表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

画面越しの常識はずれ

#画面越しの常識はずれ


「んで?さっきの恋する乙女発言の元はなんなの?」

「!?ッブフッ」

「うわーきたなっ…」

「ゴホッ…うぇーごめん…って、お前が原因だよ!!?」

いきなり汚い感じになってしまったことを許して欲しい。

だってそりゃ、2時間前の独り言を蒸し返されたら誰だってこうなるだろう。

「んでー?乙女発言の真相は?」

「…別に、なんでもないよ」

「そう?その割に今日はやけにスマホ気にしてるけど。彼女でもできた?」

「べ、別にそんなんじゃないっ、ただ、仲良くなった店員さんと、その、連絡先交換してて…」

「はは~ん、さては片思いかぁ?しかもその感じだと相当ライバルがいると見た」

「だからああ!そんなんじゃないって!!!話が盛り上がっただけ!!

それに相手、男だし…」

「俺にとっては同性である時点で怪しいと見てるんだけど?」

「僕は違うって何回言えばいいんだよ…」

僕はあのあと、明とカラオケに来ていた。2時間ほど経って、酒も回ってきたところなのだが…。

僕が明と呼ぶコイツ、神田明は、大学で知り合った友人だ。

その、なんというか…話の内容から察してくれる人もいるかと思うが、こいつはいわゆる真性のゲイで、大学内の可愛い男を全員食うのが夢…らしい。

僕も最初はすごく付きまとわれていた…というか、毎日あの手この手で誘われていたのだが、最近は普通にこうして遊ぶ仲になっている。解せぬ。

「んー、ちなみに連絡先は自分からきいたわけ?」

「いや、向こうからだよ?もしよければ、って言ってくれた」

「あーそういうことね…はいはい」

「んー?なんだよそれ…」

明はいつも自己完結で終わらせてしまうからもどかしい。

「まあ、一言言わせてもらうと。いつまでも常識に囚われてんなよ。

ほら、次の曲入れんぞー」

「んー?まいっか。はいよー」


    *  *


そのあと、酒の勢いで+二時間歌い、凌さんからの連絡に気づいたのは帰宅後のことだった。

「あああ…やらかした…ごめんなさい凌さんんん…」

ああ、怒ってるかな、幻滅されたかな…うう…。

って、やっぱり恋する乙女じゃないかぁあ!

ふと、さっき明に言われたことを思い出す。

『いつまでも常識に囚われてんなよ』、か…

とりあえず、まずは確認しないと…

アプリを起動し、『秋葉凌』のトークを開く。


『こんばんは。今はお友達といっしょですかね。』21:34

『こうして連絡をとりあえて、とても嬉しいです。』21:35

『何時になっても大丈夫なので、お返事いただけたら、うれしいです』21:35


うわああ…ほんとにごめんなさい…

今は23:50。そろそろ明日になる時間だ。

「だ、大丈夫かな…でもこの場合既読つけて無視する方が失礼か…」

決心して、

『今帰ってきました!すみません><』

と打ち込む。すると数十秒で既読がつき、

『お疲れ様です。楽しめましたか?』と返事が来た。

よかった、まだ起きてた…!

文字を打つ手が震える。心なしか顔も熱くなってきた。

『はい、思いっきり歌ってきました(^_^;)』

『ふふ、カラオケでしたか。私も好きですよ、すっきりしますよね』

凌さん、カラオケ好きなんだ…。

『凌さんもカラオケとか行かれるんですね。

あんまりイメージ湧かないです』

『そうでしょうか。これでも結構得意な方ですよ、採点とか』

ふふ、と控えめな笑いが聞こえてくるようだ。

画面越しの、文字での会話なのにドキドキする、思わず顔が緩む。凌さんの新しい一面が見れているからだろうか。

いくつか会話を交わしていると、日付が変わったことを知らせるメッセージが入る。

『早いですね、もうこんな時間ですか』

『もう少し早く連絡できたら良かったんですけどね。ごめんなさい』

『いいんですよ。気にしないでください』

ああ、やっぱり表情が浮かぶ。あの笑顔が、頭に浮かんでくる。

『ありがとうございます。

そうだ、ずっと言おうと思ってたんですけど』

ここまで打ち込んで、一度送信する。

『?なんでしょうか』

大丈夫だ、当たり前のことだ。と言い聞かせ、続きを打ち込む。

『あの、凌さんは僕より年上ですよね。出会ったのがお店とは言え、お店ではないところでお話してるわけですし。それに年上の方に敬語で話されるのは少しもどかしいというか。なので、凌さんは敬語使わないで欲しいです。』

送信を押す手が震える。こらえて、送信っ。

すぐに既読がつく。が、返事はかなりゆっくりだ。どっち…?

一旦スマホを閉じる。すごく、不安になってきた…

馴れ馴れしかったかな。困らせてしまったかな。

そうして2分経った時、ピローン、と通知が来た。

ばっとスマホを持ち、急いで画面をだす。ああ、ロック解除めんどくさい!!

やっとの思いでトークを立ち上げると、

『もどかしい、ですか。分かりました、努力します。というか、お客様と店員というだけの関係は嫌だな、と私も思っていたところだったんです。同じこと考えてたってこと、だよね。嬉しい』

読みきった時、ぶわっと何かがあふれて視界が歪んだ。

なんで泣いてるんだろう、僕。嬉し泣きなんてほとんどしたことないのに。

こんなに、嬉しいと思ったのはいつぶりだろうか。妹が生まれた時くらいだろう。

「ずるいですよ、凌さん…」


このあと、少しずつ凌さんから敬語が抜けて、僕の敬語も軽めのモノになってきた。

『もうこんな時間だ。明日もお店だから、そろそろねるね。

楓は次いつ来れるかな。とは言っても、もうこうして話せるから、来る気があったらで、いいんだけど。』

『明日はちょっと、実家に帰らなくちゃいけなくて。いけそうにないんですけど、今週中には必ずまたコーヒー飲みに行きます』

『わかった、楽しみにしてるよ。おやすみ』

『おやすみなさい』

充電器につないだスマホを机におき、ベッドにダイブする。

いつでも連絡が取れる。その気になれば声も聞ける。次いつ会えるか、明確にわかる。

なんて幸せなんだろう、これは。

恋する乙女みたいなんではなくて、本当に恋しているようにすら感じる。

ないない、と首を振ってから、明に言われたことをつぶやいてみる。

「いつまでも常識に囚われてんなよ…か」

男に、男が、恋をする。これは常識的ではない。

「でも、常識的でないといけない理由は、ない」

凌さんに、恋をしている?



20XX.3.28

楓と連絡先を交換した。

連絡をいれて2時間、やっと返事が来た。顔文字付きで、慌てていたんだろう、とわかる文面だった。

話をしていると、楓の方から『敬語をやめてほしい』と言われた。嬉しいと思った。

ああ、なんて幸せなんだろう。

店でも話すときはタメで話してみよう。

そして、今日雅と楓が会ったようだ。

雅は、楓に惚れたらしい。帰ったあとに、名前を訪ねてきた。その時の耳が赤くなっていたのを見逃さなかった。

楓は特になんとも思っていないだろう。そう願いたい。


「絶対、俺のものにする。そう決めたんだ」

一人つぶやいた言葉は、静かな部屋に溶けて消えた。



またのご来店を、お待ちしております。


明くんが全然空気じゃありませんでした。ごめんね明くん…

早いものでもう3話です。自分のかいた小説の中で一番長く続いたのが確か9話なので(もっと文量は少なかった気がします)、ともかくそのくらいで1章を完結させたいですね。

ちなみに楓くんと凌さんが使っていたアプリは、もはや現代社会には欠かせないコミュニケーションツールとなったLI○Eです。便利よねあれ。

さてさて、今回はこのへんでお開きにします。

ちょっと本文も長くなってしまってすみませんでした。調節できるようになりたいです。

では、次回の更新でお会いできますよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ