41話 特待寮懇親会
「さて、それじゃあ順位も決まった事だし今後の順位決定戦について詳しく説明していこうか」
ミランダからの説明をまとめると
・年1回年末試験後に行う
・順位が2つ上までの人に挑むことができ、勝ったら順位の交換
・下の順位の方から指名していき、敗北か順位変更したらその日はそれ以上戦えない(挑みも挑まれもできない)
・1週間行い、最終順位が高い順に実技評価に加点
・第1種は1人なのでユリスは基本的に戦闘なしだが、各種2位までとならエキシビジョン戦をしても良い
・ユリスに挑む側は健闘すれば成績アップ(特記事項として加点されるため試験のカバーもできる)
ということのようだ。
第2種は人数が少ないため例年だと毎日目まぐるしく順位が入れ替わるらしい。
1年間でどれだけ多くの手札を用意できるか、もしくは分かっていても破られないような技能を身につけるかが鍵となるとのこと。
「よし、これで今日の授業は終わりだ。
明日からは教室に集合だから間違えないように。
それでは解散!」
ミランダの宣言を合図におしゃべりを始めたり体を伸ばしたりと各自思い思いの行動をとる。
ユリスも軽くストレッチをしているとレイラが「夕食の時間はダイニングにこれませんか?」と尋ねてきた。
どうやら女子の間で懇親会を開く事が計画されていたようだ。場所は寮のようなのでユリスはシエラを連れて参加することを伝える。
各々用事があるとしてその場は一旦解散したが、どうやら真っ直ぐ寮に帰るのはユリスだけのようだった。
「ただいまー」
「おかえりなさーい!」
ユリスはシエラの相手をしながら今日の懇親会の予定を伝える。
準備は女子達がするそうだが、レイラからの頼みもあるため一応見てもらうよう頼むと即座に了承された。話を伝え終わるとユリスは風呂場へ汗を流しにいく。上がった時には既にシエラは居なかったので準備に向かったのだろう。
開始予定の時間まで1時間以上空いていたので、10分前くらいに着いておけばいいかとユリスは少しゆっくりしてから食堂に向かう。
扉を開けると既に準備は万端だったのか全員の視線が一斉にユリスを射抜く。女子からは獲物を見つけたと言わんばかりの、ルイスからは非難と同情の視線を読み取ったユリスの頭には嫌な予感しか浮かばなかった。
恐らくはルイスは早めに来すぎたために女子達に話題を提供せざるを得なくなったのだろう。どんな話をさせられていたのかは女子達の視線とエリーゼの態度が物語っている。
「それではぁ〜
皆さん揃ったことですし〜
始めましょうかぁ〜♪」
「どうせ誰もやらないでしょうし、わたくしが音頭をとりますわ!
それでは皆さんとの出会いを祝して…乾杯!」
「「「「「「「かんぱーい!(乾杯!)」」」」」」」
懇親会が無事に始まり、皆まずは食事をとろうとするが、料理の前にはシエラが陣取っており手を出す事が出来ない。周囲からどうにかしろという視線を受けてユリスが前に出る。
「シエラ、もしかして全員の給仕でもするつもり?」
「うん、そうだよ?
私はこの寮では使用人だからね〜♪」
「…だそうだよ。はあ…なら僕はいつもの感じで用意してくれ。
ああ、そういえばちゃんと紹介してなかったな。この女性が前に言った使用人のシエラだよ。
給仕するそうだから要望を伝えればその通りに取ってくれるってさ」
「シエラ・ヴェルモットよ。
ただ、この寮にいるときはユーくんの使用人として振る舞うつもりだからよろしくね。
まあ、基本的にはこっちの方には来ないと思うけど、こういう宴会みたいな場では手伝うから相談してね」
「「「シエラ様!?」」」
「「…ユーくん??」」
レイラ以外が驚きと疑問の声を上げたが、貴族と平民で綺麗に反応が分かれる。どうやら準備段階ではレイラにつきっきりで他の人とは話してすらいなかったようだ。
ルイスとエリーゼは馬車でシエラに会っていたための疑問だろう。あの時も世話を焼いてはいたが、まだ呼び方は普通だったのだ。
一方で3人娘の方はシエラ様呼びである。不思議そうな顔をしているユリスを見るや否や、3人が捲し立てる様に説明をし始めた。
話をまとめると、どうも貴族令嬢の中ではシエラは有名なのだそうだ。
文武両道、容姿端麗をその身で体現するが如き女性であるが、1点だけ貴族としては変わっていた。それは、自分の伴侶は自分で決めるという信念を公言していたことである。そして両親もそれを容認。それを知った名だたる男達がこぞって言い寄ったが、表情ひとつ変えず全てを一刀両断してしまう。そして、結局は彼女の心を射止めた男は誰一人として居なかった。
そうして付いた異名が『不動の冷嬢』である。
親が決めた婚約者と結ばれる事がほぼ決定している若い世代の令嬢達は騎士団の巡回で見かけるその姿と伝説に憧れを抱いていたという。
そして、ある時からパッタリと見なくなったと思ったら、噂に聞こえた近衛騎士への昇格。まるで、後に運命の出会いが約束されている物語の主人公の様な生き方に若い貴族令嬢は夢中で、シエラをモデルにしたであろう小説がある程らしい。
そんな話を興味を示したユリスに対して3人娘がはしゃぎながら話している。
「『不動の冷嬢』ねー…
シエラってそんな風に呼ばれてたんだ」
「私はその異名嫌いなんだけどね。つけた人の悪意しか感じられないし。
大方、私に振られた男達が腹いせに付けたんじゃないのかしら…?」
「ええっ!嫌だったのですか!?
カッコいい名前ですのに…」
「ん、カッコいい」
「…今の子達ってこういうのが好きなのかしら…?」
「いやぁ〜
この2人みたいなのは少数派ですよ〜
2つ名そのものに憧れている子は少なくないですけどねぇ〜」
「そうなのね…
まだ若い方だと思ってたんだけどなぁ…」
どうやら2つ名は貴族の子供達の間では名誉なことのようだ。シエラは既にジェネレーションギャップを感じてしまったことに対して落ち込んでいるのか、少し表情が暗くなっている。
ちなみにそのせいでシエラの手が止まっており、未だに料理は取り分けられていない。
「4人とも話はそれくらいにして、まずは料理を取らせて貰えないかな?」
「あ…ごめん!すぐに取るね!」
ようやく全員に料理が行き渡り、空腹を思い出した子供達は全員無言で食べすすめる。ある程度食べたところでようやく満足してきたのか、段々と話し声が増えてくる。
話しているのはやはり3人娘で、早速とばかりにシエラを質問攻めにしているようだ。
他のユリス達4人はひとまず食べ切ってから先程の模擬戦について話し始める。
「なるほど、エリーゼさんが使っていたのは魔法を変化させたものだったのですね」
「ええそうよ。
といってもなかなか難しいから軌道を変えられるだけなんだけど」
「威力まで変化させられてたらレイラも危なかっただろうね」
「…ユリスさん、それが分かっていたのなら何故教えてくれなかったのですか?
勝てたから良かったものの…私に負けて欲しかったのですか?」
新しい環境に少し慣れてきたのだろう。
レイラの様子がこれまでと違い、少し態度が砕けたものになっている。
「そこまでは言ってないけどね。
ある程度は自分でも考えてもらわないと、強くはなれないでしょ?負けたら負けたでいい教訓になるとは考えてたかな」
「確かにそれはそうですけれど…なんか納得いきません」
ユリスの話を聞き、レイラは少しむっとした表情で抗議をする。ユリスから見ればとても可愛らしい態度で、顔がにやけないようにするのに苦戦中である。
そんな2人を見かねたのか、助け船がやって来る。
「確かに俺も負けたおかげでまだまだ先が長い事が分かったからな。盾は使っていくが、剣と両立できるように変えていくつもりだ」
「何だ、短槍にしたのは特に理由はなかったの?」
「ああ、剣だと戦いがつまんなくてモチベーションが保てなかったんだ。
盾には他の理由もあるんだがな」
「ふふふ…そうですか、そんな理由だったのですね?
でしたら止める決心をなさったのは懸命な判断かと思いますよ。
正直なところ、練習台にしか見られていない上に馬鹿にされているようにしか感じられないので腹が立っておりましたもの」
「お、おう…
そんなつもりは無かったんだが…その、悪かったな」
助け船かと思ったら巻き込まれてしまったようだ。
レイラが満面の笑みでルイスにチクチクと小言を言っている様を見たエリーゼが「だから言ったじゃないの…」と小さくこぼしており、前々から注意はされていたようだ。
流石に見かねたユリスがレイラを引き剥がしにかかる。
「レイラ、その辺にしておけー
ルイスも止めるって言ってるんだからそれでいいんじゃない?謝ってるし。
それに練習云々についてはレイラも人のこと言えないでしょ?特にエリーゼ戦なんかはそうだったし」
「はい?……あ」
「ちょっとあんた!
まさか私の相手をしている時に手を抜いていたっていうの!?」
「いえ、あれは他に手がなかったので…ぶっつけ本番でやってみて、上手くいったら精度を上げていけばいいかなって感じで……」
何とか抜け出した男2人は、そそくさと席を離して本題について語り合う。
「ふう…助かったぜ。
さてと、2人になるように誘導したって事は本題で良いな?」
「うん。大方の予想はついているけどね」
「そーかい。なら簡単に説明するぜ。
最後の攻撃の時になるが、なんか頭の中に“奥義を習得しました”って言葉が技名と一緒に思い浮かんできたんだ。あん時は他に手もなかったしとりあえず発動したんだがよ。さっきまではあれはただの気のせいで覚えたのはアーツかと思ってたんだが、ステータスを確認したら言葉通り奥義ってのが増えてた。なんか知ってるか?」
「うん、知ってるよ」
「本当か!?」
「ただ…教えてもいいんだけど、これは王族や一部の貴族にしか伝わっていない秘伝のような扱いみたいだからあまり言いふらすないようにね?
まあ1組のメンバー内でくらいなら大丈夫だと思うけど、3種以下や教員に詳しく知られたら面倒ごと必至だと思う」
「ああ、分かった」
何故そんな事を知っているのかという疑問は飲み込んだようだ。
「奥義っていうのはアーツの上位版みたいなものだ。
まず前提条件として一定以上の技量と該当するスキルを持っている必要がある。
その上で複数のスキルやアーツを組み合わせたり、特定のスキル発動下である行動をしたりとかの条件を満たすと奥義を覚える事が出来るんだ。
そういえばなんて名前の奥義だったんだ?」
「『電光石火』って名前だ。
にしても、俺があの時使ったスキルとアーツの組み合わせは前からよく使ってた筈なんだが…?」
「ふむ、あの時の動きとその名前を考えると先制攻撃の一撃を繰り出す感じかな?
まあ条件型のパッシブスキルだと予想だにしない場面で発動したりするし、たまに無意識でスキルを使う事もあるから多分それだろうね」
「そうか…まあ条件は別にいいか。
にしても何で先制攻撃だって分かるんだ?」
「ああ、あの時僕はそれまでのルイスなら絶対に反応出来ないタイミングで反撃すら間に合わない方向から攻撃したつもりだった。
事実、当たる直前までルイスの体は後ろを向いたままで腕も振り下ろしたままだった。けれど、その瞬間に右手だけ外に弾かれたんだ。そしてルイスの体勢もいつの間にか変化していたから、僕が認識出来ない速度で反応されたってことが分かったのさ。そのレベルの速さで正確に攻撃を当てるとなると先制補正が付いている技って事くらいしか考え付かなくてね。
本来あの技は両手の攻撃が揃って初めて効果を発揮する技だったんだよね。お陰で威力が半減したよ」
自身の技の効果については納得したルイスだが、ユリスの技については「あれで半減してんのかよ…」と中々受け入れられていない。
「…そういえばお前からも聞きたい事があるって言ってなかったか?」
「ああ、1つは奥義についてだから終わりだけど、もう1つはわざわざ盾を使う理由についてさ。
『スマイト』を盾で使うって事はさ、もしかして盾用の紋章は付けてないんじゃない?『チャージ』が使えるなら槍系の紋章だろうし、使わないなら剣用の紋章を付けておく意味がない。初期紋章とかパーソナルスキルにあるって言うなら別だけど」
「ああ、それはうちの村じゃ紋章がそう簡単には付け替え出来なかったからだな。槍じゃ剣のアーツは使えなかったが盾では一部使えるものがあったしな。
それでも盾を使う理由はユニークスキルのせいだよ」
『スマイト』は剣技の、『チャージ』は槍技の初期アーツであるが、実は他の武器でも形状等によっては発動可能である。
そこからその2つのスキルがある紋章を宿していると判断したのだが、何故1番使っていた盾用の紋章を宿していないのかとずっと疑問であったのだ。実際はただ紋章術持ちが近くに居なかったというだけの事。ユリスは早い段階から紋章術を持っている上、ほとんど紋章の入れ替えをしないので理由の候補として浮かびすらしなかったようだ。
ここでも感覚が麻痺しているのかと若干遠い目になりながらも、ユニークという興味を引く単語が出てきたのですぐに復活。
「ユニークか…内容は聞いても大丈夫?」
「ああ、問題ない。
俺のユニークスキルは『名誉の負傷』さ。
誰かを庇って受けたダメージの10%分を最大HPから引かれる代わりに、その分だけ庇った味方を強化するって言う効果だ。
減ったHPは1ヶ月くらいかけて徐々に戻っていくんだが、あまりダメージを受けすぎるとヤバいことになるって気づいてからは盾を使っているのさ。
…俺の後ろにはいつもエリーゼがいる。あいつを守らないって選択肢は俺の中にはないんだよ」
「なるほど…だそうだよレイラ、納得は出来た?」
「ええ、もちろんです!」
「なっ!?
おい、ユリスてめぇ…気付いていやがったな!」
ユリスの言葉に周囲を見渡したルイスは全員がニヤニヤしてこっちを見ており、先程の告白じみた言葉に聞き耳を立てていたことに気づく。エリーゼに至っては顔を真っ赤にして斜め下に俯いている。
「くそっ…俺だけってのも癪だ。こうなったら全員参加で暴露大会だ!
拒否はさせねえぞ!おい、ユリスまずはお前からだ!」
ルイスの唐突な提案に何故か全員臨むところだといった感じの雰囲気であり、ユリスも逃げられそうにないので諦めて参加することに。
話してもいい事は何かあったかと考えた末、シエラから側室候補として正式に打診されている事をバラす。憧れの人のスキャンダルに3人娘のテンションは爆上がりである。そして、このユリスの暴露を皮切りに何故か内容が婚約者or好きな人についてばかりに偏ってしまう。
その際に判明した事だが、3人娘にはそれぞれ既に婚約者がおり、全員第3種クラスにいるそうだ。
ユリス達がアリーナでジラードと戦っているところを見た猫獣人はグランといって、アーリアの婚約者らしい。
ちなみにカミラの相手がファーレンで、サミュの相手がリュートという名前のようだ。
その流れでシエラがユリスを時折抱き枕にしている事を暴露、直後のレイラの私もする発言やエリーゼの羨ましい発言、3人娘によるハイテンションでの追求等々、酒でも飲んでいるのかと疑わしくなる様な混沌とした懇親会が続くのであった。




