごく一部が歪んでいることに気づいた。より正しく言えば、まるで分厚いガラス越しに物を見た時のような違和感があるのだ。


 首を傾げつつよくよく観察してみる。

 するとイズミはようやくその正体に気づき、驚きの声を上げた。



「…………ああっ!? え、透明なスライム!?」

『そうだよ! ボクだよ! こんにちは、ニンゲンさん!』



 やっとイズミが見つけたからか、嬉しそうに弾んだ声が返ってきた。


 声の主らしいスライムは、その場でぽよぽよと飛び跳ね存在を主張しており、イズミはしゃがみ込んでそのスライムを観察する。

 体の大きさやパッと見の質感などは、少し離れた位置でこちらを眺めている水色のスライム達と変わらない。


 しかし、目の前のスライムは目を凝らして見なければ景色に溶け込みアッサリ見失ってしまうほど、無色透明の澄んだ体をしていた。つぶらな瞳もパッと見では、土? ゴミ? と間違えてしまうほどだ。


 明らかに他のスライム達とは異なる。

 ゲーム脳なイズミはレアな個体なのかも知れないと思った。


 それにしても、スライムが人間イズミに何の用だろうか。気になったイズミは単刀直入に尋ねることにした。


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