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82話 ダンジョンレシピ

ダンジョンの制御機構を置く部屋の改造はおよそ半日で完了。そこはもはや王都基準ではシェルターと言っていいレベルの堅固さへと変貌してしまった。

部屋を形成するもの全てに硬質化、耐久増加、魔力抵抗増大の3種類が永続付与され、扉には複数の魔導錠が装着。レイラ達が買ってきた市販の魔導錠ではあるが、そこからユリスによって魔改造を施されたものであるため、そこらの職人ではその構造ですら解析不能である。

それにより、認証キーを持つユリス達3人以外には侵入不可能な要塞と化してしまったのだった。


設置された制御機構も正常に稼働し、試運転として食材ダンジョンでシエラとレイラは新たなスキルの試しうちなんかも行なった。大まかな仕様や他のスキルとのシナジー効果なんかも判明したので、これからの訓練次第で大きく化ける事だろう。それに触発されたユリスも密かに新たなスキル運用法を編み出そうと躍起になっている。



翌日…


「長期休暇も今日でラストかぁ…」

「思えば随分と早い1ヶ月でしたね」

「なんだかんだで色々あったもんね〜」


お菓子製作やハズレ紙の解明、付与素材を使用した装備の作成など、毎度のことながら対策なしで広まったら国全体へ影響が出るような発見ばかりしている。


「最後にまだ1個残ってるけどね」

「そうですね」

「多分あれが1番の爆弾だよね?

 今日確かめるの?」


残っている爆弾とは『特殊ダンジョンレシピ“賭鼠(かけねずみ)遊戯場(ゆうぎじょう)“』のことだろう。


「うん、一回くらいは試しておきたいしね」

「それでは今日の予定は決まりですね」

「ご飯も食べ終わったし早速試してみよっか」

「そうだね。準備が終わったらここに集合で。

 それじゃあ一旦かいさ〜ん」


ユリスの号令で探索の準備を始める一行。

とは言っても全員収納持ちなため、必要なものは大体準備し終わっている。せいぜいが戦闘用の装束に着替えるくらいだろう。


準備を終えて再度集合した3人はダンジョン制御機構がある部屋へと入っていく。

ダンジョンレシピの使用方法は適当な構築版を嵌めてその上にレシピの紙を乗せるだけだ。


「これでダンジョンの生成をすればいいはずだけど…準備はいい?」

「おっけーよ」

「問題ありません」


3人は緊張の面持ちを互いに見せながら構築版へと触れる。

そして作られたダンジョンゲートを潜った先には、真っ暗闇の空間で篝火に照らされながら佇む一匹のネズミの姿があった。


「チュ?これは驚いたでチュね。

 随分と久々な来客でチュが…人間、でチュか?」

「ネズミが喋った…魔物なのでしょうか?」

「喋る魔物なんて聞いた事ないけどね」

「チュアアァ…!!いきなり失礼な人間でチュね!

 ワガハイの名はネズ夫。神に仕える聖獣でチュよ。

 知性の欠片もない魔物なんかと一緒にしないでほしいものでチュ!」

「うーん…見た目は可愛いのに」


魔物と勘違いされたネズ夫は憤慨しながら2本足で器用に歩いてくる。その姿を見たシエラはネズ夫の仕草があまりにもおっさん臭かったためか残念そうな面持ちをしている。


「聖獣ね…初めて聞いたけどどういう存在なの?」

「さっきも言ったでチュ。聞いていなかったんでチュか?

 知性を持ち、神に仕える獣。それが聖獣でチュ」

「ということはこのダンジョンは神に関係しているのでしょうか?」

「そうでチュ。ここは遊戯の神と勝利の神が共同で作った遊戯場でチュ」

「遊戯と勝利の神…あまり馴染みのない神ね」

「勉強不足でチュね〜

 まあ、ダンジョンにしか関わってない神もたくさんいるでチュからそれも仕方のない事でチュか」

「ふ、ふーん…それでここはどんなダンジョンなのかしら?」

「チュッチュッチュッ、ようやく聞いてくれたでチュね!」


3人それぞれに対してどこか煽りつつも律儀に答えを返していたネズ夫は待ってましたと説明を始める。

3人も少々イラッとすることはあるものの、説明してもらはない事には情報を得られないため、大人しく対応している。


「ここで開催されているのは…レースでチュ!!」

「…レー、ス?」


今までダンジョンでは戦闘しかしてこなかったためだろう。3人は予想外の答えに困惑して言葉が出ない。


「混乱しているようでチュね〜?

 でも特殊ダンジョンはこんなのばっかりでチュよ?純粋な戦闘もないことはないでチュが少数派でチュね」

「なるほど…レースの具体的な内容は?」


いち早く復帰したユリスは当ダンジョンの情報を収集し始める。なぜ他のダンジョンについて詳しいのかなど疑問も多数浮かぶがそれらは後回しである。


「本来なら色々とあるのでチュが、一回クリアするまではワガハイ相手に障害レースをしてもらうでチュ!」


ネズ夫がそう宣言した途端ユリス達のいる空間全体が照らされてその全貌をあらわにする。

ユリス達のいた場所は周囲を奈落に囲まれた塔のような足場。そこから2本の道が真っ直ぐに伸びており、その道を辿った遥か先にゴールと書かれた横断幕が掲げられていた。


「なるほどね〜

 この道でレースするってわけね」

「左右の違いはあるのでしょうか?」

「ワガハイは卑怯者ではないし、構成は同じでチュ。

 ただし、人数差によってハンデが発生するでチュ」


ネズ夫のいうハンデとは障害の難易度が変化するというもののようだ。

人数が多い事で簡単になる障害もあれば難しくなるものもある。それらをできるだけ同程度の難易度に調整するためのハンデなのだろう。


「落下した場合は戦闘不能として扱われるでチュ。

 1人でもワガハイより早くゴールすれば景品をあげまチュが、全員で勝利とかの条件を満たすと景品のグレードが変動するでチュ」

「他にルールは?」

「ないでチュ。

 それで、早速始めまチュか?まさかやらないなんて言わないでチュよね?」


相変わらず煽るような口調であるが、どことなく急かしているかのようでもある。

レースの開始を迫るネズ夫を前に、ユリスは決断を下す。


「うん、じゃあ試しに一回やってみようかな。

 何回でも挑戦できるんでしょ?」

「ダンジョンに入り直せば何回でも可能でチュよ。

 チュアァッ!!それじゃあ始めるでチュ!そっちのスタート地点につくでチュよ」


気合いを入れたのだろう。大きく一声鳴いたネズ夫の指示に従って、3人はスタート地点へとスタンバイする。


「あそこにある光が赤から青に変わったらスタートでチュよ。

 チュー…『ランダムコースクリエイト』発動!でチュ」


ネズ夫が何かを発動したと思ったら、目の前の道に急激な変化が訪れる。道幅が伸縮する、分かれて移動し始める、回転するなど好き勝手に動き始めたのだ。


「予想以上に動いてる…アスレチックコースとしてはそれなりに難しそうかな?」

「3人だからでしょうか?直線コースの道幅はあちらより広めですね」

「途中にあからさまに怪しい広場があるわね。

 あー…どことなくギャザリングを思い出すわ」

「とりあえず最初だし正攻法でいこうか。僕が先行して行くから2人はついてきて。

 あ、空中移動と妨害はなしでお願いね」

「はーい」

「分かりました」


3人とも当然のように空中を移動する術を持っている。そして、走りながらネズ夫を攻撃する程度も難なくこなせるだろう。しかしそれらはユリスの指示により禁止される。

条件次第で景品のランクが変わるという発言も考慮はしているのだろうが、ユリスのワクワクとした表情を見るに、初回だしそっちの方が楽しそうというのが本音だろう。


「それではカウントダウン開始でチュ!

 …さーん、にー、いち…スタート!!…でチュ」


ネズ夫の方はスタートのタイミングを正確に把握できているのだろう。カウントダウンから少しだけ間が空いてからの急なスタートだ。

カウントダウンのリズムで飛び出そうとしていたせいで一瞬制動したユリスは出鼻を挫かれた形になってしまった。


「せっこっ…!あのネズミ微妙にタイミングずらしてきたよ」

「初見だから通じる戦術ね〜

 卑怯者じゃないなんてどの口が言うのかって感じだけど」

「見事にハマってしまいましたね。思った以上に差が開いていますよ」


だが、走り出した3人の心に焦りはない。

現在のネズ夫のスピードから十分に追いつけると判断したためだろう。実際のところ、最初はただの直線なので3人のAGIからしたら追いつくだけなら簡単なのだ。問題なのは障害が出てきてから。


最初は回転床だった。とはいえ水平方向への回転なので端で立ち止まればいいだけだ。大した障害ではない。

次は飛び石、移動床と続くも全て直線状に配置されていたのでなんてことはなかった。

前を走っていたネズ夫を楽々と追い抜いてしまったくらいだ。


「序盤だからなのか簡単なのばかりですね」

「でも次は怪しい広場よ」

「今はこっちが先行してるし内容は分からない。

 何が起きてもいいように準備しておいてね」


そしてユリス達は3人揃って広場へ足を踏み入れる。

すると、広場の四方に光の障壁が展開され、3体の石像が落ちてきた。


「ガーゴイルね」

「一匹だけ光ってるのがいますね」

「とりあえず、光ってるのから集中攻撃!」


ユリスの指示にて攻撃を開始する3人。

だが、それぞれの攻撃は異なる個体へと命中する。


「ん?(はい?)(え?)」


そしてガーゴイル達は何をするでもなく、光となって消えてしまった。


「「「えぇ…?」」」


これでガーゴイルを倒した事になったのだろう。広場に展開されていた障壁が跡形もなく消えていく。


「どういうこと?」

「とりあえず考えるのは後!進むよ!」

「承知しましたっ!」


流石に一撃で倒せる程度の強さだったとは考えにくい。しかも集中攻撃と指示されたのに実際に攻撃した対象はバラバラだった。つまりは何かしらのギミックがあったのだろうが詳細は不明だ。

疑問が尽きない様子の3人だが、今はレースの最中であるためすぐに走り出す。先行しているもののそこまで差が開いているわけでもないのだ。

ちらっと後ろを見やったユリスが1体のガーゴイルを一撃で屠り、先に進もうとしているネズ夫を確認する。


スタート前に見た距離感からするとそろそろ折り返しに差し掛かるあたりだろうとユリスは予想しているが、現在地からゴールまでの距離を把握することはできない。

なぜならば目の前にはユリスの身長の3倍はあるブロックが階段状に配置されており、視界に壁を築いているのだ。しかもなぜかこの区間だけ左右に障壁があるため、横から顔を出して確認することもできないでいる。


「はあ…ふっ…ん、しょ」

「このコース結構いい運動になるわね」


一段ずつよじ登るもしくはジャンプしなくてはいけないため、序盤に比べて運動量は急増している。レイラなどは既に息が切れ始めてしまっているほどだ。

しかも全員がブロックに乗っていないと次のブロックへ移動できないという仕様なため一段一段登って行くしかなく、地味に時間がかかってしまっている状況だ。


「ようやく頂上…ああ、やっぱりこの区間で折り返しだね。残ってるのは難易度が上がったアスレチックに2回目の広場か…」

「後は降りるだけだと思ってたのに…またすぐに登りですか…」

「レイラちゃん頑張って!ここを乗り切ったら後は平坦よ!」

「登ってからはちょっとスピードを上げてかないと差が縮まらなさそうだね。

 レイラ、まだ頑張れる?」

「…ふぅ…頑張りますっ!」


途中でネズ夫には追いつかれ、さらには少しずつ差をつけられている状態だ。もっとも、移動制限のあるこの区間では人数が少ない方がスムーズに移動できるのでこの結果は仕方ないと言える。この後は一度降りてから再度同じ高さまで登らなくてはいけないので、この区間を抜ける頃にはかなり差が開いてしまうことだろう。

だが、この区間がネズ夫有利ということはどこかの区間ではユリス達が有利なはず。人数差による有利不利をなくすためにハンデを設けているのだからこの区間の仕様もその一環なはずなのだ。


やっとの思いでブロックの山を登りきったユリス達はレイラのスタミナと相談しながら出来る限りペースを上げていく。

後半のアスレチックでは前半の内容がごちゃ混ぜになった上でそれぞれがレベルアップしていた。

回転床は軸方向のバリエーションが増え、自転だけでなく公転までするように。移動床は軌道が直線から平面に。飛び石では一定周期で飛び石の上スレスレを横切るブロックが配置されるようになっていたのだ。

だが、ユリス達とネズ夫のコースを見比べるとユリス達の方が明らかに足場の数が多く、サイズも大きかった。それ故にユリス達はルート変更を何度も行なうことで、ほとんど立ち止まることなく先へ進むことができている。一方のネズ夫はルートが1つに限定されており、タイミングを図るために立ち止まる場面がちらほらと散見される。

そのおかげか一度は大きく開いた差が再び縮まっていく。


そうして最後の広場のみを残す段階となった両サイドの差はほとんどないと言っていい状態だった。


「多分あの広場も難易度が上がってるんだろうね」

「さっきは何が起きたのかよくわからなかったからね〜

 …どうしよ?すぐに攻略できなかったら多分負けよね?」

「ここまで、頑張ったのに、負けるのは…」


最初の広場ではガーゴイルの数に違いがあったものの、どちらも一撃にて攻略しているためどのようなハンデがあるのかは不明だ。

おそらくネズ夫は攻略法を理解しているだろう。つまり、このレースの勝敗はユリス達がどれだけ早く攻略法を見出すかにかかっているのだ。


「ずっと考えてたんだけど、人によって違うガーゴイルが光ってるように見えてたんだと思うんだよね」

「確かに、そんな感じ、でしたね」

「でもギミックがそれだけとは思えないのよね」


(確かに一撃だった理由は分からない…とにかく光ってるやつを各自で攻撃していくしかないか?)


「うーん…あ、どうせならこういうのはどう?」


最後の広場の戦術に悩みながら広場へと続く直線コースを走っている最中、シエラがした提案は―


ネズ夫に先行して最後の広場へと辿り着いた3人。

落ちてきたのは9体のガーゴイル。そして赤青緑の光をそれぞれ3体ずつ纏っていた。

もちろん3人の目には違う個体が光っているように見えている。

それらを確認したシエラとレイラはおもむろにユリスの背中へと両手を手を当てる。


「それじゃあユーくんお願いね!」

「お願いしますっ!」

「おっけー!」


ユリスが行なったのは『干渉』、『調律』、『操作』の3つのスキルを駆使して3人の魔力を混ぜ合わせ、ひとつの魔術を発動するというものだった。有り体に言ってしまえば合体技である。


「こんな感じで…どうだっ!」


そうして出来上がったのは広場全体へと吹き荒れる大きな竜巻。ではあるがあくまでそれは外側から見た場合。ユリス達の目の前には舞い乱れる風の刃と切り刻まれていくガーゴイル達。


シエラが提案したのは全員の魔力を混ぜた範囲攻撃だ。各人で光る対象が異なること、最初の広場では自分が光っているように見えたガーゴイルを攻撃したら突破できていたことから思いついた作戦である。全員の魔力を混ぜればどの個体が光っていても最初と同じ条件を満たせるのではというなんとも強引な内容だ。


だが、その作戦は見事にハマってしまった。

数秒で3体が消え、直後にまた3体。最後に残った3体も間をおかずに消えてしまったのだ。


「全部消えました!」

「やったわ!ユーくん、もう止めていいよ!」

「あ、ごめん。これすぐには止まんないや。

 障壁張ったままにするからこのまま移動ね?」

「分かりました!じゃあ手をお借りしますね!」

「あっ、私も〜

 万が一障壁から出ちゃったら大変だからね?」

「あー、はいはい。じゃあ走るよ!」


目前に迫るゴール。

竜巻から勢いよく飛び出してきた3人は仲良く手を繋いだまま、全員同時に横断幕の下を走り抜けるのであった。


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