じゅうわ ふくだんちょう
改修
白い視界の中、高音が響き渡る。
金属同士が擦れ合うような不快音。
時折混じる苦悶の声。
時折混じる咆哮。
霧によって顔にはりつく茶髪をうっとしそうに跳ね除けながら、男はそれを見ていた。
幾重もの悲鳴が聞こえ、気づけば減っていく仲間たち。
次は自分かと誰もが絶望した。
何か策をと考えていると、突如それは静かになった。
そして、破砕音が轟き、続けざまに咆哮が響き渡った。
何が起きているのかと音のする方に向かえば、白い騎士服を来た女が変異蛇竜と戦っていた。
女と変異蛇竜の戦いはとても幻想的で、美しいとさえ感じられる、そしてその男では決して入り込めない領域だった。
***
キンッと硬質な音が響く。
セシリアの得物である刀が変異蛇竜の胴体に叩きつけられた。
しかし、その刃は変異蛇竜の硬質な鱗の前には刃足り得なかった。
「硬い……」
呟きすぐさま距離をとる。
三十七回。
セシリアが変異蛇竜の尻尾を切り落としてから切りつけた数である。
しかし、どの一撃も変異蛇竜の鱗にはじかれて、一撃足りとも肉まで到達しなかった。
柔軟な尻尾の先とは違い胴の鱗は大きく固い、刀しか持ち得ぬセシリアはどうにも攻めあぐねていた。
既に切り落とした尻尾も再生している、恐るべき生命力である。
セシリアを殺さんと、尻尾を振り払うように叩きつける変異蛇竜。
軽く飛び上がることでそれを躱すセシリア。
そのままセシリアは尾の上に着地し、変異蛇竜の体を足場にその巨体の首に向かって駆けていく。
二十メートルにもなる巨躯を凄まじい速度で駆け上がる。
「これでっ」
首を狙って振り抜かれた斬撃、けれども途中で邪魔が入る。
翼だ。
変異蛇竜は翼を振るい、セシリアを甲板へと叩き落きつけようとする。
「くうっ」
悪態を付きながらも無理やり斬撃の軌道を逸らし、翼に打ち付ける。
キーンと硬質な音が辺りに響いた。
翼もまた硬質なのか、傷ひとつつかない。
翼に刀を打ち付けた衝撃で体制を立て直し、滑るように着地し勢いを殺す。
けれども、着地の際を狙い変異蛇竜の牙がセシリアを差し貫かんと迫る。
体を投げ出すように跳び、横に転がり牙を避ける。
なおも追撃せんと尾を叩きつける変異蛇竜。
セシリアは起き上りざまに、尻尾を切り捨てた。
「ギアァアアアアゥゥゥア」
叫び暴れる、変異蛇竜。
しかし、すでに尾の再生は始まっているのか切り口には肉が盛り上がって見える。
「すぐ生えるくせに、うるさいなぁ……」
呟きながらもセシリアは一足飛びに近寄り、暴れる変異蛇竜の頭に刀を叩きつけた。
キンッとはじかれる刀。
「君……、硬すぎるよっ」
衝撃で再び落ち着きを取り戻し、セシリアに再び牙を向ける変異蛇竜。
声を低く唸り声をあげている。
「グギュルルルルッルル」
距離を取り、顔の汗を騎士服の袖で拭うセシリア。
「何言ってんのか……、わかんないんだけど……?」
軽口を叩くセシリアだが、その表情は芳しくない。
体力が無くなってきたのか、ハァハァと荒い息をついている。
元々セシリアの戦闘姿勢は力押しの打ち合いを是とするものではない。
幼少より実家の白百合騎士団に混ざり共に剣を磨いてきた。
けれども、十四になる頃セシリアはそれに気づいた。
十四歳、成人の年齢に達した新兵を白百合騎士団に迎えたときだった。
当然のように新兵訓練に参加したセシリア。
けれども、新兵に混じり剣を交えたときにそれは起こった。
新兵が入り意気揚々と手合わせをして、セシリアは敗北したのだ。
純粋な剣技や戦闘の才能では全てセシリアが圧倒していた。
当然だ、幼少より父に鍛えられた戦術は他を圧倒して然るべきものだ。
けれども、新兵といえど相手は騎士団員、当然魔法を使う。
新兵側としても女になど負けられるぬと意地があったのだろう。
騎士団に入るにあたって最低基準の魔法が一つある。
これはどのような騎士団であっても必須のもの。
俗に身体強化と言われる魔法である。
腕力強化、脚力強化、反射速度強化、思考加速、神経伝達強化等、様々なものが存在する、騎士団の仕事は荒事だ。
身体強化の一つもできずに務まるものではない。
身体強化の魔法を使われてから、セシリアは防戦一方となりやがて敗北を期してしまう。
セシリアとて熟練の騎士相手には何もできずに負けるのは日常茶飯事であった。
けれども、新兵にすら負けるとは思ってもいなかった。
それも一人ではなく、全ての新兵にだ。
絶望にうちひしがれるセシリアに声をかけたのは父、アーノルド・リリィだった。
「何もそう落ち込むことはない、女では男に勝てぬのは当然の事なのだ、魔法を使われたら、女であるセシリアには勝目などない……これを機に花嫁修業をだな……」
こっそり後半に何かを呟きながら、セシリアをなだめに来た。
実際普通の騎士団の新兵では、剣だけのセシリアでも圧倒できただろう。
しかし、白百合騎士団に入る騎士は皆精鋭揃いである、新兵とはいえ決して侮れるものではない。
特にその年は、セシリアが成人することもあって、父であるアーノルドは特に寄りすぐりの人選をしたのである。
十四にもなって男の噂一つないセシリアを騎士団から興味を無くさせ、嫁がせるためにである。
ある意味親心ではあるが、職権乱用だった。
しかし、その時の父の言葉でセシリアに天啓が舞い降りた。
魔法を使われたら負ける? なら使う前に倒せばいい――!
「ありがとう父上」
そう言うと、セシリアはその時から訓練に明け暮れた。
魔法を使う男を倒す。
否、魔法を使う前に倒す。
そのためにセシリアが選んだものはただ一点、速さである。
所詮は女の躰、仮に身体強化の魔法が使えたとしてももとより打ち合いなど望むべくもない。
もとより頭もさほどよくはない、魔法を使われる前に倒すために、ただひたすら速度をあげる技術のみを鍛え抜いた。
たどり着いたのは二つの技術。
鞘から剣を抜き鞘に押し付けることによる反動で瞬間的に速度と威力をあげる抜剣術。
そして、瞬間的に最高速に上り詰める縮地法と呼ばれる足運び。
その二つを血を滲むような修練の果に会得し、さらには組み合わせた。
普通の人間ならば何が起こったのか分かる前に首を落とすだろう剣戟。
魔法を使われる前に、何かをヤられる前に、女だと侮られているうちに。
対人戦闘における、先手必勝の一撃必殺。
父の思惑とは反対に、一年も立つ頃には新兵全てを圧倒できるほどにセシリアは強くなっていた。
かつて腕を切りとばされた元地竜騎士団団長ベルダイン、彼も見事にセシリアを女だと侮った。
故に利き腕を失った、御膳試合のため言い訳などできず、最終的には魔法を駆使して、どうかにセシリアを縛り上げる事で勝利した。
けれども騎士団長たる彼が女相手に魔法を使った時点でそれは負けにも等しかった。
そのため彼は現役を退いたのだが……。
相手を圧倒する速度を手にれたセシリアだが反面、ギリギリまで削ぎ落とした脂肪と重くならないように付けられた筋肉。
騎士服を脱げば、女性でもありえないほど細く、引き締まった体が見えるだろう。
そのためにセシリアには圧倒的に体力が少なかった、持久力は決して多くはない、聖騎士になることによって主だった身体機能は向上したのだが、それでも多い部類ではない。
そもそもセシリアの剣術は対人以外の用途を考えられていない。
人に比べれば無尽蔵とも言える体力、刃の通りにくい躯。
ここに来て趨勢は変異蛇竜に傾きつつあった。
***
先ほどから霧の中では剣戟の音と船が壊れるであろう破砕音が休みなく響いている。
「何が起きていやがる……」
青髪に痩躯の男、レジールが呟いた。
先ほどから陛下の周りで結界を貼り続けているために前線は余りよく見えない、父であるジンム伯爵が指揮をとっているのは分かるのだが。
変異蛇竜の襲撃、ふざけた威力の竜の息吹による攻撃、蛇竜騎士団の到着により、竜の息吹は収まったものの、短い戦闘を経て 変異蛇竜の体から発生した霧により蛇竜騎士団の一部は霧の中に囚われてしまった。
いつまた竜の息吹を撃たれてもいいように、陛下の前には常に結界を展開しているものの、いつまでも保つようなものではない。
外にて大規模魔法を司っていた、蛇竜騎士団も霧のせいで攻めあぐねている状況だ、見えないまま魔法を放てば、仲間にあたってしまうだろう。
霧の中から断続的に聞こえる悲鳴、それが止まったと思えば、今度は破砕音に咆哮だ、そして剣戟の音が響いてくる。
その時外の蛇竜騎士団から声が響いた。
「聖域の風」
周辺の大魔力を浄化する大規模魔法である、霧が徐々に消えていく。
すぐさま遠視の魔法を使い、レジールは戦場を覗き見る。
霧が晴れたそこには戸惑うような数人の蛇竜騎士と一人で変異蛇竜と戦う白い騎士服を着た女がいた。
「あれは、セシリアとか言ったか?」
見ればありえない速度で変異蛇竜の体を駆け上がり、その躯に刀を切りつけている。
変異蛇竜もそれを恐ろしい速度で迎撃せんと、翼や尻尾を振るっている。
互いに一歩もひかぬ一進一退の攻防が続いている。
「化物だなありゃ……」
その時、呟くレジールの声に誰かが反応した。
「あれが王妃筆頭侍女のセシリアだ、どうだ強いだろう?」
声のするほう振り向けば陛下が笑っている。
レジールと同じように遠視の魔法を軌道させているのだろう、目はどこか遠くを見つめている。
「陛下、失礼をば……」
レジールは頭を下げる。
「良い」
ギリアスは制す。
「昔俺が惚れた女でな、強いんだアレが」
ギリアスはどこか懐かしそうに呟いた。
「あ、今のフランシスには内緒な?」
そう微笑むと再び変異蛇竜とセシリアの戦闘を見つめるギリアス、その目には不安と信頼の狭間で揺れていた。
「援護に行きたい所だが、私や並の騎士では邪魔になってしまうな……、風雷の二つ名を持つ君なら、何か出来たりしないかな? レジール・レイダルス」
目を細めてレジールを見つめるギリアス。
「陛下がご所望とあれば……」
騎士の礼をとり、おのが槍を構え、戦場を見つめるレジール。
「頼む」
陛下に頼まれたのなら動くしかない。
呪文を唱え己が体にありとあらゆる身体強化をかけまくる。
思考加速、脚力強化、視界拡大、神経伝達速度拡大、腕力強化……。
瞬間、世界が遅くなる。
「参ります……」
呟きととも姿が消えた。
レジール・レイダルスの二つ名は風雷。
身体強化の魔法の重ねがけにより得られる数分の過重強化。
風の如き速度で敵に迫り、青い電を纏わせた槍で敵を圧倒する。
故についた二つ名は風雷。
効果が切れるとしばらく魔法が使えなくなるおまけ付きだが、瞬間的な戦闘力は騎士の中でも上位に属する。
過程は違えど、戦闘姿勢はセシリアのそれと酷似している、速度重視である、違いはただ一点。
武器の破壊力だ。
レジールの槍、銘はグラスロフと言う、かつて鬼人族が使っていたと言われる名槍である。
黒く重厚な誂に、彫り込まれた加護は、破壊。
その一点だけに集約される。
だが、それだけではない。
本来なら触れた所にのみ効果のでるそれを、魔法による雷を纏わせ、破壊する範囲を拡大するという荒業を行う。
東の国のイスターチアとの先の戦争、ジンム・レイダルス伯爵の戦功の半分はレジールがいなければ成り立たなかったと言われるほどである。
その力、英雄と言っても過言ではない。
***
すでに何度に切りつけたかもわからず、セシリアは刃を振るい、足を動かしていた。
止まれば一瞬のうちに変異蛇竜の餌食になるという恐怖。
徐々に精細を欠いていく自分の体。
心を段々と蝕む焦燥感……。
それを知ってか知らずか変異蛇竜は攻撃の手を決して緩めようとはしない、尻尾を切り落とせば少しの間だけ、暴れまわるものの、その隙に何度切りつけてもセシリアの刀ではその身までは届かない。
「ああああああああっ」
もはや悲愴とも思える声をあげ、セシリアは変異蛇竜に斬りかかる。
それでもキンッと弾かれる刀。
すかさず、翼による振り払いを仕掛けてくる変異蛇竜。
受け流そうとして刀を構えて、それは起きた。
キーンと甲高い音をたて、刀が折れた。
「えっ……?」
そのままセシリアは翼を打ち付けられ。
甲板へ激突した。
二度、三度と飛び跳ね、瓦礫にぶつかり動きを止める。
「うぁ……」
セシリアの体に激痛が走る。
内蔵をやられたのか、吐血し、血に黒い色が交じっている。
意識も朦朧としているのだろう、その目は虚ろだ。
「キュァアアアアアアアアアア」
それを見て歓喜の咆哮をあげる変異蛇竜。
再生の聖痕の力により徐々に傷は治癒していくが、セシリアはまだ動けない。
変異蛇竜はその顎を大きくあけて、セシリアを呑み込まんと差し迫った。
飲み込まんとした瞬間。
セシリアの前誰かの背中が映る。
ドゴンッと重厚な音がした。
セシリアが虚ろな目を音源に向ける。
するとそこには。
茶髪の髪を揺らし、前を見据えるジョーイが居た。
両の手を掲げ、そこには大きな土壁ができている。
先ほどの音はそこに変異蛇竜が突っ込んだのだろう。
少し離れたところで変異蛇竜が顔を振るって土を落としているのがその証拠だ。
土壁のジョーイ、それが彼の二つ名である。
文字通り土壁を作りあげるのが彼の二つ名の由来である。
時には頑強に、時には脆く、時には大きく、時には小さく。
決して攻撃に向く戦闘法ではないが、その防御力と冷静に場をかく乱する力は王都四竜騎士団のなかでも飛び抜けている。
「大丈夫か? お嬢さん?」
ジョーイは気遣わしげにセシリアを見やる。
まだ虚ろな瞳ではあるが、セシリアは静かに頷いた。
「その様子じゃ動けなさそうだな……樹木の癒し」
ジョーイが詠唱を破棄して魔法を唱える。
詠唱破棄とは効果が三割しか発揮できない代わり、呪文詠唱を破棄できるという技術だ、例え三割の効果だとしても、即座に発動させることができる魔法とは慎重な場面では有利に働きかけることが可能だろう。
一応は副団長というところか。
もっとも、目の前に変異蛇竜がいる状況でおちおちと詠唱などできる暇はないのだが。
瓦礫の中から小さな木が生え、蔓がセシリアを包み込む、淡い緑色の光を放ち、傷を治していく、三割の効果とはいえ、再生の聖痕と合わさり、なんとか声をだせる程度には回復したようだ。
「剣が折れちゃった……、何か予備はない……?」
息も絶え絶えにセシリアがジョーイに問いかける。
「まだ戦うきか? いい根性してるじゃないか」
軽口を叩きながらも、腰にさげている片平細剣を左手で投げてよこすジョーイ。
武器を渡しながらも、その目と右手は常に変異蛇竜を捉えている。
片平細剣を受け取るも足元がおぼつかづに、たたらを踏むセシリア。
「やめておけ、その様子じゃまともに動けないだろ」
そんなセシリアをジョーイが制した。
「くっ」
歯噛みして腰から落ちるように座り込むセシリア。
その様子を変異蛇竜は伺うように見ながら、体を揺らしている。
するとまたも翼から霧が発生し出す。
「隆起する地面!」
ぎょっとした顔で、またも詠唱破棄にて魔法を放つジョーイ。
木の甲板の上だというのに何処からか、土が現れ変異蛇竜の下から次々と隆起する。
しかし、変異蛇竜の翼は止まらない、隆起する土をまるで何がくるのかわかっているように、避けきってしまう。
「やんなっちゃうねぇ……」
言い方が軽いが、ジョーイの声には焦りがにじみ出ている。
先ほどの霧が発生すれば、また視界が悪くなる。
セシリアのように第六感ともいえる超感覚がなければ、霧の中での高速戦闘など不可能だ。
変異蛇竜も蛇竜種特有のピット器官と呼ばれる、熱源感知能力を備えているが故に行える行動だ。
「悪いが、させねぇよ」
低いが透き通るような声がその場に響いた。
次の瞬間。
青い雷光が変異蛇竜の翼の付け根を切り飛ばした。
落ちる両翼。
「ギュアアアアアアアアアアア」
喚き暴れる変異蛇竜。
しかし、喚きながらも切られた翼の付け根に可視化するほど大魔力が集まり輝き始める。
どうやら治そうとしているようだ。
「無駄だ、雷で焼き切っている、普通の再生などできるものか……」
レジールがそう言い、変異蛇竜と相対する。
「もっとも、蛇こうに言葉が通じるとは思っちゃいねーが」
黒い槍を両の手で構え獰猛な笑を浮かべるレジール。
「土壁のジョーイと見受けるがいかに?」
振り向きもせずに、問いかけるレジール、その槍には青い雷の迸りか、ピシリパシリと音を立てている。
「いかにも、そちらこそ、風雷のレジール殿と見受ける、ご助力感謝いたす」
二人はやり取りを交わしながらも変異蛇竜から目を放そうとはしない。
「足止めできるかい?」
レジールがジョーイに問いかける。
「翼がない今、先ほどなみの機動力はないだろうから、魔法で十秒……ならと言った感じだが……」
ジョーイは言いよどむ。
「十分だ、体を貫けるかはわからんが、試してみる」
翼の付け根というのは鱗がないのである、そのため隙をつき容易く切り落とす事ができたのだ。
そう言うと、黒い槍に小魔力を込め、雷の迸りを大きくするレジール。
「逆に聞くが、何秒持たせられる?」
ジョーイがレジールに問いかけた。
「……あんたの足止めがあって一分ってところかな、それ以上は俺の体が持たない。そこの嬢ちゃんと一緒にするなよ?」
苦笑するレジール。
「十分だ、俺が合図をしたら引け、攻撃班に大規模殲滅魔法を撃たせる」
「了解だ」
互いに頷きあい、それぞれ構えを取る。
レジールは黒い槍を、ジョーイは手を地面に向けている。
「樹木の籠!」
ジョーイが魔法を叫ぶ。
甲板から生えた木々が、変異蛇竜に絡みつかんと襲いかかる。
避けようと体をよじらせる、変異蛇竜、しかし、その隙を逃さんとレジールが槍を構え飛び込んだ。
そんな二人をセシリアは朦朧とした瞳に写していた。
やっぱり騎士って格好いいな。
セシリアは何処か場違いな感想を抱いていた。
***
「風雷と土壁が間に合ったか……」
ギリアスが呟く。
後方では瓦礫の影に隠れながら、騎士の一人に遠視の魔法と投写の魔法を使わせ戦場の様子を拡大して確認していた。
「誰か、セシリアを保護できないか?」
ギリアスが声をかけるも、首を振るものばかり。
「ちっ……」
悪態をつくギリアス、ギリアスとしては全てを見捨ててもセシリアとフランシスだけ保護できればそれでよかった、自分で駆けつけてもいいとすら思っている。
しかし、王としての立場がそれを許さない。
「風雷と土壁といえどどれだけ持つか……、飛竜騎士団はまだなのか?」
すがるように問いかければ、飛龍騎士団はすでに向かっているとの事だった。
「しかし、何なんだあの変異蛇竜? 何が目的で遊園会に……おまけにあの巨体、雌個体だと……」
思わず手に力を込めるギリアス強く握りすぎて血管が浮き上がる。
「竜が人前に現れる事基本などありますまいが……、変異蛇竜は蛇竜の上位種、蛇竜騎士団を配置したがために現れたのやもしれませぬ……」
ジンム伯爵がそれに予測を交え答えた。
「しかし、それならば騎士団を襲うはずだろう? なぜ船の真ん中に降り立つ必要がある……」
騎士の一人が疑問を口にした。
「それは……」
ジンム伯爵は言いよどむ。
「しかし、上位種なら本来意思の疎通がとれてもおかしくはないのだが、あの変異蛇竜は行き成り襲いかかってきたぞ? どうなっているんだ……」
この場に竜騎士は居らず、詳しいことは何もわからず推測すら立てられない状況だ、そんな状況にギリアスは歯噛みする。
投写された映像をみれば、土壁による魔法と風雷による突撃が繰り広げられていた。
徐々にセシリアから離れていくのが、ギリアスにとっては朗報であった。
「フランシスも行方知れずか……下手したらもう……」
船室にいることなど露ほどにも思わないギリアス、実は一番元気なのがフランシスなのだが。
しかし、ギリアスにとってセシリアのそばにフランシスが居ないというのはその可能性が最も高く思えた。
何もできない苛立ちからか、ギリアスは唇を噛みしめた。
するとその時、悲鳴があがった。
悲鳴の元を確認するとそこには、倒れる土壁と風雷の姿が写っていた。
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