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声に出して、理解

#声に出して、理解



凌ぐさんに恋をしているかもしれない。

そういう考えができたとたん、急に会うのが怖くなってしまった。

このドキドキが恋だとして、変な態度になったりしたら。もし、引かれてしまったら。

これ以上、好きだとわかってしまったら。

結局、日曜の実家では上の空だった上、月曜はカフェに行く勇気が出ず。「あしたは、必ず」と心に誓って、寝ることにした。が、真っ暗になった途端に、浮かんでくるのは凌さんのこと。

「ああもうっ!…ばかたれっ」抱き枕替わりのクッションが中を舞った。

なんで、こんなふうになるのか。その理由だけは、考えたくなかった。


    *  *


昨日はあのあとジタバタして、そのまま疲れて眠ってしまったらしい。

夕方は特に何も予定はないから、時間は夕方にしよう。

先に連絡を入れておいたほうがいいだろうか…一応、入れておこう。

『昨日行けなくてごめんなさい。今日、夕方におじゃまします』

送信、と。身支度をしていると、返事が返ってきた。

『気にしなくて大丈夫だよ。楽しみにしてるね』

凌さん、やめてください。これ以上、好きだって思わせないでください。うぬぼれさせないでください。たのしみにしてるなんて、それはもう…反則です。

「…早く時間進まないかな」


    *  *


カランカラン、とベルをならせ、慣れてきた空間に入る。

「楓!」

カウンターでカップを拭いていた凌さんが、顔をあげて微笑んでくれる。

あ、お店でも、その呼び方なんですね…!自分から言い出したのだが、実際あってタメ口だと、グッと来るものがある。

「あはは、きちゃいました。おじゃましますね」

「どうぞ、いらっしゃい。」

そのあとは普通に、実家はどうだったとか、たわいもない世間話をしていた。

6時になった頃には、自分以外の客が全員帰っていた。それくらい、僕たちは話に没頭していた。

雅くんの「秋葉さん、じゃあ俺もう時間なんで。お疲れ様でした」という声で、やっと二人共気がついた。

「はーいお疲れ様。…これはマスターにも怒られちゃうかなあ。まいった」

「すみません、つい夢中になってしまって…」

「ああ、いいのいいの。俺も結構話してたしね」

「ふふ、すごく楽しかったです」

「俺も」

ああ、幸せだ。

なんでも、18:00~19:00は一旦店を閉め、19:00からはお酒も提供するバーになるらしい。

僕って今いてもいいんですか、と聞くと、「俺がいてほしいだけだから、帰りたい時に帰っていいからね」と言われた。

ぽーっと準備する凌さんを見ているこの時間が、本当に幸せだと思った。

でも、その言葉は突然やってきた。

「楓、さ。ちょっといいかな」

言いながら手を取られる。

「…?なんですか?」

「俺、楓が好き、なんだ。俺と、付き合って欲しい」

言い終わると、スっと目を閉じ、くいっと引っ張って手首にキスをされる。

「…え」

え?

「びっくりする、よな。そりゃ会って数日の、しかも男に告白なんかされたらさ」

「あの」

「気持ち悪いって、思われてもいいから。伝えたかった」

言葉が、口に出せない。待って。僕、違うんです…!

「…て、もらえますか」

「え?」

「…待って、もらえますか。返事、今日じゃなくても…いいですか」

混乱する頭でひねり出した言葉がそれだった。

「…うん。でも、一個だけわがまま言わせて。

俺、明日お休みもらってるんだ。俺も実家に顔出せって言われてて、静岡行ってくる。

だから、出来たら返事は、明後日もらいたい。

…保留にして平気なフリして会うとか、俺はできないから」

「…はい、わかり、ました。明日、考えます、ね。その…今日は、ありがとうございました。ごめんなさい、なんて言ったらいいかわからないんですけど…今日は、失礼しますね」

「ああ、来てくれて、ありがとう。よかったらまた、きてよ」

いいながら荷物を詰め込み上着を着て、逃げるように店をでる。

「いみ、わかんないっ…!」


    *  *


家に着くまでの記憶がない。すれ違いざまに女性にぶつかってしまった気もするし、何度もつまずいた気もする。

「凌さんが、俺を、好き?」

声にだすというのは、人間の脳にとってほんとうに大切なことらしい。

止まっていた思考が動き出す。

「告白された?凌さんに?俺が?」

「手首にキスされた、手首のキスって、欲望、付き合いたいって、言われ、え?」

指折り数えて、それすらも放棄してしまう。

ああ、もう、なんでこんなにぐちゃぐちゃなんだ。

荒々しく髪ゴムをほどくと、手早く布団に潜り込み眠りにつく。

もう、今日は何も考えたくない。



20XX,3,31

楓に告白した。とても、緊張した。楓は、声が震えていた。涙を、我慢していたのかもしれない。

どの意味の涙なのか、なぜ返事を待ってくれと言われたのか、今の俺にはわからない。

泣くほど嫌だったのか、友達として好きだったのに、という失望か、それとも、手首にしたキスの、欲望の意味を知っていて、恐怖を感じた涙なのか、あるいは。

考えるほど脳内で悪い方向にことが進む。

もう来てくれなくなってしまったら?連絡先もアプリのものしか持っていない。もし、ブロックなんてされてしまったら。

かんがえたくない、考えたくない。

「俺も、大概ガキだなあ」




またのご来店を、心よりお待ちしております。


今日のネットの検索履歴

「キス 場所 意味」

「告白するとき キス」

どうも、今キスのことで頭がいっぱいです、緋乃です。


思いつきで書く事の恐ろしさを知りました。こっわ

4話目にしてやっと告白です。でもまだ、まだ伸ばします。

もう少しだけスレ違いすぎる系根本ネガティブ男子たちの攻防を書かせてくださいませ。

ちなみに、少しだけネタバレ?をさせていただきますと、告白したときにスタッフルームに凛ちゃんがいます。お話を伺ってみましょう

Q,なぜあのタイミングでスタッフルームにいたんですか?

「いやあ、明日提出のノートをおいてきてしまっていたのに気がついて。取りに来らお取り込み中でした」

Q,正直、あのお二人をどう思いますか?

「いいですね、楓さんの初々しい感じがたまらんです」

以上、カフェ裏口前より中継でお伝えしました。


では、また次回お会いできますよう。

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