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だんちょーの経緯  作者: nanodoramu
二章 ふくだんちょー こどもなおとな
29/121

じゅうにわ せつめいかい

改修


 太陽の光が燦々と降り注ぐ白い部屋。

 夏の日差しは、暑いほどに部屋を暖める。


 一見すると質素な部屋だが、よく見れば、そのあつらえは上質なものだと理解できる。

 部屋の中央にはベットが一つ、そこには銀髪の女性が寝入っている。

 周りには棚がみえ、所狭しと瓶が並べられている。


 瓶には透き通った液体が入っている。

 部屋の暑さのせいか、それとも睡眠欲が満たされたのか、女性…セシリアが目を覚ました。


「エイレソンの笛を舐めたな!」


 寝ぼけているのかセシリアは唐突に言葉を叫ぶ。


 勢い良く上半身を持ち上げ、辺りをきょろきょろと見回している。


「…火薬庫が危ない!」


 叫ぶやいなや、ベットから飛び降りる。

 そしてそのまま、扉に向かい走り出し。


 盛大にコケた。


 ドスンッと大きな尻餅を付いた。


「痛い…、あれここどこ?」


 我に返り再び辺りを見回す。

 しかし、その時セシリアの喉元にじくりと痛みが刺した。


「うぇ…」


 思わず手で喉元を抑え、摩ると手の平には粘性のある液体の感触がした。


「え?」


 そのまま手のひらを眼前に持ち上げ凝視するセシリア。


「血?」


 不思議そうに手のひらを見つめ続けている。


 すると目の前の扉が開き、女性の声が響いた。


「あんたは聖騎士(パラディン)の素質が低かったらしいわよ」


 声の元を辿れば、フランシスが腕を組んで仁王立ちしていた。

 機嫌が悪いのか目を細め神妙な顔をしている。


「フランシス様、おはようございます?」


 しかし、セシリアには理由がわからずとりあえず挨拶をした。


「ええ、おはよう、セシリア、どこまで覚えてる? あんた三日も寝込んでたのよ?」


 三日。


 変異蛇竜(ウィアードドレイク)と戦いの後セシリアは甲板で倒れた。


 そして、それを偶然に目撃したフランシスが騎士に命じて、王宮まで運ばせたのだ、その後さらに侍女に命じて、自室の隣にあった侍女の控え室まで無理をいって運んだのだ。

 

「戦いおわって甲板で座ってたら急に気分が悪くなったのなら覚えています…」


 セシリアが思い出すように告げた。


「そう、じゃぁ大体わかってるのね、床じゃなんだからベットに座りなさいな」


 そう言うと、自分が先にベットに座りフランシスは横をポンポンと叩く。


「あ、はい」


 促されるまま、ベットに腰掛けるセシリア。


「まず、何から話そうかしら…、そうね貴方が倒れた後、そこにいた騎士の一人に貴方を治療師の所に運ばせてね、他の騎士たちに話を聞いたのだけど変異蛇竜(ウイアードドレイク)と貴方が戦っただのどうのこうのと…」


 ため息をついてから、フランシスは話を続ける。

 その顔には迷いが見える。


「貴方をみた治療師が魔力枯渇の症状だとかいうのよ、女は魔法を使えないのに…それでピンときてね、幸い呼吸は安定しだしていたからセシリアのことは治療師に任せて、私は神殿に赴いてみたのよ、そこで貴方の事を話したら大司教(あの爺)なんて言ったと思う?」


 セシリアに笑みを浮かべながら問いかけるフランシス、若干その目には憤りが垣間見える。


「う?」


 セシリアは若干怯えて変な返事をする。


 それを気にもせず若干声音を低くし、大司教(アークビショップ)の真似でもしているのか、喋りだすフランシス。


「あの(セシリア)聖騎士(パラディン)の素質は最低位でしたな…、基礎の二つの聖痕(スティグマ)に、もう一つだけ、それで三つ目が特殊系でしたらまず使いこなせませんな、仮に使えたとしても何かしら代償があるでしょうって」


 そして声音を元に戻すフランシス。


「知ってるなら先に教えなさいよねくそじじいが…」


 いかにも相手が悪いように吐き捨ててているが、説明をろくすっぽ聞かずに飛び出してきたのはフランシスである。


「…最低位だと何がマズイんですか?」


 流石に不安になったのか気になるところを問いかけるセシリア。


聖痕(スティグマ)の発動に小魔力(ポリ)が必要なのは覚えているわよね?」


 頷くセシリア。


「…聖痕(スティグマ)の数が多いほど、肉体の性能が向上するってのは?」


「地下で聞きましたね」


 そして続ける。


聖痕(スティグマ)の多さは可能性の多さ、大きさは力の強さを表すって小さい神官が言ってました」


「そうね、それであってる、でもあってるけど足りないのよ…」


 フランシスの返答に首を傾げるセシリア。


「何が足りないんですか?」


「わざと足りないように言い回してるのか、あの神官の頭が足りなかったかはわからないけど…」


 ひどい言いようである。


「詳しく調べたのよ、私も……聖痕(スティグマ)を使うのに小魔力(ポリ)を使うのはわかるわ、そこは魔法みたいなもんよね。けどなんで聖痕(スティグマ)の数が増えると肉体性能の向上量まで増加するのか、聖痕(スティグマ)が大きいなら力があがるというのになぜ貴方は最低位と言われたのか、聖痕(スティグマ)はどんな装置()なのかを……」


 一度区切るフランシス。


「聞く?」


「はい」


 続きを促すセシリア。


「私の仮説になってしまうけどね…、聖痕(スティグマ)は大きさ種類に関わらず本人の小魔力(ポリ)を増加させる力があるのだと思う、だから種類が多い聖騎士(パラディン)ほど身体能力もあがるし、階位も上に位置づけされる。それで大きさは聖痕(スティグマ)によって起こる奇跡の上限値って事だと思うわ」


 聞く限りではおかしいところはないが、セシリアは自分が倒れた理由にはたどり着けなかった。


「それで、どうして(ワタクシ)は倒れたのでしょうか?」


 思わず口を挟む。


「…治療師の言う魔力枯渇っていうのはあながち間違っていなかったのよ聖痕(スティグマ)の少ない貴方は小魔力(ポリ)の増加量が少ないのだから、いくら上限値が高い大きな聖痕(スティグマ)を持っていても、必要なだけの小魔力(ポリ)を捻出できないのだと思うわ…、発動させてしまった代償が三日間の昏睡に、その傷よ、その血は貴方が倒れた二日目くらいに喉元から聖痕(スティグマ)が傷となって浮き上がったのものなのよ」


 姿見を指差すフランシス。


 セシリアがその前に立って喉元を確認すると確かに大きな十字の傷ができている、血はまだ乾いていない。


「傷モノになってしまいました…」


「…あんたは」


 フランシスは軽くため息をついたが、その後何を思ったのか微笑んだ。


「そのうち傷モノでもあんたをもらってくれる、魔法なしであんたより強い男が見つかるわよ」


 セシリアも眼を見開き、若干驚きながらも何かを納得し微笑んだ。


「期待して待ってます」


 するとフランシスはおもむろに立ち上がり棚を開く。


「これ飲みなさい」


 フランシスは液体の入った瓶を取り出し、そのままセシリアに渡した。


「なんですかこれ?薬?」


「聖水よ聖騎士(パラディン)専用の回復剤になるらしいわ」


 セシリアはそれを一気に煽った。

 体の聖痕(スティグマ)が一瞬だけ淡い光を放つ。


「ただの水ですね…」


 言いながらも瓶を逆さにし最後の一滴まで振り落としている。


「当たり前じゃない果実汁(ジュース)じゃないんだから、みっともないからそれはやめなさい…」


 注意され、セシリアは瓶を手持ち無沙汰にいじくる。


「さっきの続きになるけれど、逆にあなたの聖痕(スティグマ)の大きさなら、そうやって小魔力(ポリ)を補充できるなら、腕の一本の再生ぐらいできるらしいわよ……どう? 体の調子も良くなってきたんじゃない?」


「どうっと言われましても……」


 瓶を弄り回すセシリア。


 カシャンと瓶が割れた。


「いたっ」


 呻くが手には傷ひとつない。


 それを見て、「十分ね」と呟くフランシス。


 よく見れば喉の傷も若干だが小さくなっている、再生の聖痕(スティグマ)が反応したのだろう。

 瓶の欠片を片付けるセシリア、カチャカチャと小さな音が響く。


「あっ」と思い出すように声をだすセシリア。


「どうしたの?」


()が折れてしまったんです…あの大きな蛇竜(ドレイク)との戦いで…」


 どこか寂しそうに、セシリアは手を閉じたり開いたりする。


「あれが折れるなんて相当なんだけど、国宝級なんだけどあれ」


 思わぬ事実を告げるフランシス。


「えっ」


 初めて聞いたような驚きをするセシリア。


「あんた硬いとか切れないとか思わなかった?」


「ちょっとだけ思ったかもしれません…」


 ため息をつくフランシス。


「…あの剣は貴方の意思が反映されるって渡すとき言ったでしょうに……まぁあんだけでかいの相手にしたらしょうがないのかな? 装備一式は遺品もあるし、集めてると思うから回収して、打ち直させるわ、本当なら守りの加護がない武器や竜の鱗くらいなで斬りにできる代物なのよ? もっと精進なさい」


 そう締めくくった。


「精進します…」


 うなだれるセシリア。


 「それと……あの蛇竜(ドレイク)に関しては箝口令が敷かれたから、外で言うんじゃないわよ?」


「箝口令ですか? なんでまた?」


「結構貴族が死んだのよね、それで色々とね…」


 フランシスは大事なところはぼかすように答える。


「よくわかりませんが、わかりました」


 それでもセシリアは了解する。


「ま、遊園会の話はそこまでにして、三日も寝てたら、お腹減ってるでしょう? 第二侍女(イザベラ)に頼んでご飯用意しましょうか」


 ご飯と聞くと急に意識したのか、セシリアの腹からクギュルーと音がした。


「他の話とはなんですか?」


 恥ずかしいのか、何でもないふうにセシリアは誤魔化した。


「……お腹で返事するほど減ってるのだから食事の後にしましょうね」


 フランシス堪えるように笑う。

 ばればれである。


 セシリアは少しばかり顔を赤くした。


 フランシスはポケットからベルを取り出し軽く振った。

 チリンチリンと澄んだ美しい高温が響く。

 数秒もしないうちにトントンと扉を叩く音が聞こえ、声がかかる。


「お呼びでしょうか?」


「ここに、食事の準備をなさいセシリアの分もね」


 それを聞くと「おや?」と目を丸くする第二侍女(イザベラ)


「セシリア様がお目覚めに成られたのですね、侍女一同心配申し上げておりました」


「心配をおかけしました」


「侍女も然ることながら、フランシス様も凄く心配なされていたのですよ? 時間があるときはいつもここにいらして居りましたの」


 セシリアに目配せするイザベラ。


「余計な事はいわなくてもいいからっ…とっとと食事を用意しなさいっ」


 慌てたように言いつけるフランシス。

 気恥ずかしいのか頬にほんのり赤みが差している。


「畏まりました」


 礼をしてイザベラは微笑みながら去っていく。

 それをみてセシリアも微笑みフランシスを見据えて礼を述べた。


「心配してくれてありがとうございます」


 それを聞いてフランシスは顔をさらに赤くした。


「別に、当然のことなんだから、き、気にしなくてもいいわよ」


 頬を染めたままそっぽを向くフランシス。

 ツンデレである。

 これのおかげで陛下が堕ちたのどうでもいい余談だ。


「はい、では食事用に机くらいだしますか?」


 サラッと切り替えて準備をしようとするセシリア。

 フランシスは何か釈然としないが、セシリアが準備をするのを引き止めた。


「しばらく、あんたは重労働とか訓練とか禁止、養生なさい」


「えぇ……、まだ弟に頼まれた仕事も半分しか終わってないんですけど……、訓練の様子も見に行きたいし」


「残りは直接城に呼んで私が話を通しておくわ」


「フランシス様が直接呼び出したら手続きに時間がかかりすぎるんじゃ」


「……弟君には手紙でも書いておきなさい、訓練の様子はそのうち見れるでしょう、養生といっても一週間くらいよ、避暑旅行も今回の件で流れたしね、すぐに忙しくなるわ、忙しくなる前に体調を万全にしときなさい」


 これからの事を考えているのだろう、フランシスの目はすでにここではないどこかを見据えている。


 その時コンコンと扉を叩く音が聞こえた。


「準備が整いました、お運びいたしますね」


 第二侍女(イザベラ)が扉の前に食事を乗せた台車を運んで待機していた。









***











 王宮の外宮にある会議室では、大きな円卓を囲み会議を行うギリアス陛下と大臣達の姿があった。


 窓は締め切っており、カーテンが掛かっている、光源は部屋の壁に掛かっている蝋燭のみである。


 陛下の周りには王宮近衛兵(ロイヤルガード)と呼ばれる騎士が二人詰めていた。


 円卓ではエフレディア王国の上位貴族…伯爵、候爵、公爵のなかでも領地もちである諸侯の当主達が軒を連ねている。


 突然の招集、集められた顔ぶれに驚きを隠せずあちらこちらでざわめきが起こっている。


 扉を開き、最後の貴族だろう、髭を蓄えた男が入ってきて席に着く。


 それを確認するやいなやギリアスが右手をあげ、場を制した。


 途端静かになる、会議場。


「この特別臨時会議なぜ招集したのか分からぬものもいるだろう、皆の者……先の遊園会での変異蛇竜(ウィアードドレイク)の襲撃、箝口令を敷いたとはいえもう知らぬものは居ないだろう」


 ギリアスが問いかける。

 悲しみに耐えるような仕草でジンム・レイダルス伯爵が声をだした。


「痛ましい事件でございました、何人もの貴族や勇猛な騎士を失いました」


 その言葉に周りの貴族たちも、友人や親族を失ったものたちは悲痛な面持ちをする、中には嗚咽をもらすものもいるほどだ。


 それを見てギリアスも心が痛む。


「そうだな、失われたもの達のおかげで命を救われたものもいる、彼らに経緯を評し黙祷を捧げよう…、全員黙祷」


 一時的に場が静まりかえる。

 一分か数分か、全員目をつぶり左手を胸に沿え、静かに冥福を祈った。


「いつまでも悲しみにくれているわけにもいかぬ、我らは彼らの意思を引き継ぎ前に進もう、黙祷止め…」


 静かに目を開く諸侯達。


「では会議を始める、議題はもちろん遊園会での変異蛇竜(ウィアードドレイク)が発端だ、資料を」


 ギリアスが声をかけると、一人の騎士が羊皮紙を円卓の中央に置いた。


「こちらが翼竜騎士団の所見になります」


 騎士が何やら呪文を唱えると文字が羊皮紙から浮かび上がり拡大され、見えない円柱を回るように動き出した。


「見えないものはいないな? 件の変異蛇竜(ウィアードドレイク)の解剖所見だ」



 以下が羊皮紙に書かれていた内容である。


 変異蛇竜(ウィアードドレイク)解剖所見。


 施設に運んだ際にすでに生命活動の停止を確認したためそのまま、貴重な実験体として解剖に回すことに相成った。


 切り開いて内部を確認したところ、どういうことか既に腐敗が著しく、実験体の入手保存を断念。


 解剖時の骨格から雄と判定、推定年齢は五歳。


 腐敗が骨と鱗に進む前に切り離しを行うもほぼ九割が間に合わず廃棄となった。


 確保できた一割を魔道具に生成。


 廃棄品処分時、頭頂部から水晶を発見、解析を試みるも反撃型結界と思われる魔法に阻まれ、技術部解析班が数人が怪我をおう事態となった。


 それに伴い、結界術式を解析、北の国ノーザスの技術だと思われる。


 そのため緊急案件として王宮へこの所見を手配する。



 数十秒、全員が眼で文字を追った。

 読み終えたものから眼を見開いた。


(オス)だと? あの大きさでか?」


「頭部の水晶とは結局なんだったんだ?」


「ノーザスだと…」

 

 疑問で埋め尽くされる諸侯達、ざわついてしまっている。


「静かに!」


 ジンム伯爵が声を張り上げた。


「落ち着きなさい、まずは陛下のご意見を…」


 すると一斉にギリアスに眼を向ける諸侯達。


「王都の騎士団の軍備を拡張する…、北と東に眼を配れ、斥候もだしてかまわん、準戦時体制を取る」


 告げるギリアス、またもざわめく諸侯達。


「陛下は同盟国であるノーザスをお疑いになるのですか!?」


「東にも眼を配れとは一体?」


「戦争になるのか…?」


 叫ぶもの、訝るもの、先を見据えるもの、他社多様の反応を示す諸侯達。


 しだいに会議は困窮を極めていった。



 


改修

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