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40話 クラス1位

「負けてしまいました…」

「よく考えて動けていたと思うけどね。

 ルイスに剣を使わせるくらいに追い詰めることができたんだし上出来じゃないか」

「それはそうですけど…何ですかあの強さは!まるで別人じゃないですか。

 あれだけの腕を持ちながら使おうとしないなんて、こちらを馬鹿にしているとしか思えません…!」

「はいはい、落ち着こうか。

 ルイスも盾に慣れるためと始めに言っていたでしょ?

 何か防御主体に変更せざるを得ない理由があったんだろうさ」


頬を膨らませてぷんすこ怒っているレイラを苦笑しながら宥めているユリス。側から見ると、いちゃついていると思われても仕方ない状態である。


「むー…理由ですか?」

「ああ、内容は知らないけど…

 盾だし、考えられるとしたら…誰かを守るためとか?」


そう言って、少し離れたところで似たような構図でエリーゼに文句を言われているルイスを見遣る。


「なるほど…素敵な理由ですね。それなら納得できそうです」


ユリスの周囲にはとにかく恋バナ好きな女性が多い。レイラもその1人のようだった。

そんな会話をしている間にも残りの模擬戦は進んでいく。不機嫌だったレイラもその間ずっとユリスの隣に座って邪魔されることなく話をする事ができたため、模擬戦が終わる頃には上機嫌だ。

ちなみに、1回戦敗退グループの順位はサミュ、カミラ、アーリアの順であった。



「おやおや…そんな平民に媚びているとは貴族にあるまじき行為、フォーグランド嬢も落ちたものですな」


しかし、とある男の声が聞こえてきてレイラの機嫌は再び急降下してしまう。

2組のダンジョン探索授業が終わったのだろうジラードがわざわざ第1アリーナまでやって来た上に話しかけてきたのだ。それも嫌味たっぷりに。


「先ほど貴女が負けたのも平民のようですし、不甲斐ないですねぇ?これでは貴族の威厳が落ちてしまいますよ。ああ、これはあなたに限ったことではありませんでしたね」


どうやら結構初めの方から見学をしていたようだが全ての試合が終わるまで待っていたようだ。

そもそもの入学試験の成績で言えばジラードもユリス達平民の3人に負けていることになる。それに気づいていないのかは不明だが、自分の事を棚に上げて第2種の貴族4人に対して嫌味を言っている状態なのだ。


「いい加減に…」

「レイラ、こいつって確か第3種だったよな?」

「…?ええ、そうだったはずですが」

「なら既に成績でここに居る皆よりも劣っていると証明されているんだから気にする必要はないだろ。ただの負け犬の遠吠えだ」

「!!…ふふ、そうですね」


地味にユリスも頭に来ていたのか、はたまた何か考えがあるのか珍しいことに口調も少し荒く、相手を馬鹿にするような発言も出ている。

そのユリスの目の前には動きが固まったジラードの姿が。

直後、表情は歪み、狂ったように笑い出す。


「くっ、ふふふ…はははは…ひゃーはっはっ!

 よくもこの俺様を馬鹿にしてくれたな平民が!女の後ろに隠れていた狐の分際でいい気になるなよ…!

 おい貴様、すぐに下に降りろ!しっかりとその体に恐怖を刻んでやる!

 まあ、今から泣いて謝れば許してやらんこともないがな!」


見事な3段笑いを披露したジラード。どうやら標的をユリスに変更したようだ。

しかしこの男、一見キレている様子ではあるがこの場で襲いかからないだけの理性は残っている。それどころかステージでの戦闘を促したり、謝罪と引き換えの戦闘回避案を提示したりと妙に冷静な面も持ち合わせている。もしくは自身の保険を用意しているのか。


「おやおや、何だいこの状況は?

 まあちょうどいい機会か。ユリス、あんた模擬戦を受けな。こいつは挑戦する権利は持っているからね」

「おお!流石はカルナック先生、話がよくお分かりのようだ。

 おい平民、聞いたな?さっさと下に来い」


そう言い残してジラードは先に降りて行ってしまう。


「先生?受けるのは構いませんが、いい機会とはどういうことですか?」

「ああ、あいつは成績は第2種レベルなんだがプライドが無駄に高すぎて他者を見下す傾向にある上に無駄に精神が頑丈だから人格に問題ありとして第3種に落とされているのさ。学園長からも要注意と言われている程だ。

 だから、見下している相手に手も足も出なかったらプライドも折れてくれんじゃないかと思っていたんだよ。ちょうどいいとはそういうことさ。

 それじゃあ私が審判をするから下に降りてきてくれ」


成績はいいという情報に周囲のほとんどは驚愕している。特に3人娘の驚愕っぷりは絶叫レベルに凄いものだった。


(さて…そういう事なら様子見せずに一撃で決めたほうがいいかな?

 ただ、昼間のことを鑑みるに…カウンターにするか)

 

ユリスはもちろん模擬戦は受けるようだ。

だが気になるのは昼の戦闘だ。皆、体勢を崩したジラードにとどめ刺そうとした時に異変が起きている。

ならばとユリスはカウンター気味に一撃で葬ることにしたようだ。


「よく逃げなかったな平民。その度胸は誉めてやろう。

 だがその身にあまる勇気、それは蛮ゆ…「いいからさっさと位置につけ」…このガキが…!」

「私としてもさっさと始めたいから2人とも位置につきな!」


放っておくと長々と話をしそうだと判断したユリスは挑発ついでに話を遮る。ちなみに、年齢は同じであるがユリスの身長がかなり低めなために子供に馬鹿にされている感じになっている。

ミランダも同様に長くなると思ったのかユリスの発言に乗っかり、準備を促す。

ミランダに言われたからかジラードも素直に開始位置へ。


(やっぱり、なんか妙なところで素直なんだよなぁ…ああ、権力には従順とかそういうタイプか?)


「それでは…初めッ!」


よほど頭にきていたのか開始と同時にジラードは罵倒しながら一直線にユリスの方へ走っている。

対するユリスは冷静に『過剰充填(オーバーロード)』を右腕で発動、引き絞り待ち構える。ヴェルサロアから禁止されているのは他スキルや奥義との併用なので、単体で使用するだけなら問題はない。

そして、ジラードの剣の振り下ろしを格闘アーツ『正拳突き』で迎え撃つ。

ユリスの右腕は剣を粉砕し、そのままジラードの胸に直撃。その肉体を跡形もなく吹き飛ばしてしまった。

光となってステージ外へ放り出されたジラードは呆然としているのか顔を俯かせた状態のまま動かない。

しばらくしてあげた顔は強張っているのかうっすらと笑みを浮かべているような状態になっていた。


「ひぃっ…な、何なんだお前は!?くそっ…次はこうは行かないからな。

 『覚えてろ!!』…」


あまりに呆気ない幕引きにジラードは格の違いを思い知ったのか、ユリスを見つけた途端に薄ら笑みを浮かべていた顔が明確な恐怖に染まってガタガタと震え出し、捨て台詞をしっかりと吐いてから逃げ去っていった。


「ふむ、実力差は思い知ったようだがプライドは健在か…これで、少しは大人しくなってくれるといいんだが」

「まあ、あれは無理でしょう。おそらく「ユリス」…ん?」


2人の会話を遮るようにユリスを呼ぶ声が聞こえる。

声がした方に顔を向けると、いつの間に降りてきたルイスが気合十分といった様相で立っていた。


「ああ、ルイスか。どうしたんだ?」

「いや、こんな時に悪いんだが俺とも模擬戦をしてくれないか?

 さっきのを見て戦ってみたくなっちまってな」

「なんだそんなことか。別に構わないよ。

 先生もいいですか?」

「ああ、ルイスも第2種で1位になったから条件は満たしているし問題ないよ」

「そうか!サンキューな、ユリス!」


そうして、続け様にユリスとルイスの模擬戦がはじまる。が、ユリスの姿は先程とは違っていた。

身長の倍くらいの長さの棒を持っていたのだ。

といってもユリスの身長が低いから長く見えるだけで、実際は何の変哲もない棒である。準備をするといって訓練用の武器が置いてある倉庫へ向かったのだが、出てきた時に持っていたのだ。

つまりこの棒は備品ではあるのだが、何故そんな物を持っているのか、格闘を得意とするのではないのか、ルイスは色々と疑問を抱えつつ開始位置につく。


「初めッ!」


ミランダの合図で試合は始まったが両者すぐには動かず、互いの様子を窺いながらジリジリと近づいていく。

持っている獲物の間合いはユリスの方が長いが…先に動いたのはルイスだった。


「『スマイト』!」


選んだのは盾での突進。衝撃強化のアーツを使用しつつユリスの間合いギリギリから思い切って突っ込んだのである。しかし、それはあっさりと棒によって外側へ払われる。

その隙をついて短槍で突こうとするが、それよりも早くユリスの飛び蹴りが腹に突き刺さる。


「ぐっ…」


ルイスが思わず後ろによろめくが、ユリスは追撃をせずにその姿を見ているだけだ。

そこから何度か衝突があったが、毎度ルイスが一撃食らって仕切り直しといった流れである。

棒術についてもかなり洗練されているが、宙返りや棒を支えとした蹴撃などの目を惹く動きが多く見られ、どこかパフォーマンス的な雰囲気がある。

故にルイスは思う。明らかに手加減されていると。


「…何故追撃しない?

 手を抜くにしても馬鹿にしすぎじゃねえのか?」

「試合を申し込んでおきながら本気で戦おうとしない奴には言われたくはないけどな。

 お前が練習をしたがっている様だから付き合っているだけさ。ルイス、悪いことは言わないからさっさと剣を使ったらどう?」

「ああ、そうだな…確かにこれは俺の方が悪かったか。

 剣でなら本気でやってくれるんだよな?」

「もちろん…僕が今できる本気で相手しよう」


そう言って両者とも手に持っている武器を投げ捨てる。

ルイスは長剣、ユリスは薄手の手袋をはめているがほぼ無手と言っていい。

そして試合は再開する。が、それは観客にはほとんど見えないほど速い攻防だった。

ユリスは無手の筈だがアリーナには金属が衝突する音が鳴り響いている。本来であればどちらも攻撃を避けていくスタイルなのだが、お互いの攻撃が早いために防いだり受け流したりがメインになっているせいだろう。

何度目かの衝突が起きた後、音の停止と共にルイスの吹き飛ぶ姿が現れる。どうやら一撃もらったようだ。

そして先程とは打って変わってユリスは間髪入れずに追撃をする動きを見せる。


「させるかよッ!」


突っ込んでくるユリスに合わせて剣を横一文字に振り切る。


「残念、読んでるよ」


しかし、それも読まれていたのかユリスは上に前方宙返りをして躱し、そのまま勢いよく落ちてきて踵落としを繰り出す。

何とか直撃は避けたルイスだったが、先程までいた場所は大きく破壊されており、その一撃の威力の高さが窺える。ユリスの体格からは考えられないほどの勢いで落ちてきたので、アビリティ上昇以外のスキルを使用しているのは明白だ。


「チッ…何のスキルかは分からないが一撃が重すぎる。

 こっちのは一度使うと再使用まで時間がかかるってのに…だがまあ、このままこうしてても仕方ないか」


ルイスの雰囲気が変化し、何か仕掛けてくることを察知したユリスはわずかに笑みを見せる。


(ようやく本気になったな。

 調律スキルで重量増加させてみたが、地上だとHPダメージはそこまで上がらないな…でも衝撃はかなり大きくなるから予想以上に便利だな。空中からの振り下ろし系なら落下の勢いが増すおかげでダメージは結構上がるみたいだし。

 それにしても、やっぱり対人戦は難しいな…なかなか当たらん。このままだと少し時間がかかりそうだし、こっちも本気で奥義を…いや無手で使えるあれは突進するだけだし魔術を使うとするか)


両者奥の手を使用するようだとアリーナ全体が緊張に包まれる。

先に動いたのは、またしてもルイスだった。


「『雷鳴転身』!…ここだ、『雷の一振り』!」


雷を身に纏い、ユリスの後ろに瞬間移動して雷の如き1撃を振り下ろす。ルイスが思い描いていた攻撃はそのような流れであった。


「なっ…!?何でそんな所にッ!?

 まさかこれも反応したのかよ!?」


しかし、振り下ろすと同時にユリスの姿はかき消え、何故かルイスの後ろから着地音が聞こえたのだ。


(まさかうまくいくとは…ってか何だよ今のは。速すぎだろう…!

 嫌な予感がしたからミラージュステップで下がったが正解だったな。

 にしても最後に面白いものが見れた。だが、これで終わりだ)


実際のところユリスはルイスの動きを目で追えてはいたものの身体が反応できるレベルではなかった。それくらい速かったのだ。

しかし、何かしてくる事は分かりきっていたためにアーリアも使用していた移動系アーツで幻影を置いてバックステップし、隠密で気配を消すことで回避する事に成功。着地の音ですぐに居場所がバレてしまったが反撃するには十分な隙であった。ユリスは両腕に炎を渦巻かせるように発生させた状態で剣を振り下ろした体勢のルイスに向かっていく。


「くそっ…!……!?…っらぁ!」

「これで終わりだ…!

 ………えっ?」


ユリスの両手による掌底とそこから広がる炎の波動でルイスの体は光となって消えていく。


「勝者、ユリス!」


ミランダの宣言によりステージを降りたが、勝者であるユリスは自分の右手を見つめており、その顔には疑問の色が浮かんでいた。

そこへルイスがやってきて感謝の言葉をかける。


「ユリス!お前があれだけ強かったとはな。あの状態で完全敗北したのは初めてだったぜ!

 本気で戦ってくれてありがとうよ!」

「こっちこそ。久しぶりの苦戦だったし本気で戦えて楽しかったよ。

 対人戦闘なんてほとんどやった事なかったしね…」

「あれだけ動けてて対人戦した事ないとか…まあいい。

 それで、ちょっと聞きたいことができたんだ…悪いんだが今度時間取れるか?お前ならなんか知ってるかもって思ってな」

「ああ、いいよ。

 ちょうど僕もルイスに聞きたいことがあったからね」


両者笑顔であり、先程の戦いが本当に楽しかったようだ。ユリスは戦闘が好きではあるのだが、グリズリートレントが普通に倒せるようになってからは苦戦することがなくなり、戦ってもつまらないとしか思えなくなってしまった。しかも師匠であるサラは純後衛だからと接近戦の相手をしようとしなかったので魔術と生産以外の修行は全て魔物相手か案山子相手だったのだ。

その点ルイスとの戦闘は本気で戦っても打ち合うことができ、焦る場面もあった。そんな手応えのある対人戦闘は初めてで、初めて魔物と戦った時のような高揚感を感じることができたのだ。

ルイスも剣を使用した戦闘ではここ数年誰も相手をすることすらままならず、つまらなかったために普段は武器を変えていた。もちろん他にも重要な理由はあるのだが、つまらないというのもそれなりの割合を占めていた。つまり、両者とも多少なりとも戦闘狂の気があるのだ。


「ほら、楽しかったのは分かったからさっさと上へ行くよ!もう時間もあまり残ってないし、これから説明もしなきゃいけないんだ」


ミランダから促され2人とも観客席へ戻っていく。

何はともあれ、第2種、第3種の1位を退けたのだ。

この結果をもってユリスは特待生全体で文句なしの1位となったのであった。


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