画面越しの常識はずれ
#画面越しの常識はずれ
「んで?さっきの恋する乙女発言の元はなんなの?」
「!?ッブフッ」
「うわーきたなっ…」
「ゴホッ…うぇーごめん…って、お前が原因だよ!!?」
いきなり汚い感じになってしまったことを許して欲しい。
だってそりゃ、2時間前の独り言を蒸し返されたら誰だってこうなるだろう。
「んでー?乙女発言の真相は?」
「…別に、なんでもないよ」
「そう?その割に今日はやけにスマホ気にしてるけど。彼女でもできた?」
「べ、別にそんなんじゃないっ、ただ、仲良くなった店員さんと、その、連絡先交換してて…」
「はは~ん、さては片思いかぁ?しかもその感じだと相当ライバルがいると見た」
「だからああ!そんなんじゃないって!!!話が盛り上がっただけ!!
それに相手、男だし…」
「俺にとっては同性である時点で怪しいと見てるんだけど?」
「僕は違うって何回言えばいいんだよ…」
僕はあのあと、明とカラオケに来ていた。2時間ほど経って、酒も回ってきたところなのだが…。
僕が明と呼ぶコイツ、神田明は、大学で知り合った友人だ。
その、なんというか…話の内容から察してくれる人もいるかと思うが、こいつはいわゆる真性のゲイで、大学内の可愛い男を全員食うのが夢…らしい。
僕も最初はすごく付きまとわれていた…というか、毎日あの手この手で誘われていたのだが、最近は普通にこうして遊ぶ仲になっている。解せぬ。
「んー、ちなみに連絡先は自分からきいたわけ?」
「いや、向こうからだよ?もしよければ、って言ってくれた」
「あーそういうことね…はいはい」
「んー?なんだよそれ…」
明はいつも自己完結で終わらせてしまうからもどかしい。
「まあ、一言言わせてもらうと。いつまでも常識に囚われてんなよ。
ほら、次の曲入れんぞー」
「んー?まいっか。はいよー」
* *
そのあと、酒の勢いで+二時間歌い、凌さんからの連絡に気づいたのは帰宅後のことだった。
「あああ…やらかした…ごめんなさい凌さんんん…」
ああ、怒ってるかな、幻滅されたかな…うう…。
って、やっぱり恋する乙女じゃないかぁあ!
ふと、さっき明に言われたことを思い出す。
『いつまでも常識に囚われてんなよ』、か…
とりあえず、まずは確認しないと…
アプリを起動し、『秋葉凌』のトークを開く。
『こんばんは。今はお友達といっしょですかね。』21:34
『こうして連絡をとりあえて、とても嬉しいです。』21:35
『何時になっても大丈夫なので、お返事いただけたら、うれしいです』21:35
うわああ…ほんとにごめんなさい…
今は23:50。そろそろ明日になる時間だ。
「だ、大丈夫かな…でもこの場合既読つけて無視する方が失礼か…」
決心して、
『今帰ってきました!すみません><』
と打ち込む。すると数十秒で既読がつき、
『お疲れ様です。楽しめましたか?』と返事が来た。
よかった、まだ起きてた…!
文字を打つ手が震える。心なしか顔も熱くなってきた。
『はい、思いっきり歌ってきました(^_^;)』
『ふふ、カラオケでしたか。私も好きですよ、すっきりしますよね』
凌さん、カラオケ好きなんだ…。
『凌さんもカラオケとか行かれるんですね。
あんまりイメージ湧かないです』
『そうでしょうか。これでも結構得意な方ですよ、採点とか』
ふふ、と控えめな笑いが聞こえてくるようだ。
画面越しの、文字での会話なのにドキドキする、思わず顔が緩む。凌さんの新しい一面が見れているからだろうか。
いくつか会話を交わしていると、日付が変わったことを知らせるメッセージが入る。
『早いですね、もうこんな時間ですか』
『もう少し早く連絡できたら良かったんですけどね。ごめんなさい』
『いいんですよ。気にしないでください』
ああ、やっぱり表情が浮かぶ。あの笑顔が、頭に浮かんでくる。
『ありがとうございます。
そうだ、ずっと言おうと思ってたんですけど』
ここまで打ち込んで、一度送信する。
『?なんでしょうか』
大丈夫だ、当たり前のことだ。と言い聞かせ、続きを打ち込む。
『あの、凌さんは僕より年上ですよね。出会ったのがお店とは言え、お店ではないところでお話してるわけですし。それに年上の方に敬語で話されるのは少しもどかしいというか。なので、凌さんは敬語使わないで欲しいです。』
送信を押す手が震える。こらえて、送信っ。
すぐに既読がつく。が、返事はかなりゆっくりだ。どっち…?
一旦スマホを閉じる。すごく、不安になってきた…
馴れ馴れしかったかな。困らせてしまったかな。
そうして2分経った時、ピローン、と通知が来た。
ばっとスマホを持ち、急いで画面をだす。ああ、ロック解除めんどくさい!!
やっとの思いでトークを立ち上げると、
『もどかしい、ですか。分かりました、努力します。というか、お客様と店員というだけの関係は嫌だな、と私も思っていたところだったんです。同じこと考えてたってこと、だよね。嬉しい』
読みきった時、ぶわっと何かがあふれて視界が歪んだ。
なんで泣いてるんだろう、僕。嬉し泣きなんてほとんどしたことないのに。
こんなに、嬉しいと思ったのはいつぶりだろうか。妹が生まれた時くらいだろう。
「ずるいですよ、凌さん…」
このあと、少しずつ凌さんから敬語が抜けて、僕の敬語も軽めのモノになってきた。
『もうこんな時間だ。明日もお店だから、そろそろねるね。
楓は次いつ来れるかな。とは言っても、もうこうして話せるから、来る気があったらで、いいんだけど。』
『明日はちょっと、実家に帰らなくちゃいけなくて。いけそうにないんですけど、今週中には必ずまたコーヒー飲みに行きます』
『わかった、楽しみにしてるよ。おやすみ』
『おやすみなさい』
充電器につないだスマホを机におき、ベッドにダイブする。
いつでも連絡が取れる。その気になれば声も聞ける。次いつ会えるか、明確にわかる。
なんて幸せなんだろう、これは。
恋する乙女みたいなんではなくて、本当に恋しているようにすら感じる。
ないない、と首を振ってから、明に言われたことをつぶやいてみる。
「いつまでも常識に囚われてんなよ…か」
男に、男が、恋をする。これは常識的ではない。
「でも、常識的でないといけない理由は、ない」
凌さんに、恋をしている?
20XX.3.28
楓と連絡先を交換した。
連絡をいれて2時間、やっと返事が来た。顔文字付きで、慌てていたんだろう、とわかる文面だった。
話をしていると、楓の方から『敬語をやめてほしい』と言われた。嬉しいと思った。
ああ、なんて幸せなんだろう。
店でも話すときはタメで話してみよう。
そして、今日雅と楓が会ったようだ。
雅は、楓に惚れたらしい。帰ったあとに、名前を訪ねてきた。その時の耳が赤くなっていたのを見逃さなかった。
楓は特になんとも思っていないだろう。そう願いたい。
「絶対、俺のものにする。そう決めたんだ」
一人つぶやいた言葉は、静かな部屋に溶けて消えた。
またのご来店を、お待ちしております。
明くんが全然空気じゃありませんでした。ごめんね明くん…
早いものでもう3話です。自分のかいた小説の中で一番長く続いたのが確か9話なので(もっと文量は少なかった気がします)、ともかくそのくらいで1章を完結させたいですね。
ちなみに楓くんと凌さんが使っていたアプリは、もはや現代社会には欠かせないコミュニケーションツールとなったLI○Eです。便利よねあれ。
さてさて、今回はこのへんでお開きにします。
ちょっと本文も長くなってしまってすみませんでした。調節できるようになりたいです。
では、次回の更新でお会いできますよう。